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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
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    きたまお

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    なんでもない瞬間に自覚するえるり

    ##進撃
    ##エルリ

    自覚をしたのはいつだっただろう。
     ささいなことだった。そのとき同室の兵が、咳払いのうるさい男だった。飲み食いしたり、話していたりするときはでないようだが、ひどいと十秒に一度、えへん、ごほごほとやりだす。ほかにも緊張しているときなどはでないようだ。つまり、自室でくつろいでいるときなどには間断なく出続けている。
     最初は無視していたリヴァイだが、さすがに二日も続くと気になって注意した。少し静かにできないのか。その兵は、悪い、気をつけると言ったが、ちっとも治る気配はなかった。本人でも治すのは難しい、無意識の症状なのだろう。何度も責めたところで、変わりはしない。無視しようとつとめたが、起きている間じゅう、ずっと続くえへん、ゲホッ、たまには寝ていてもベッドから響くゴホゴホは、確実にリヴァイをいらいらさせた。
     一度気になってしまうとだめだった。その日も、二段ベッドの下の段から聞こえてきた咳払いの声にリヴァイの意識は完全に覚醒した。暗い窓の外から見える月からすると、まだ真夜中だ。眠ることを諦め、ベッドから飛び降りると部屋を出た。
     月明かりが廊下の端の窓から入ってきていた。暗い廊下を進んでいくと、扉の下から明かりがもれている部屋があった。遅くまでご苦労なことだと思っていると、ちょうど扉が開いた。
    「おっと、こんな遅くにどうした」
     まだ兵服を着込んだままの大柄な金髪が、水差しを手に出てきたところだった。
    「それは、こっちのセリフだ」
    「仕事が一向に片付かなくてね」
     すくめた肩の向こうに、うずたかく紙の積まれた机が見えた。日中は訓練や各班の視察に明け暮れる幹部らが、夜には膨大な書類仕事に忙殺されているらしいと噂では聞き及んでいた。
    「ご苦労なことだな」
    「待った、リヴァイ、時間があるなら水をくんできてくれないか。夕方からまったく余裕がないんだ」
     エルヴィンに水差しを押しつけられた。リヴァイの返事も待たずにエルヴィンは室内へと戻っていく。よほど切羽詰まっているのか。特になにをすることもなかったので、リヴァイはおとなしく水屋まで行って、かめから水をくんだ。分隊長の部屋に戻ると、主はとうに机について、文字のびっしり入った紙に目を落としていた。
    「ああ、ありがとう」
     親切ついでに、棚にあったコップに水をつぎ、机の端におくとエルヴィンは一気にそれを飲んだ。目はずっと書類に落ちたままだ。
     水差しを置く場所にも困るくらい室内は荒れていた。気になってリヴァイは暖炉の上に載っていた本を、順次棚に片付けた。次に部屋の真ん中におかれた大机と椅子の上の整理だ。椅子に文具などの小物や服が載っていては、使用に堪えないと思うのだが、この部屋の主はなにを考えているのだろうか。
    「リヴァイ、なにをしている?」
     エルヴィンから声がかかったのは、あらかた片付け終わってからだった。
    「見ての通りだ」
    「すまん、片付けてくれたのか。助かった」
     言って、エルヴィンはふたたび視線を机の上に戻し、また顔を上げた。
    「リヴァイ、いつからいたんだ?」
     この男は、自分でリヴァイに水をくみにいかせたことも忘れたのだろうか。机の上のロウソクで火の色に照らされた顔は、冗談を言っている表情ではなかった。よく見ると、疲労の色が濃い。いつもよりぼさぼさになっている前髪、白目の血走った目、無精ひげの生えかかったあご。
     そんななんでもないときにリヴァイは自覚した。
     自分は、この男のためにこの場に来たのだろう。
     なじんだ地下街を離れ、壁外へ行って巨人と戦うという無茶な集団の一員となったのは、この男がいたからだ。この男が持ちかけた取引のため、この男が戦えと言ったから、リヴァイはここに来た。
     自分の運命を垣間見た気がした。それを悟られたくなくて、口を開いた。
    「ヨハネスの咳払いがうるさいんだ」
    「ああ、彼はね……。あれは意思でどうにか収まるものではないだろうからな」
     エルヴィンはペンであごを叩く。
    「リヴァイさえよければ、この部屋は開けておく。いつでも来てもらってもかまわない」
    「俺が片付けなけりゃ、座る場所すらねえだろうが」
    「その通りだな。おまえが片付けてくれれば、私も助かる。悪い話じゃないだろう」
     どこがだ、と思ったが、口には出さなかった。
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

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