Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    huyuhi2

    @huyuhi2

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 35

    huyuhi2

    ☆quiet follow

    5-2途中まで ひぅ、と吸った息が喉につまり、スティーヴンは身体を丸めて咳き込んだ。
     何が起きたのか分からなかった。
     身体の奥から圧迫するような苦しみに唸り、何度も咳をして、ぜえぜえと息をする。掻き毟った胸が痛い。ぼとぼとと落ちる涙が痛みによるものかぐちゃぐちゃになった感情によるものか分からない。ひどく記憶が混濁していて、ついさっき見たばかりのマークの微笑みばかりが脳裏に焼き付いていた。
     あと少しで届きそうだった指を見下ろして、何が起きているのかを把握しようと懸命に思考を巡らせる。
     がたがたと震える指は未だスティーヴンが認識出来ていない苦しみや恐怖を示しているようだった。
     きつく目を閉じて深呼吸をして、痛む肺に無理に酸素を送り込んで身体を落ち着かせる。痛む四肢は機能を無視して無理矢理動かされた痕跡のようでもあったし、冷えた指が精神的危機を訴えようとしているようでもあった。
     震える手を上手く動かすことが出来なくて、片手で包むように抱き寄せて唇に押し当てる。悴んだ指の対処をするように息を吹きかけながら顔を上げた。滲む目を瞬かせて、きらきらと光るものの落ちた部屋を見つめる。よくよく見てみれば光るものは硝子のようだった。導かれるように月明かりを見上げ、ぼんやりと瞬いてはっと隣を見る。スティーヴンと同じように硝子に囲まれたジェイクは、全ての力を失くしたように呆然と座り込んでいた。
    「ジェイク、」
     何が起きたのかも理解出来ないまま大丈夫と尋ねようとして、頭に走った痛みに呻いて床に倒れ込む。隣に転がったジェイクも苦しげに顔を歪めていた。涙が溢れるのを感じながら呻いて、震えた唇が意識したわけでもないのにマークの名前を呼んで――そうしてスティーヴンは全てを思い出した。
     マークの手を掴んだのを覚えている。契約が結ばれると知っていながら喜んで木に押し付けたのを覚えている。無理に身体を開かせたのを覚えている。苦しみに呻く彼の顔を笑ったのを覚えている。それが幸福だと思っていたのを覚えている。泣き顔を覚えている。踏み躙り、笑って、彼をひとり置いて行こうとしたことを覚えていた。
    「ぁ、…………っ」
     気の狂いそうな記憶に爪を立てて髪を掻き混ぜる。ひとつ彼にしたことを思い出す度に絶叫を上げて床を殴り付けた。そんなことしたくないと今になっていくら叫んでも記憶は変わらない。大切にしたいと、これ以上一方的な傷を与えられてほしくないと願っていたのに、自分たちが何よりもひどく傷付けてしまった。彼が気を失っても乱暴に奥に打ち付けていた記憶が頭を蝕む。やめてくれと叫んでも、記憶の中のスティーヴン・グラントは笑って青い顔の彼を揺さぶっていた。
    「な、んで、そんな……」
     あたたかな部屋で過ごした夜に、そんなことをしなくてもいい、一緒にゆっくり歩んでいきたい、と言ったのに、かつての彼はそれでやっと笑ってくれたのに、自分が喉の奥へと擦り付けて髪を掴んだことをまざまざと見せつけられてがりがりと腕を掻く。この手が彼を捕らえていたのだと思うと震える指にすら怒りが湧いた。一気に溢れた記憶に混乱しながら床を殴り付ける。身体を丸めて嘔吐して、唾液の混じったような呼吸を吐いて肌に爪を立てた。
     冷たい床に額を押し当てて、次第に冷静さを取り戻し始めた頭で何が自分たちにそうさせたのかを追う。自らの喜びであるような感情を植え付けられていたけれど、そんなことをして喜ぶだなんて有り得ないとわかっていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭🙏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works