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    zeppei27

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    zeppei27

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    シャリタツを拾う話の、ハッサク目線のものです。
    >前作 https://poipiku.com/271957/8081383
     アオキの話の後について考えたことを書こうか迷っていたのですが、ハッサク先生について考えることが多すぎて書きました。そう、ハサアオ、好きなんですよね……情熱と虚無のぶつかり合いと、なんやかや頑固な二人が本気で勝負するところは是非見たいと思っています。人生の勝負はこれから!

    これは寿司ではありません。「小生は猛烈に感゛動゛し゛て゛す゛!!」
    「……違います」

    ポケモンリーグの会議室で、ハッサクは心底感動していた。冷静な声が聞こえたような気がしたが、そんなことよりも目の前の事象を処理することで頭も胸もいっぱいだった。チリ曰くは感情がドラゴン並に激しく揺れやすいという評価であり、美術教師である本職を鑑みても申し分ない性質と言えるだろう。ハッサクは今猛烈に感動していた。この感情の荒波を、キャンバスに描いてコルサに共有したい。

     例えて言うならば、長く丹精込めて育ててきた植物がようやっと蕾を膨らませてくれた、そんな瞬間である。アオキの弁当箱にひっそりと可愛らしく鎮座しているシャリタツのつぶらな瞳が告げている。これは天の啓示だ、祝福だ、自分が教師としてもポケモントレーナーとしても情熱を注いできた結果が実ったのだ!植物をこよなく愛し、芸術として昇華させるコルサも大いに同意するだろう。今すぐにでも写真を撮って送ってやりたい。

    「アオキ!恥ずかしがることはありません、高みを目指すのはいつであっても遅くないのですよ!」
    「……だから、違うんですよ」

    しかし小市民然としていることを良しとするアオキの反応はつれないままだった。この味も素気もない男性は四天王という重厚な役割を担っている割に掴みどころがない。チャンプルタウンのジムリーダーをするだけでは飽き足らず、あのオモダカの要望に応えて変幻自在な技で四天王としても活動できる人物のどこが普通たりえよう。幻想もいいところだ。

     幼い頃から竜の一族で跡目として厳しく躾けられたハッサクにとって、押し付けられた役割とは確かに重たく窮屈である。しかしそれに適応できること自体がすでに才能なのだと、逸脱した今ではよくわかる。自分は確かに生まれで筋道をつけられていたかもしれない。とは言え他に候補がいなかったわけではないのだ。竜の一族の長になろうという気概を抱く人間はいただろう。押しのけるほどに自分は才覚があった――自分にとっては不要な贈り物だったが。捨て去った道のりであろうとも、他人を押し除けた事実には違いない。故に、強者としてどうあるべきかをハッサクは自覚していた。

     アオキだって、誰かを押し除けてこの場所にいるのだ。ありがたくないこと甚だしいと言うのは全面から滲み出ているので理解できるが、その癖仕事だから仕方がないと言い放って役目だけはこなしてしまうのだから嫌味この上ない。態度と実績が釣り合っていないのだ。全くの異常であり、もっと酷な評価を下すのであれば怠惰である。大樹として育ちうる逸材を目の当たりにしたハッサクの教師魂が、そして強者としての精神が感応しないわけはなかった。

    「アオキ、ドラゴン使いになってみるのはいかがでしょう?異なるタイプのポケモンを使うことも良い経験ですよ」
    「ご覧なさいアオキ!カジッチュがとうとう進化を遂げて……どちらの実を食べるかずっと迷っていたこの子が自分で生きる道を選んで……健気で、小生は、小生は!」
    「もっと大きな声を出さねば聞こえませんよ。あなたならばドラゴンのように吠えることができるはずです」

    アオキとのやり取りでは、ことあるごとに熱心な呼びかけを繰り返しているのだが、相手と言えば全くもってのれんに腕押しだった。

    「……十分間に合っています」
    「おめで「、っぱ!!小生は猛烈に感動じでいず!!」
    「まだ耳は遠くなっていませんので」

    箸にも棒にも引っかからないとは正にアオキの反応を形容するためにあるのだろう。下手をすればぷいと目を背けて不貞腐れた子供のような顔を浮かべていたりもする。その表情に妙な愛嬌を感じて気勢をそがれるのは、ドラゴンタイプはフェアリータイプに弱いというポケモンの理屈が普遍の事実だからかもしれない。否、アオキは可愛らしいポケモンであってもあくまでもノーマルタイプを使う男なのだが。ともかく、教職者としての道のりを歩んで悟りを開いたハッサクはアオキを前にして惑ってばかりなのである。

     迷惑がられ、鬱陶しいと避けられることは生徒で十分慣れているのでどうと言うこともない。おまけにアオキは同僚として顔を合わせる機会は多い。ポケモンリーグに呼び出されても、自分たちの番まで回ることは稀有であるため、大概は事務仕事をこなすアオキの横でテストの採点をしてばかりいる。合間の雑談もポピーを交えて和気藹々としており、ハッサクは学外の交流で得られる刺激も良いと大いに頷くところだった。

