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    nktu_pdu

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    21歳の新田兄妹、長野で一人暮らしする新田のところへきた明音ちゃん。書きかけ。

    冬の長野にて。 ベランダの外にも雪が積もっていたので、窓を開けてすぐ近くの場所に小さな雪だるまを作った。大きさの違う2つの丸く固めた雪を重ねただけの、手のひらにも乗るような些細なものだけれど、明音は楽しくなって冷たくなった指先をこすり合わせながら微笑んだ。
    「何してるの? 寒いよ」
     声に反応して振り向くと、双子の兄の明朗が廊下から部屋に入ってくるところだった。風呂からあがったばかりの彼に、たしかに冬の夜の冷気は刺さるだろう。明音はごめんね、と謝ると、窓を閉め、汚れのついたガラスごしに、自身の作った雪だるまを指差した。
    「これ作ってた」
     明朗は明音の横に腰を下ろすと、ガラスに額をくっつけるようにして、雪だるまを眺めた。
    「かわいいね」
     そう褒めてくれたが、彼の声音に感情はさして多く含まれておらず、ただの相槌に近い、最低限の返事でしかないことは明らかだった。
    「うん」
     彼が寝間着代わりに着ているのは高校のときのジャージだった。これを着ている明朗を明音は何度も見かけているはずだが、蛍光灯の光のもと、物が雑多に散らばったワンルームのなかで見ると、知らない服のように感じられた。
     彼がこのジャージを寝間着ではなく強いられて日常的に用いていたときは、雪が降るたびに兄妹ではしゃいだものだった。今の明朗はすっかり雪に慣れてしまっており、最寄りのバス停から明音をつれて自室へ歩いてくるまで一度もバランスを崩すことがなかった。明音は視界の大半が夜の黒か雪の白で構成されていることにどことなく気分があがっていたのだけれど、明朗はさくさくと雪を踏みしめて歩き、雪が溶け始めて水たまりになった場所をさっと自然に避けた。明音は明朗が歩いたルートを一歩一歩たどりながら、この場所では自分がよそ者なのだと、ぼんやり感じていた。目の前を歩いていく男は、ずっと知っている兄ではあるが、明音の知らないものを知る男でもあった。彼が大学入学のために岐阜の実家を出て長野に移り三年近く経ったのだ、当たり前ではあるのだけれど、感覚としてしっくり降りてこない。
    「明日は九時に起きればいいよね」
     明朗は立ち上がると、部屋の中央に敷かれた布団の枕元で腰をかがめ、目覚まし時計の裏面をいじりはじめた。
    「明日は土曜日だから燃えるゴミの日じゃないの?」
    「あ、まずい。忘れてた」
     明音の言葉に、慌てた様子で明朗は立ち上がると、台所の三角コーナーやテレビ前のゴミ箱からゴミを集め始めた。三年近く経つというのにゴミ出しのリズムが身にしみていないのかと明音は首をかしげたが、明音が訪ねてきたことで何かバイオリズムのようなものが崩れたのかもしれない。そう考えて、明音はふふ、と小さく笑った。指定の半透明なゴミ袋をがさがさと言わせている明朗の背中に一瞥を向けると、明音は布団に潜り込んだ。ややあって、明朗がこちらへ戻ってくる。消すよ、と小さく口にして、彼は照明のひもを引っ張った。部屋の灯りが消える。目が暗闇慣れるまでの間、耳を澄ましてみたが、雪が降る音はせず、明朗が息をついて隣に体を横たえ、布団とジャージがすれる音がした。明朗の部屋に客用の布団はなかったから、明音と明朗は同じ布団で寝ることとなった。電気毛布の人工的な暖かさにもぞもぞと体を動かす。
     明朗は明音のいる側と反対を向いている。明音は手をのばすまでもなく触れられる距離にあるその背中を眺めていた。それは無防備だった。触れてしまえば、そのまま皮膚を通り過ぎて心臓まで指先を届かせることができそうだった。気を許している双子の兄妹だから――というわけではない。彼は所謂パーソナルスペースというものが、平均よりもかなり狭かった。ほとんど存在しないと言っていいかもしれない。会ったばかりの他人がすぐそばまで迫ろうが、驚きはするが拒絶することはないのだ。今、明音が手を伸ばして彼の背中に触れても――多少びくりと体を震わせるだろうが――、振り向いて呆けた顔で「どうしたの」と聞くだけだろう。
     明音の思考が伝わったのかわからないが、明朗がごろりと寝返りを打って仰向けの態勢になった。明音と明朗の間の距離がほとんどなくなる。動いた拍子に、明音のものとは違う人間の匂いが感じられた。それは明音が今付き合っている男性の匂いとも違うものだった。スキンケア用品のものではない、飾り気のない、生命の匂い。
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