うさぎが一匹日車がうさぎになったとの報告を受け、頭の中にハテナマークを乱発させながら医務室に向かう。近年呪いは細分化傾向で御三家の相伝の生得術式以外にも日車や秤のようなその本人にしか使いこなせない術式、今回のような実用性の低い謎なやつまで多種多様で正直対策が事後処理の状態である。
「日車、大丈夫か?」
ドアを開けるとベッドに腰掛けた日車と目が合う。人の姿をしているので正直拍子抜けした。
「なんでぇもう呪は解けて………ないな」
「耳と手足と尻尾が元に戻らないんだ」
「みたいだな」
日車の頭の上には2本の長いうさぎの耳が生えている。そして手と足はそれぞれ手首足首から先がうさぎのそれだ。靴が履けないので大きめのサンダルを突っ掛けている。
「尻尾が邪魔でスラックスが履けないんだ」
「それで入院用ガウン……」
「さっきまで目の虹彩が赤かったらしい」
「うん……」
「失礼、日下部さん呪の元である呪霊は祓われたそうです。あとは日にち薬ですし、日車さんを連れて帰ってしばらく自宅待機でお願いします」
「あいよ。家入もお疲れさん」
とりあえず車で帰るにしてもガウンのままでは目立つので、コートを貸してやる。
「すまない」
「こんな日もあらーな。ほんで体調は?飯とか普段通り食えそう?」
「……生野菜が食べたくて仕方ない」
「その辺は普段と変わらねえな…」
そう笑ったら、でかいうさぎの足で蹴られた。
◇
とりあえず帰宅。日車は体調が悪くなったのか、帰宅早々ふらふらした足取りで寝室に消えた。あれだけ大きく身体が変化しているんだから、平然を装ってあるけどそれなりに負担があるんだろう。必要そうなものを適当に買い出ししてくるから寝とけと伝える。
頬がほんのり赤い。熱あるのか?大丈夫かと横になっている頭を撫でてやる。
「…日下部……身体が変だ…」
「熱計るか?」
「動悸が止まらない」
「マジか…吐き気とか頭痛は?」
「それは大丈夫だが……その、」
日車は言いにくそうに目を逸らす。
「………その下が……屹立していておさまらない………」
「キツリツ?…………………勃起て事?」
こくりと日車が居た堪れなさそうに頷く。は?え?キツリツって屹立?勃起?なんで?
「うさぎの本能的なものかと。それと………」
「おん」
「コート……」
「おん?」
日車はこれ以上は説明できないとでも言いたげにシーツを引っ張ってきて潜ろうとする。
「待て待て最後まで話せ流石にわけがわからん」
「鈍感…」
「あぁ!?」
「君の匂いが……するから、…………コート」
ガベルでぶん殴られたような衝撃が走る。実際には殴られていないが、それくらいの測定不能レベルの衝撃があった。それが直撃したのに破裂しなかった自分の頑丈さを誉めたい。
「君でいっぱいで…あたまが変になる……」
追撃はやめて!!!!無理!!!!!!
「──ッ日下部!?」
耐えきれずにシーツごと抱きしめて額につむじにキスの雨を降らす。長く伸びた耳の付け根に鼻先を埋めて吸い込むと、甘くて野蛮な獣の匂いがした。