幼い頃から大切に育て上げられたその蛸は齢四つにして既にその才能、家庭教師さえも超えていた。
教えたこと以上の事を成すその姿に、彼が次期将軍であると唱える者に反対の声は無い。
齢七つにして既にもう自身が背負う物を理解していた彼は、時々であるがお偲びで外の街に繰り出す事が多くなった。
多くの場合は蛸の街なのだが、その日は偶々烏賊の街に繰り出した。
話には聞いていたものの烏賊を見るのは初めてで、同年代とは話すことが出来ない。
と言うのも、話し掛け此方を見た途端に、相手の烏賊は固まってしまうからだ。
更に彼は民の願いを聞くことが多いため専ら話すことは苦手の部類であった。
そして、彼は色恋沙汰には非常に鈍感である。
よもや話し掛けた烏賊が自身の余りの美に惚れてしまい固まっていることなど思いも寄らないのだ。
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