飴と鞭「なんで?」
と聞いた。
ヤギヤマは、
「なに、が?」
と、聞き返した。その荒いだ吐息は感じ慣れないもの。
下腹がじくりと疼いた。
「いつもと、違う」
そう応えた俺の、声は、掠れていて余裕など微塵もなくて、我ながら愚かしいがそれよりも、気になったんだ。
いつも、と、違う。
そう、今日のヤギヤマは違うんだ、いつも、と。
いつもは、掴めないんだ、何も。何ひとつも。
こうして触れていても、内側を求めても、俺が、何度、好きだと音にしても、ヤギヤマは冷ややかで静やかで、それでいて、そのくせに、俺を拒まない。
ただそこに居て、俺が求めるままに俺を受け入れるだけで、声も出さず、止めもせず、何も、せず、決して手を伸ばしては、来ない、来なかった、の、に──
溶け落ちてしまいそうに潤んだ双眸、指先で触れただけで漏れる嬌声、寝台を軋ませるほどに震える四肢──
これまでにはなかった何もかもが益々俺を乱す。
「どうして」
重ねた問い。
それに対して、ヤギヤマは、熱くなっている頬を引き上げ、た。
「今日、は、飴の日、だよ」
あめのひ……?
理解が追いつかず、繋がっていながらそれも忘れたかの如く呆けてしまっていたのだろう俺が可笑しかったのか、ヤギヤマはくつくつと喉を鳴らしながら
「鞭ばかりじゃあ、お前、嫌だろ?」
そう言って瞼を伏せた。
言葉の言い終わりと同時に重なった唇。
それは、薄くて、それでも柔らかく、いつだって拒むことなく受け入れてくれる、慣れた感触。
安心した、嬉しかった。
絡む舌先が、甘い。
堪らず抉じ開けた腹の奥の、更に奥。
弾かれたように仰け反る腰を掴んで、声にならない、細く甲高い息でひゆつく喉仏に甘く噛み付きながら聞いた。
「次の、飴の日、は?」
部屋に響く粘度の高い水音に混じって、聞こえたのは、引き攣れた嬌声の合間の──
「近い、うち」
という、愛しい声。
それを聞いた途端、限界が来た。
腹の底から込み上げる感覚。
咄嗟に引こうと、した、腰を──
「飴の日だ、と、言っただろう?」
先までの高さは何処へやった?
そう思ってしまうほどに低く、そして深い声とともに、少し前まで震えていたはずの両腕で抱きこまれて、抵抗などできるはずも、なかった。
「……っ!、ふ、ふふ、は──、かわいいな、お前は」
抱いていたのは俺なのだ。そのはずだ。それなのに。
どくどくと早く脈打つ胸に頭を抱きこまれながら、可愛がられ、そして、次の飴の日を待ち望んでしまっている、俺、は──
「ヤギヤマは、ずるい」
そう口を尖らせながらも、この状況が何物にも変え難い幸福なのだと理解してしまっているの、だ。