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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
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    pkmnSV アオキの日常SS

     年末に考えていた、寿司だと思ってシャリタツを確保するアオキのネタを昇華させました。疲労限界サラリーマンは、多分レジ袋を猫だと思うしシャリタツは寿司に見えると思うんだ……この後、ハッサクにカジッチュを送られて大いに困惑して欲しいです。

    これは寿司です。「小生は猛烈に感゛動゛し゛て゛す゛!!」
    「……違います」

    昼時のポケモンリーグの休憩室で、アオキは猛烈な竜の息吹を浴びていた。良い歳をした男――泣く子も黙る四天王の頂点であるハッサク――が年甲斐もなく感動に打ち震えて泣く様は、何度見ても見慣れない。おまけにその対象が自分となれば尚更落ち着かないもので、普通と平穏をこよなく愛するアオキは現実逃避をすべく視線を逸らした。頼むからこのまま自分を見逃してほしい。壁の染みになってしまいたいと思うことも、ぼんやりと次に食べるものを考えることで嵐をやり過ごすこともままあるが、今回ばかりは逃げられそうにもなかった。

    「アオキ!恥ずかしがることはありません、高みを目指すのはいつであっても遅くないのですよ!」
    「……だから、違うんですよ」

    盛大にため息をつきながら、アオキはがしりと両肩を掴んできたハッサクの力強さと熱意に慄いた。ポケモンバトルでもそうだが、腕っぷしでも自分はこの男には叶うまいと思う。もっとも、自分がどうしたって勝ちたいと足掻いて暴れ回ることはすまい。勝たない勝負は基本的にはしない主義なのだ。

     だが、この誤解だけは解かねば後々厄介となる。根本的な思い違いをどう正すべきか筋道を立てながら、アオキはどうしてこうなったのかを思い出すことにした。からの弁当箱から薄桃色のピンと反った尻尾がはみ出ている。全てはここからだ。




     今日も、アオキの営業スケジュールはパツパツでめちゃくちゃな代物だった。時間が埋まっていれば考えることはかえって少なくなって良いとも思うし、仕事だから仕方がない。ポケモンバトルで他人の人生を左右するよりも平和に時間は過ぎてゆく。歯痒いのは、年々自分の体が思うようには動かなくなってゆく燃費の悪さで、オージャの湖で一息をついた頃には青空が目に眩しいほどに疲れ切ってしまっていた。

    「お昼にしましょう」

    昼休憩をまだ取っていなかったことを腕時計で確認し、草原にハンカチを広げて座る。湖を見ながら休憩するというのもなかなか乙なものだ。おまけに今日は宝食堂の店主が自分を心配して持たせてくれた焼きおにぎり弁当まである。ペットボトルのお茶と、大好物の焼きおにぎり。添えられたレモンを絞った瞬間、爽やかな空気が弾けて胸が空く。湖に吹く風は清浄で、空の青さによく似合っていた。

     ぼんやりと思考を空にしたい時に限って、疲れているためか取り止めもない考えが次々と頭に浮かんだ。自分がこんなにも不毛な営業努力をしてまでポケモンリーグを、ポケモンバトルをパルデア地方に広めようとしているのは何故だろう?始まりは自分がポケモンリーグに就職したからだが、オモダカがトップについてからは全てが一変してしまった。彼女は誰もがひれ伏すほどの強さと熱意を持つと同時に、呆れるほどに真剣にパルデアの未来を憂えていた。ポケモンは生活のそばにいても、ペットに毛が生えた程度、ごく一部で家畜や研究対象として飼育される程度にしか扱われていない。パルデアの大地は肥沃だ、人間だけでほぼほぼやっていく生活で十分ではないかと誰もが考えていた。

     ポケモンバトルなど、ポケモンを酷使するだけで何の意味があるというのだろう。当初、パルデア地方ではポケモンバトルは趣味の延長線として用意された受け皿に過ぎなかった。他の地方ではスポーツリーグにもなるほど熱狂的にもてはやされていると聞き、オモダカの説明にリーグ社員の多くが驚かされたものだ。そうして、別段自分たちには関係ないだろうという意見でまとまりそうになるところを、オモダカが力強く押し流したのである。

    「確かに、ポケモンバトルは全てではありません。しかし、ポケモンバトルほど広く一般市民がポケモンの特徴、性質、生活での接し方を学べる機会を得られるものも現状ないのです」

    バトルでは自ずとさまざまなポケモンを駆使することになる。知らないポケモンを探そうという考えも湧き、同時に研究も促進されよう。新たなポケモンとの生活は、ひいてはパルデア全体の発展にも寄与するというのがオモダカの言だった。ポケモンという貴重な資源がみすみす使われずにあるというのは勿体無いのではないか。そしてポケモンにとっても、彼らが人間を理解することは種の繁栄を助ける一手ともなりうる。

     ポケモンバトルの面白さを多くの人間が理解し、切磋琢磨する。そして埒外な振る舞いに出ないようにするための模範としてポケモンリーグを確立させる。地域の交流センター化しつつあった各地のジムは見直され、ジムリーダーも一新された。各リーダーに二足の草鞋という二つ名を持たせたのは、知名度を上げることと身近に感じさせる手段だったのだろう。不幸にもアオキは選ばれてしまった。上司命令とあれば仕方がない。