     そのアオキが初めてハッサクに応えてくれたのである。これを喜ばずしてどうしよう。シャリタツが警戒からか尻尾を反らせて懸命に寿司に擬態しようとしている。大きさと言い色艶と言い、確かに寿司によく似ているが、ハッサクにはドラゴンタイプのポケモンにしか見えなかった。アオキはあくまでも寿司だと言い張る。初めてドラゴンタイプを手にした姿を見られて恥ずかしいのだろう。オロオロといつも以上に表情豊かに下がる眉毛が愛らしく、スケッチをさせてもらいたいくらいだった。

    「間違えて弁当箱に入れただけなんです!寿司だと思って、自分は寿司だと……」

    シャリタツがスシだと鳴いても事実は揺るがない。衝動のままにアオキの肩を掴んで揺すると、珍しくアオキが大声を出したものだから思わず体が固まってしまった。なんだ、やはり力を込めて声を出すことができるのではないか。鼓膜がジンジンとする。血潮がどくどくと音を立てて流れ、ハッサクは自分の耳の先が赤くなっているような気がした。

     固まった隙になだれ込んできたアオキの説明によれば、彼は精神的肉体的疲労の限界に達したあまり、本気で寿司とシャリタツを取り違えて弁当箱にしまったのだという。そんな馬鹿なと抗議しようにも、アオキの必死さが真実であることを物語っていた。あまりにも悲しい話だが、ハッサクが垣間見た蕾は幻であったらしい。柄にもなく長々とため息をついてしまいそうで、ハッサクは意識して大きく息を吸った。深呼吸を一つすれば十分落ち着ける、まだまだ先は長いのだ。

    「スシ!」

    シャリタツがもう一度鳴くとアオキの肩がびくりと震えた。恐らく空腹を抱えているのだろう。この痩せ型の男性は見た目に合わず大食漢で、隙間時間には必ずと言って良いほど何か食べている。偶に地方廻り(という名の青田買いだ)を共にする際、隠れた名店を探しては食べて回ることを楽しみにしており、彼と出歩く際にはハッサクも何かいい店はないかと探す癖がついたほどだ。美味しいものを食べ、共に満足したあの気分はなんとも言えない。その時ばかりはアオキの表情も柔らかく温かなものに見える。そうだ、食べ物だ。

    「……事の経緯は理解しました。残念ですが、今回は譲りましょう。つまり、食べ物に似ていればアオキは興味を持つという事ですね」
    「はい?」
    「そうとなればアップリュー……いえ、もっと易しいものから始めるべきですね。宝食堂のご主人とも一度話をしてみましょう」

    なんと単純なきっかけを見逃していたことだろう!興味があるものを元に始めると言うのは教職者が志す一手ではないか。アオキを前にして熱くなるばかりだった自分に深く反省すると、ハッサクは戸惑いの声を上げるアオキににっこりと笑みを浮かべて見せた。自分ならば、彼を高みに登らせる手伝いができる。遥か天上に舞い上がり、共に澄み渡る青空を見ようではないか。

     根本的に、教職者云々を超えた情熱が籠りつつあるのだが、アオキを食事に誘うハッサクの頭はまるで明後日の方向を進んでいた。カジッチュはどうだろう?先日手伝いに来たボタンが、彼女が学んだガラルでは、カジッチュを渡して想いを伝える風習があるのだと教えてくれた。この熱い想いを受け取ってもらうにはこれ以上相応しいポケモンはあるまい。アオキが好きな道を選べるように三匹用意し、シャリタツも色とりどりに揃えたらばちょうど六匹だ。偏るかもしれないがそこはアオキ、きっと自分が想像もしない妙手を編み出して見せるに違いない。

     過大な欲望と情熱はいつしか実を結ぶだろう。だってこんなにも自分の気持ちが育っているのだ。アオキの肩を掴んで焼き鳥屋に連行しながら、ハッサクは近頃気に入ったつくねの種類について滑らかに語った。上辺を装い、愛想良くする術はすっかり板についている。まずは緊張をほぐすところから始めるとしよう。ハッサクの未来絵図は明るかった。

     当のボタンから、カジッチュが含む意味の詳細を聞いたのは、三匹のカジッチュをアオキに渡した後だった。


    〆.
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    zeppei27

    DONE傭泥で、謎のスパダリ(?)ナワーブに悩まされるピアソンさんのお話です。果たしてナワーブの真意はどこにあるのか、一緒に迷いながら楽しんでいただければ幸いです〜続きます!
    ご親切にどうもありがとう/1 他人に配慮することは、相手に目に見えぬ『貸し』を作ることである。塵も積もればなんとやらで、あからさまでなしにさりげなく、しかし何とはなしに伝えねばならない。当たり前だと思われてはこちらの損だからだ。返せる程度の親切を相手に『させた』時点で関係は極限に達する。お互いとても楽しい経験で、これからも続けたいと思わせたならば大成功だ。
     そう、クリーチャー・ピアソンにとって『親切』はあくまでもビジネスであり駆け引きだ。慈善家の看板を掲げているのは、何もない状態で親切心を表現しようものならば疑惑を抱かせてしまう自分の見目故である。生い立ちからすれば見てくれの良さは必ずしも良いものではなかったと言うならば、曳かれ者の小唄になってしまうだろう。せめてもう少し好感触を抱かせる容貌をしていたらば楽ができたはずだからだ。クリーチャーはドブの臭いのように自分の人生を引きずっていた――故にそれを逆手に取っている。
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