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    きたまお

    @kitamao_aot
    なんでもいいから書いたもの置き場。
    脳直に書いたら見直し一切せずにおいています。

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    きたまお

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    ただそこにいた兵士の話

    ##進撃

    その男が動くたびに、鎖がじゃらじゃらと鳴った。左の手首と両足首が太い鎖でつながれている。男には右腕がなかった。巨人に食われたのだと噂で聞いた。
     調査兵団第十三代団長エルヴィン・スミス、その人だ。
     兵士は憲兵団に所属していた。巨人がいる壁外へ行こうとする調査兵団のやつらは彼には理解できなかった。なにを好き好んでわざわざ食われに行くというのだろう。訓練兵団同期で調査兵団へ進んだものは、一握りの変わり者と、成績が悪くて憲兵団に入れず、駐屯兵団に入るためのくじ引きに負けたものだけだった。そのほとんどがもう死んでいる。五年前のウォール・マリア崩壊後の奪還作戦、その後のマリアルート確立のための壁外調査で命を落とした。
    「処刑台に連れて行け」
     宰相の言葉でエルヴィン・スミスの身体が、兵士の上司の手で引き起こされる。兵士は上司に手を貸すために近くに寄った。エルヴィン・スミスの顔が見えた。今、死刑を宣告された男は、薄ら笑いを浮かべていた。拷問で左目をつぶされ、あごにも無数の傷を負った男が笑っている。兵士はギョッとして動きを止めた。死の恐怖のあまり、この男は頭がおかしくなってしまったのだろうか。
     そこに、扉が勢いよく開く音がした。
    「ウォール・ローゼが突破されました!」
     駐屯兵団の報せに謁見場は騒然となった。駐屯兵団は住民の避難を指示し、宰相はそれはならないと叫んだ。ナイル・ドーク師団長がうろたえた声をあげる。憲兵団の上層部でも意見が割れた。扉は閉めさせない、と叫ぶものと、王政の命令が下ったのだと反論するもの。兵士はただ待っていた。どちらにしても、兵士は従うことしかできない。一介の兵士の意思などなにも意味を持たない。
     憲兵団の意見もまとまらないうちに、三兵団トップのザックレー総統が入ってきて、巨人の襲撃が嘘であったことが知らされた。駐屯兵団のピクシス司令もグルだった。ピクシス司令はとうとうと語った。
    「人類を生かす気のないものを頭にしておくよりはましでしょう」
     ああ、そうか。今の王政のままだと、人類は数を減らすだけなのか。兵団の上層部が、人類を多く救うであろう判断をしたのだ。
     ドーク師団長に言われ、兵士はエルヴィン・スミスの手かせを外した。エルヴィン・スミスはもう笑ってはいなかった。ドーク師団長に「おまえの勝ちだな」と呼びかけられたエルヴィン・スミスは厳しい表情で言った。
    「人類は、より厳しい道を歩まざるを得なくなったぞ」
     その言葉の真意を、兵士は理解することができなかった。
     それから四年の歳月が流れる。新しい女王が立ち、ウォール・マリアが奪還された。壁の外にも人類がいることが公表され、壁の外の人類は壁の中を敵視していることが発表された。いつのまにか巨人はすべて滅ぼされていた。
     兵士には関係のないことだった。兵士は壁の中で暮らし、壁の中で勤めていた。
     マーレという国が海の向こうから攻めてきたと聞いた。調査兵団につかまった捕虜というものの姿を兵団本部で見た。それでも兵士には関係のないことだった。
     だが、調査兵団がマーレへ攻め入り、戦勝したという報じられた。四年前のウォール・マリア奪還作戦の立役者であり巨人になれるというエレン・イェーガーの戦果とのことだった。兵団内はだんだんきな臭くなってきた。兵団本部の意向に従わないエレンから力を奪うべきだという派と、エレンをたてて海の向こうの国へ力を見せつけるべきという派で対立した。一般にまで騒ぎは飛び火した。
     そして、シガンシナ区が戦場になった。空から攻めてきた巨人とエレンの巨人が争いあった。兵団上層部のほとんどが、突然、無垢の巨人に化けた。壁が壊れ、中から真っ赤な巨大な巨人が現れた。皮膚を持たず、肉の断面をさらしたような巨人は、以前マーレから襲ってきたという超大型巨人というもののようだった。
     壁の巨人たちは、すべてを踏み潰して歩んでいった。シガンシナの街を、建物を、シガンシナの人を、空から攻めてきたマーレの敵兵を。
     兵士は四年前にエルヴィン・スミスが言ったことの意味が今さらわかったと思った。
     人類はより厳しい道を歩まざるを得なくなった。
     四年前、王政幹部の言うとおりにしたら、調査兵団とその協力者は死に、壁の中の人類は数を減らしたかもしれない。しかし、あのときに彼らを殺しておけば、壁から現れた巨人に街が踏み潰されることはなかったのではないか。人類はまだましな道を歩んだのではないか。
     兵士はただそこにいて見ていた。
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    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん2今日の現場も一人で死亡した老人の住まいだった。大きな庭のある戸建ての二階で老人は死んでいた。老人には内縁の妻がいたが、折り悪くその妻は姪と一緒に十日間の海外旅行に出かけていた。家の状況から見て、老人は内縁の妻が旅行にでかけた初日の夜に倒れたようだった。さらに悪いことに、寒がりの老人は自室の暖房を全開にしていた。
     年齢のわりに老人は身体が大きかったようだ。ベッドに残された痕跡でそれを知ることができた。おそらく老人はリヴァイよりも二十センチ以上は背が高い。二階の部屋は天井が傾斜していて、ベッドは天井が低い方の壁にぴたりとくっつけておかれていた。
     リヴァイが最初にやることは、遺体のあった場所に手をあわせることだ。神も仏も信じてはいないが、これだけは行う。手をあわせているあいだはなにも考えていない。一緒に仕事に入ったことのある同僚には経を唱えたり、安らかに、などいうものもいたが、リヴァイは頭をからっぽにしてただ手をあわせる。これはもう習慣だった。
     後輩と一緒に、まずマットレスを外す作業をした。いくらかはまだ生きている虫がいる可能性があるので、殺虫剤を全面に散布する。動くものがなくなったこ 1271