     しかも、各ジムリーダーにはオモダカから厳密な使命が課せられた。ジム挑戦者の足取りを推測し、巡るごとに乗り越える楽しさと辛さ、達成感を得られる道筋をつけようとしたのだ。ただポケモンバトルを流行らせようというだけであれば、遊んでいるだけで良いというのに、いたずらに不出来なものを実らせるだけではいつしか爛熟してしまうと言いたいのだろう。オモダカは、単純に実りを待つだけの人物ではなかった。摘果している。あるべきパルデアの未来に相応しい人間が育つためには、彼女の筋書きをなぞるより他にない。厳しすぎやしないか、という意見は圧倒的な意思の前に淘汰された。日々をなんとなく過ぎゆくだけの人間にとって、荒波を砕くような岩壁は抗う気さえ起こさせない。

     そして、ポケモンリーグの最高峰を目指す道のりとして四天王が設けられた、そこまでは良い。アオキは何故か三足の草鞋を履かされる羽目になった。上司命令とあれば仕方がないだろう。しかし、自分の疲労度の多くが余計な仕事に起因しているのは間違いなかった。今の自分は、ジムリーダーでも四天王でもない、ただのサラリーマンのアオキである。ずっとこんな風に時間を過ごしていたい。朝に出社して昼休憩を過ごし、定時退社でフィニッシュ。完璧ではないか。

    「ご馳走様でした。……うん?おまけをつけてくれたんですね」

    焼きおにぎりは大層美味しかった。十分腹が膨れたと思ったところで、ペットボトルのお茶横に薄桃色の物体が目に入った。寿司だ。どう見たって寿司である。焼きおにぎりに寿司までつけてくれるとは、宝食堂の主人はなんと優しいのだろう。次に立ち寄った際に厚く礼を述べようと心に決めると、アオキはしばし寿司を見つめ、弁当箱の蓋を閉じた。今の自分は焼きおにぎりで十分だ。あとは夕方の休憩で自分を慰めるお供にしよう。今日の最後はポケモンリーグでの会議なのだ、絶対に疲れるに決まっていた。




     予定通りに会議は疲れたし、会議後の休憩(終わったらば議事録を提出するのもアオキの仕事だ)で寿司を食べようと思ったのは無理からぬ流れだろう。何故寿司なのかという疑問はついぞ浮かばなかった。疲労だ。全てはこの疲労がいけない。めざとくハッサクに見つかる前に隠せなかったのも疲労のせいだ。

    「アオキ、人の話を聞く際にはこちらの目を見なさい」
    「これは寿司、です」
    「いいえ、シャリタツさんですよ」

    そう、寿司はシャリタツだった。寿司によく似たポケモンなんて存在するのか?今では存在することが知られている。アオキも記憶の片隅に留めていたが、弁当箱に入れるほど寿司はシャリタツに似ていた。否、シャリタツが寿司に似ているのか。どちらでも良い、問題はこのポケモンがドラゴン属性という普通の自分には無縁の生き物である点で、ドラゴン使いの男が目をぎらつかせるのは必須の流れだった。腹筋に力を入れる。四天王の間で声をかけるよりも切実さを込めて、アオキは大きな声を上げた。

    「間違えて弁当箱に入れただけなんです!寿司だと思って、自分は寿司だと……」
    「スシ!」

    シャリタツが鳴く。そんな鳴き声なのか、ますます寿司ではないか。ボソボソとことの経緯を興奮するハッサクに伝えるも、十分の一も伝わっているか怪しい。頼むから伝わって欲しいし、自分はドラゴン使いになる気は毛頭ない。四天王用にひこうポケモンを扱う羽目になったが、他の四天王と被らないように細心の注意を払った。中でも、自分をいじってくることが目に見えているチリとハッサクには掠りもしないようにしてきたのである。

    「……事の経緯は理解しました。残念ですが、今回は譲りましょう。つまり、食べ物に似ていればアオキは興味を持つという事ですね」
    「はい?」
    「そうとなればアップリュー……いえ、もっと易しいものから始めるべきですね。宝食堂のご主人とも一度話をしてみましょう」

    嫌な話を聞いた気がする。期待していた軽食はなかったし、もう議事録を作ってしまおう。弁当箱を元のようにしまうと、アオキはノートPCを立ち上げた。考え事を始めたハッサクが怒る様子はないので、仕事を進めるならば今だ。恐らく、残業も一時間内で済むだろう。

