妄想吐き出し遊廓後。煉獄さん生存
はぁはぁっ自分の息遣いが自分の耳に届く。
引退してから内蔵をやってしまった自分は運動も制限されているのでこんなに走ったのは久々だった。
足も痛い、内蔵も痛い。身体中が痛みを訴えている。
それでも足を止めずに数日前にこちらに戻っているらしい彼の元に一秒でも早く辿り着くように出来る限り急いで足を動かした。
彼の屋敷に辿り着くと、門の前には普段通り彼の嫁の須磨さんが家の前を掃き掃除をしている。そんな彼女の晒された肌の色んな箇所に打ち身や軽い切り傷が見てとれ、彼が本当に上弦と戦ったのだと感じた。
「ごめん!宇髄はご在宅か!」
「あっ!杏寿郎さん、天元様いらっしゃいますよ!どうぞあがってください!」
通された部屋はいつもと同じで、ねずみたちがお茶と茶菓子を運んできてくれるので、美味しかった干し芋を褒美に与えると、嬉しそうに襖の向こうへ消えていった。
「あぁー!またねずみちゃんに負けちゃいました!もぉ!」
お茶を運んできた須磨さんがぷんぷんしながらかなり濃い色をしたお茶を持って戻っていく。最初は悪いからといただいたのだが、まぁ濃いいこと濃いいこと…
彼に笑われながら、必死に飲み干したのは懐かしい思い出だ
「おー!煉獄久しいな!!わりぃ須磨、暫く二人にしといてくれるか」
「はい、分かりました!二人にも伝えておきますね」
二人でやってきて、須磨さんは部屋に入らず、こちらにペコリと頭を下げてパタパタと遠ざかっていく。
「すぐに顔見せれなくて悪かったな、俺も昨日まで治療で動けなくてな」
「そうか、目と腕は?」
「流石に治んねぇわ。俺もお前と一緒で引退するって御館様に了承してもらったよ」
二人の茶をすする音だけする空間で何から話したら良いのか、何を話したら良いのか分からず、色んな言葉がグルグルと巡る。
「煉獄、待つからゆっくり考えていい」
「あぁ、すまない。」
遠くに聞こえる雛鶴さんたちの声を聞きながら、自分が何を言いたかったのか、どんどん良く分からなくなる。
「煉獄、聞いてやるからゆっくり話せ、全部聞いてやるから。どーせ引退したんだ、時間は山ほどある」
「うむ、とりあえず、上弦撃破おめでとう」
「おぅ、ありがとうよ。お前の育てた継子三人生かして返したぞ」
「あぁ、今日見舞ってきた、きっとすぐに目を覚ますだろう!」
「竈門なぁ、あいつ柱になるぜ、その内。嘴平は周りを気にすることが出来りゃあいけるかもなぁ。我妻はまずは起きて戦えりゃあいけるかもなぁ。」
「うむ、あの三人はきっといけるだろう!宇髄!三人を生かしてくれてありがとう!」
「おう」
宇髄は左目を隠す眼帯を今発注しているらしく、今は普通の真っ黒な眼帯をつけており、少し不満そうにしていた。自分を鼓舞してくれた左手は肘の少し先から服がだるんとだれていて、その存在が無いことが良く分かったらボロリと涙が流れた。
今更なのだが、俺がもし、現役で彼の手助けが出来ていたなら、あの赤い瞳、あの暖かな腕が残ったのだと思うと、自分の不甲斐なさや悔しさが溢れて止まらなくなってしまった。
「煉獄、気にすんな。鬼と戦って生きて帰れただけでも上々だろ?」
「うむ、そうなのだがな」
「はははっおい、こっち来いよ」
「嫌だ!」
「そうかよ」
泣き顔をじっくり見られる可能性を考えて断ると、宇髄は不貞腐れたような顔をしてこちらに伸ばそうとしていた右手を自分の膝へ戻してから俺を見てニッと笑った
「来ねぇの?」
「行かない!」
「ふーん、じゃあ良い」
すくっと立ち上がった宇髄に聞いてくれるって言ったじゃないかと目を見開くと、彼は座布団も何も敷いていない俺のぴったり真隣にストンと腰を下ろして俺の身体を手首より先がない左腕でがっしりと抱き締めてきた。
「ごめんな、連絡遅くなって」
「全くだ!」
「そうだよなぁ、引退してる柱への連絡なんて遅くなるよな、心配かけてごめん」
ちゅっと頬に触れる唇。
俺の時は宇髄は柱だったから目を覚ますまで彼は傍についていてくれたのに、何も出来ない自分が不甲斐ない。
彼が居ないのは任務についているのだと思っていた。便りがないのは元気な証拠なのだと思っていた、今日買い物先で蝶屋敷の子供たちに会うまでは。
「泣くなよ」
「うるさい!君が泣かせているんだ!」
「ごめんて」
「反省を感じない!」
「本当に悪かったって」
顔中に口づけを落とす男を睨み付けると、彼は嬉しそうににっと笑って見せてくれる。
本当に狡い男だ。
「君なんて嫌いだ!」
「俺は好き。」
「4人目なんて絶対にならない!」
「それなら一人目の旦那になりゃいいじゃん。男なんだし」
「うるさい!もう帰る!」
「えーもうちっと居ろよ。久々なんだし」
「嫌だ!今君と居たくない!」
「そう言うなって、俺も会いに行きたかったんだが嫁の許可が下りねぇのよ。」
俺は宇髄が好きだなんて絶対に認めない
宇髄の気持ちも絶対に受け止めないと決めている。
俺には煉獄家を継ぐ使命がある。もし、俺が普通の家の出て、彼に嫁が居なかったならと考えたことはある。だが、たら、れば、等考えても意味はない。
一気に立ち上がって、入口に向かう。
「煉獄、身体が治ったら、俺からも出向くわ」
「勝手にしてくれ!ではな!お大事に!」
「お前もな」