理由「長い」
「苦しい」
と、ヤギヤマはいつも俺のキスに文句を言う。
だけど、仕方ないだろう。
「っ、カズサ、待っ、て」
「……っカ、ズサ、っぁ」
「カズ、サ、ぁぁ……っ!」
──って、お前が、触れ合っている間中、俺を呼んで、それどころか、
「っあ! も……無理! カズサ、ぁああ!」
なんて、普段の澄ました態度からは大凡考えつかない、甘ったるくて掠れた声で、俺を、呼ぶ、から──!
「っは──っ、カズサ、くるし……っふ!」
だから俺は、お前の口を無理矢理にでも塞がなきゃならなくなるんだ。そうでもしないと──
「カズサ……」
その声が響くたび、目の奥の、頭の裏側がジリジリと焼け付いて焦げて、それで、俺自身はもっと触れていたいのに身体の方はそんな思考など捨ててしまえと言わんばかりに急いてしまうんだ、すぐにでもこの欲を吐き出したいと。
「……っ、少し、黙れ……!」
唇を合わせて塞ぐ中での俺の訴えは、なんと惨めで弱々しく、滑稽だったか。
分かっている、分かっていた、のに──
「 困 っ た 人 だ 」
少しの隙間から、聞こえた、微かな笑みを含んだその声は──
ヤギヤマのものだ、知っている、これまで何度となく聞いてきた、だが、それでも──
この上なく愉しそうに歪んだ上下の瞼と相まって、初めて聞く声に、思えてしまって、
「……っは、悪かったな、これが、俺だ」
もうこれ以上は呼ばせない、存分に触れさせてもらうと、言外に突きつけるために唇の端を引き上げながら──
俺は、今度こそ隙間なく、その弓形になっているヤギヤマの口をキスで塞いだ。