    きたまお

    TRAINING特殊清掃員のりばいさん「先輩はどうしてこの仕事についたんですか」
     行きの車の中で無邪気に後輩が聞いてきた。最近入ったこの後輩は、始めは短期アルバイトの大学生だったはずが、気がつけば正社員として登用されていた。なんか、これがオレの天職だって気がついちゃったんですよね、と大声で事務員に話しているのを聞いたことがある。
     リヴァイはウィンカーを一瞬出して隣の車線に割り込みながら、ぼんやりと答えた。
    「別にやりたくてやったわけじゃねえよ。たまたま、クソみたいな伯父が便利屋をやっていて、そのクソが仕事だけ受けて逃げ出した尻拭いであばらやの清掃に入ることになって、そこからまあたまたまだ」
     母の兄である伯父には、昔からいろいろ迷惑をかけられてきた。便利屋の仕事を借金とともに押しつけられたのが、最たるものだった。
     最初から特殊清掃だったわけではない。ゴミ屋敷の片付けなどを行っているうちに、割のいい仕事として特殊清掃ももちかけられた。六月にベッドで死亡して、一週間発見されなかった老人の部屋の清掃だった。遺体はすでに警察が持ち出していたがベッドには遺体のあとが文字通り染みついていた。床や壁にこびりついている虫を片付けると 674

    きたまお

    TRAININGエルリワンライの没軽くブラシをまわすと、面白いように泡が立った。その泡をブラシの先端にとり、リヴァイが無言であごをしゃくった。上を向けということだろう。
     もみあげから下、あごの先に向けてブラシが小さな円を描くように動いていく。なめらかな動きの中で、ブラシと肌の間に泡が立っていくのがわかった。すこしこそばゆく、しかし気持ちがいい。
     カミソリの扱いは慣れたもの、あっというまに泡をぬぐうように刃があてられて、エルヴィンの無精ひげは姿を消した。最後にぬるま湯の入った桶を寄せられ、身体をうつ伏せに倒せと言われた。
    「すすぐくらいは左手だけでも可能だとおもうんだが」
    「おまえにやらせたら、ベッドが水浸しになりそうだ」
     顔をすすぎ終わり、乾いた布で水分を拭き取るまでリヴァイの世話になった。
    「自分であたるよりも、ずっといいな」
     エルヴィンはすべすべになった自分のあごに手を触れる。
    「以前から、おまえのそり残しは気にはなっていた」
     ひげそりの準備は、エルヴィンが目を覚ます前からやっていたらしい。目を開けたらちょうど、至近距離にリヴァイがいて、手にしていた石けんを取り落としそうになっていた。すぐに医師が呼ばれ、 1958

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