はじめての、うたたね。お昼前、シメオンからメッセージが来た。
『お弁当作ってきたから一緒に食べよう?中庭で待ってるね!』
付き合いたての頃は、人前で二人になるのが苦手だったらしく、RADにいる間は、極力俺を避けていた。
しかし最近は、俺の努力の甲斐あって、少しずつ、恋人として堂々としてくれようとしている。
俺としては、それがとても嬉しい。
もちろん、一人の時間や友達との時間も大事だけれど、やっぱり、出来るだけ、シメオンとの時間を増やしたい。
そう思った俺は、授業が終わると、足早に中庭へと向かった。
大きく開かれた両開きの扉を抜けると、中庭に出る。
芝生の広場の中に大きな木がポツポツと立ち、そこが生徒たちの憩いの場となっている。
恐らく、どれかの木の所で待っているのだろうと思い見回してみると、一本の木の根元に、見覚えのある白いマントと、そこから艶めかしく出ている褐色の肌の後ろ姿が見える。
いたっ!
俺は、驚かそうと思って後ろからそっと近づく。
が、何か様子がおかしいことに気付き、後ろからひょっこり顔だけを出してみる。
そこには、恐らくお弁当が入っているであろうバスケットの隣で、木にもたれかかってすやすやと寝息を立てている恋人が座っていた。
俺は、シメオンの正面に回り、気持ちよさそうに眠るシメオンを見つめる。
文字通りの天使の寝顔がそこにはあった。
しばらく見つめたあと、そっとシメオンの隣に腰かけ、肩から手を回して、シメオンの頭を自分の肩に寄りかからせる。
そこまでしても目を覚まそうとしないシメオンの無防備さが、愛おしい。
俺は、特に起こすこともせず、シメオンが目を覚ますまで、隣でD.D.D.を眺めていた。
耳元でスースーと聞こえるシメオンの寝息が心地よかった。
数分後、もぞもぞと動く気配がして視線を向けると、ゆっくりと瞼が開き、透き通ったターコイズの瞳が現れる。
まだ、状況が把握出来ていないようでぼやぁっとするシメオンを眺めていると、突如、ハッとして背筋を正す。
「おはよう、シメオン」
「お、おはよう…」
声をかけると、バッと俺の方を向き、反射的に返事をする。
それからしばらくフリーズし、今どこで何をしているのかを必死に考えたあと、整理がついたのか、ゆっくりと口を開く。
「…俺、寝てた?」
「うん、気持ちよさそうに寝てたから、起こしちゃ悪いかなー、と思って、待ってた」
シメオンの顔を覗き込みながらニッと笑うと、シメオンが、申し訳なさそうに俯く。
「ごめんね、俺から、お昼誘っておいて」
「いいよ、このあと予定があるわけでもないし。何より、シメオンと一緒にいられるならそれがいい」
そう、何より、うたた寝しているシメオンを見て、ラッキー!と思ってしまったのは自分だ。
シメオンにとっては寝ていただけかもしれないが、ゆっくりのんびり二人で過ごせる、こんな貴重な時間は、なにかと騒がしい魔界ではなかなかない。
そんな思いを素直に口にすると、シメオンは目をキラキラさせながら俺の方を向く。
「MCっ…」
「ただ…」
「?」
俺は、一つだけ言いたいことがあったので、言葉を続ける。
首を傾げたシメオンのほっぺたを両手でムギュっと挟み込んで忠告する。
「あんなに無防備に寝顔晒しちゃダメだよ?それしていいのは、俺と一緒の時だけ、いい?」
「…はい」
恥ずかしそうに返事をしたシメオンの頭をぐしゃっと撫でたあと、俺は先ほどから気になって仕方なかったバスケットの方を向く。
「じゃ、ごはん食べよ!今日のランチは何かなー?」
「き…今日はね、サンドイッチ、作ってきたんだ!アイスティーも持ってきたよ!」
シメオンは、バスケットを引き寄せるとパカッと蓋を開ける。
その中には、レタス・トマト・ハム・たまご、色とりどりの食材が挟まれたサンドイッチと、空色の水筒が入っていた。
鮮やかなサンドイッチは見るからに美味しそうで、よだれが垂れそうになる。
「わーい!早く食べよー!」
俺はさっそく、サンドイッチをひとつ掴んで口に運ぶ。
そんな俺をにこやかに見ながら、シメオンが水筒から紅茶を注いで俺のそばに置いてくれる。
RAD内とは思えない穏やかな昼休みを、俺たちはまったり過ごした。