可能性 気持ちのいい日差しが、教室を明るく照らす。
肌寒い日が続いていたのに、今日は少し暖かく感じる。
そのせいか、授業中寝ている人が多かった。
授業が終わり、休み時間でも寝ている人がいるし、眠たそうにあくびをしている人がいる。
私も眠いな…。
頑張って起きてたけど、そろそろ限界みたい。
小さいあくびが洩れてしまう。
昨日は遅くまで、お姉ちゃんとメールをしていたから…。
お姉ちゃんが彼氏と付き合い始めてから、惚気メールが多く届くようになった。
彼氏ができたという時のテンションは、今までの中で1番高くてびっくりしたんだよね。
それに、元々美人だったのが、更に磨きかかって綺麗になっていた。
彼氏の話をしている最中が1番嬉しそうで、すごく幸せそうだった。
恋愛をすると、あんなにも人が変わってしまうのかな?
こっそりと携帯のメールを読み返す。
『隼人がハロウィンのデザートを作ってくれたんだよ~!
かぼちゃのプリン、すっごく美味しいの♪
綾菜にも食べさせてあげたい。』
添付されているかぼちゃのプリンの写真は、何度見ても本当に美味しそう。
彼氏さんはシェフらしい。
でも、お姉ちゃんの話を聞いていると、いつもデザートばかり。
本当は、パティシエなんじゃないの?って疑ってしまう。
それくらい、手の込んでいそうなプリン。
お姉ちゃん、楽しそう。
きっと、彼氏さんは素敵な人なんだろうな。
『明日がハロウィンだけど、綾菜は何かするの?
綾菜に彼氏ができたら、一緒にハロウィンパーティできるといいね。』
私に彼氏ができたら……、か。
そんな日が来るのかな?
今は、受験で大変な時期だけど。
それが終わったら、いつかこの淡い気持ちを伝えれるのかな?
もし、伝えられたとして。
私には、彼の彼女になれる可能性はどれくらいあるんだろう?
「川村さん」
突然聞こえた声に、ドキッとしてしまう。
「…階堂君」
「ボーッとしてたけど、やっぱり川村さんも眠い?」
「うん。昨日は、遅くて…」
「じゃあ、眠気覚ましに」
差し出された彼の手には、レモンミントの飴。
「ありがとう」
そう言って、受け取ろうとしたら、手を引っ込められてしまった。
ちょっと意地悪な顔の階堂君。
な、何??
「今日はハロウィンだろ? 飴が欲しいなら、ちゃんと言わなきゃ」
あ、成程。
でも、それって…??
「順番が逆じゃない。私が言ってから、飴を差し出すんでしょ?」
「ま、細かいことは気にしない。せっかくだから、気分だけでも味わおうよ」
優しい笑顔に、心の中がじんわりと暖かくなる。
まるで、教室に差し込む日差しのよう。
「じゃあ、せっかくだから…。Trick or treat」
「はい、どうぞ」
受け取った飴は、私が好きな味でよく舐めている物。
ただの偶然??
それとも……。
「お! いいな~。纏、俺にもくれ!」
「私も欲しい♪」
他の人にも、あげちゃうのかな?
――――――あげないで欲しい。
出そうになる言葉を慌てて飲み込む。
私は、そんなこと言える立場じゃない。
「ごめん。今ので最後なんだ。また今度な」
「えー。残念!!」
「次の時は、真っ先にくれよな」
「おう!」
ポトリ。
机に飴が1個落ちてくる。
「?」
どうやら、階堂君が落としたみたい。
(みんなには内緒な)
「!」
小さな呟きは、私にしか聞こえないものだった。
速まる鼓動のせいで、眠かったのが消えていく。
飴じゃない、別のものが、眠気覚ましになったみたい。
こんなことされると、私、期待しちゃうよ?
……私にも、可能性があるのかな??