お題「雨、やまないな」 乱凪砂 激しい雨音が窓の外から聞こえる。
「雨、やまないな」
そうポツリと呟く。ソファに座って雨が落ちるのを静かに眺めていると、肩が沈むのを感じた。凪砂くんが私の肩に頭を預けてきたようだ。
雨の音に耳をすませるかのように沈黙が続く。その沈黙でさえ彼と過ごす時間は幸せだと感じる自分もいる。
「今日、残念だったね」
「うん……」
そうはいっても、楽しみにしていたデートが中止になった事には変わりない。雨をずっと眺めていると心も沈んでいき、感傷的な気分になってしまう。そんな時、彼が私の名前を呼んだ。
「ん、なぁに?」
「何だか、寂しいね」
「……うん。そうだね」
「また、いつか行こう」
「うん」
私の手を優しく取る凪砂くんのおかげで、冷えた心は温まっていく。それでもボーっと何かに取り憑かれたかのように雨が落ちる様を眺めてしまう。
「……雨も良いけど、私の事も見て」
ハッと我に返る。悲しいのは凪砂くんも同じだ。まずい。そう思い、咄嗟に彼の方を向くと綺麗な顔がすぐそこにあり、心臓が跳ねる。「なぎさくん」と呼ぶ言葉を唇で遮られ、軽く触れたソレは何度も雨のように激しく降り注ぎ私のこころを満たしていった。
外の雨音にかき消され、二人の吐息だけが静かな部屋に響いていた。彼の愛に応えるかのように繋いだ手を強く握り返す。二つの影を激しい雨音で包み込むように二人だけの世界にしばらく浸っていた。あぁ、好きだな。この時間がずっと続けば良いのに。私はそう思いながら彼だけを感じるためにそっと瞼を閉じた。