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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
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    きたまお

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    夜空を見ているエルリ。

    ##エルリ
    ##進撃

    リヴァイが調査兵団に来て間もないころ、空を見上げているところに出くわしたことがあった。
     兵団本部から夜、帰ってきて馬房に馬をつなぎ、兵舎を見上げたら屋根の上にいた。リヴァイだとわかったのは、その影が非常に小柄だったからだ。いや、女性兵士を含めたら小柄な兵は他にもいる。エルヴィンは、それがリヴァイだと遠くから影になった全身像を見ただけで思ったし、もう少し近づいて月明かりが届いたとき自分の予想が正解であることがわかった。
     両手を腰にあてて、顔を斜めにあげている。風が吹き、長い前髪がゆれた。驚くほど細い腰だ。立体機動装置を使いこなし、また地下街で捕らえるときに格闘もしたから、細く見えても必要な筋肉がついていることは知っている。だが、こうして見上げてみると、その細さが際立って見えた。
     エルヴィンの両手ならば、指で作った輪にすっぽりと抱え込めるのではないか。
    「なんだ」
     頭上から声が振ってくる。声の後に、小作りな顔がこちらを向いた。エルヴィンがいることなどとうに気がついていたということか。
    「なにをしている」
    「俺の勝手だろう」
     吐き捨てるように言われた。言葉と一緒に実際、なにかの思いを吐き出したのかもしれない。
     エルヴィンは左右を一瞬見渡し、マントの下に手を差し入れて、ホルスターのグリップレバーに触れた。腰からアンカーを兵舎の壁面にむけて射出する。ガスの噴出とワイヤーの張力で一気に身体を上に引き上げる。数秒ののちには、リヴァイの隣に膝をついていた。
     リヴァイが眉間にシワを寄せて、エルヴィンを見おろす。
    「兵舎でむやみに立体機動装置を使うのはほめられたことではないから、黙っておいてくれるか」
     立ちあがりながら言うと、リヴァイの視線がついてきた。
    「なんだよ」
     見上げる形だとより一層、目つきの悪さが強調されるように思う。エルヴィンはリヴァイの横に立ち、さっきのリヴァイと同じように腰に手を当てて、顔を上げた。
     濃紺の空の六割ほどを覆うように灰色の雲がかかっている。地下街出身のリヴァイが夜空を見上げているのだから、てっきり一面の星空なのかと思っていたが予想が外れた。考えてみれば月明かりが出たり出なかったりするのは、雲が濃いからに他ならない。
    「ふむ、少し意外だ。曇った空が面白いか」
    「悪いか」
     地面から少し上がっただけなのに、屋根の上は風が吹く。上空はもっと風が強いのだろう。布を乱雑に重ねたような雲が形を変えて流れていく。薄布をはがされて、丸い月が姿をあらわにした。
    「月が出てくるのはいいな。こう、こっそりと秘密を吐露されている気分になる」
    「てめぇは黙っていられないのか」
     リヴァイの黒髪があおられ、額があらわになる。額までもが小さいな、と思った。
     後年、リヴァイに問うたことがある。なにを見ていたのか、と。リヴァイは覚えていないと言ったが「地下街には星どころか雲も空もなかった」と、横を向いてぼそりと答えた
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

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