     帰宅した後、寿司が枕元でこんにちはをした。寿司はなかなか腐らないものであるらしい。


    〆.
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。七夕を楽しむ二人と、夏の風物詩たちを詰め込んだお話です。神頼みができない人にも人事を超えた願いがあるのは良いですね。
    >前作:昔の話
    https://poipiku.com/271957/11735878.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    星渡 折からの長雨は梅雨を経て、尚も止まぬようであった。蒸し暑さが冷えて一安心、と思ったが、いよいよ寒いと慌てて質屋に冬布団を取り戻そうと人が押しかけたほどである。さては今年は凶作になりはすまいか、と一部が心配したのも無理からぬことだろう。てるてる坊主をいくつも吊るして、さながら大獄後のようだと背筋が凍るような狂歌が高札に掲げられたのは人心の荒廃を憂えずにはいられない。
     しかし夏至を越え、流石に日が伸びた後はいくらか空も笑顔を見せるようになった。夜が必ず明けるように、悩み苦しみというのはいつしか晴れるものだ。人の心はうつろいやすく、お役御免となったてるてる坊主を片付け、軒先に笹飾りを並べるなどする。揺らめく色とりどりの短冊に目を引かれ、福沢諭吉はついこの前までは同じ場所に菖蒲を飾っていたことを思い出した。つくづく時間が経つ早さは増水時の川の流れとは比べるまでもなく早い。寧ろ、歳を重ねるごとに勢いを増しているかのように感じられる。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。リクエストをいただいた、諭吉の「過去のやらかしがバレてしまう」お話です。自伝の諭吉、なかなかの悪だからね……端午の節句と併せてお楽しみください。
    >前作:枝を惜しむ
    https://poipiku.com/271957/11698901.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    昔の話 気まぐれに誰かを指名した後、その人の知り合いを辿ってゆけば、いずれ己に辿り着くらしい。世界広しといえどもぐるりと巡れば繋がっていると聞いたところで、福沢諭吉には今ひとつわかりかねる話だった。もっともらしい話をした人物が、自分に説諭しようという輩だったから反発心を抱いたということもある。その節にはいくらか激論を戦わせてもの別れになり、以来すっかり忘れてしまっていた。
     だが、こと情人である隠し刀に関していえば、全ての人と人が何某かの形で繋がっているのではないかという気にさせられる。勝海舟邸に出入りするようになって日が浅いが、訪れる人が悉く彼の知り合いだった、などは最早驚くに値しない。知らぬうちに篤姫からおやつを頂戴していた際には流石に仰天させられたし、勝の肝煎である神田医学所はもちろん、小石川植物園にまでちゃっかり縁を繋いでいる。幕府の役人でさえそう縦横無尽に出入りすることはままならない。彼の自由さは本物であり、語る冒険譚は講談の域に達している。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。御前試合の後、隠し刀が諭吉に髪を整えてもらうお話です。諭吉の断髪式に立ち会いたかった……!どうしてなんだ、諭吉!
    >前作:探り合い
    https://poipiku.com/271957/11594741.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    枝を惜しむ もう朝である。障子を通り過ぎた陽の光に瞼をぴくりと動かすと、諭吉はうっすらと浮かび上がっていた意識を完全に現実へと上陸させた。つい先ごろうたた寝をしながら書物を読んでいたつもりが、いつの間にやら轟沈してしまったらしい。やるべきことは山積していると言うのに、ままならぬものである。光陰矢の如しというが、このところは本当に年中時間が勝手に体を通り抜けていっているような気がしている。国全体が大きなうねりの中にあって、置いていかれぬためには必死で鮪のように泳ぎ続けねばならない。
     無意識のままに簡単に身支度を整え、ここが勝海舟の邸だということを再認する。要するに仕事で一日を食い潰したのだろう。どこを向いても自分くらいしかできないだろうという未来が転がっているので、少しも気の休まる日がない。顔を洗ってもしっくりしないので、朝食を終えたら(もちろん太っ腹な勝であれば出してくれるに決まっている)朝湯に行って仕切り直しを図ろうか。鏡を見て、自分の髪を整え直し――諭吉は鏡の端に写った相手に会釈した。
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    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。数年間の別離を経て、江戸で再会する隠し刀と諭吉。以前とは異なってしまった互いが、もう一度一緒に前を向くお話です。遊郭の諭吉はなんで振り返れないんですか?

    >前作:ハレノヒ
    https://poipiku.com/271957/11274517.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    答え 今年も春は鬱陶しいほどに浮かれていた。だんだんと陽が熟していくのだが、見せかけばかりでちっとも中身が伴わない。自分の中での季節は死んでしまったのだ、と隠し刀は長屋の庭に咲く蒲公英に虚な瞳を向けた。季節を感じ取れるようになったのはつい数年前だと言うのに、人並みの感覚を理解した端から既に呪わしく感じている。いっそ人間ではなく木石であれば、どんなに気が楽だったろう。
     それもこれも、縁のもつれ、自分の思い通りにならぬ執着に端を発する。三年前、たったの三年前に、隠し刀は恋に落ちた。相手は自分のような血腥い人生からは丸切り程遠い、福沢諭吉である。幕府の官吏であり、西洋というまだ見ぬ世界への強い憧れを抱く、明るい未来を宿した人だった。身綺麗で清廉潔白なようで、酒と煙草が大好物だし、愚痴もこぼす、子供っぽい甘えや悪戯っけを浴びているうちに深みに嵌ったと言って良い。彼と過ごした時間に一切恥はなく、また彼と一緒に歩んでいきたいともがく自分自身は好きだった。
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