ひとつ、傲慢「らんまる、蘭丸、ランマル……」
「あの…シリウス、別に無理に呼び方変えようとしなくてもいいよ?」
「いや、すぐ慣れるから気にしないでくれベテ……じゃなくて、らんまる…らんまるぎうす…」
「まざってるよ?」
「う、……」
昔からたくさん呼びすぎてたからもう口がベテルギウスという言葉に慣れている。だいたい蘭丸ってなんだ。なんで花の名前なんだ?蘭って感じじゃないだろお前は…いや、蘭ぽいといえばそうかもしれない。蘭ってどんな花だっけ?白百合だって「百合」だったし。俺の周りの俺を好いてくれるやつは花の名前が多いな。…いや、もしかして百合を意識して蘭てつけたのか?ベテルギウス。
「そういうことか…」
「?なにが?」
「こっちの話だよ」
案外かわいいなお前は。なるほどな、対抗したのか。そう思いながらコーヒーを一口飲む。すっとぼけた顔をしているけれども俺にはわかるんだ。だって唯一無二のバディだし。
天気が良くて気持ちが良い。桜が咲きかけているし今はとても楽しいし、任務も何もない堕天使は案外気楽で楽しい。それに比べてベテ…らんまるぎうすはこうしてデートしてる間もそれとなくあたりを見渡して困っている人間がいないか探している。愛著集めのために。律儀なことだ。俺とデートしてる間ぐらい、他の小童四人にまかせておけばいいのに。
「それにしても良い店だな、こんなところよく知ってるな」
「シリウスが気に入りそうだなって思ったから、喜んでくれてよかった」
そう言ってベテ…ベテ丸ギウスが少し首をかしげながら笑顔になる。いい角度だ。アイドルスマイルとして100点だ。笑うとかわいい。普通にしていてもかわいい顔をしているけど。俺に負けないぐらいかわいい。いや俺は美少年…美青年?だし。かわいいな、って思ったから、手を伸ばしてふわふわの髪を撫でてみた。昔とは違う感触。昔はベテルギウスの長い髪を、俺が毎日ドライヤーしてやっていた。今は短いから手入れも楽だろう。ちょっと寂しい気もするけど。
髪を撫でてやってたらベテルが目尻を下げた。口元は微笑んでいる。髪の間に手を差し込んで軽くくしゃっと遊ばせてみるが、元々癖がついているせいかあまり変わらない。犬みたいでかわいい。首輪を買ってやろうかな。俺のことが大好きでよく懐いているからぴったりだ。きっと喜ぶだろう。今の人間体の姿ならきっと似合う。犬耳のおもちゃをつけてやってもいい。夭聖体の姿だと、たぶん無言で嫌な顔をして抵抗してくるだろうけど。
「ベテ…らんまる、飲み終わったら、買い物いこうか」
「いいよ。何を買うの?」
「ペット用品だよ」
「シリウス、ペット飼い始めたの?」
「うーん、まあ、飼ってもいいぞ。部屋広いし」
「?」
俺はマメさには自信がある。毎日かわいがってやるし世話するし、あの、カレーしか作れないとかいう金鉱の男より良いものを作れる自信だってあるぞ。その代わりに毎日好きだと言って欲しいし、毎日褒めてほしいし、ずっといなくならないでほしいし、膝枕してほしいし…いや、男の膝なんて硬いから気持ちよくはないか…。まあ試してみてもいいかもしれない。まずは買い物に行ってから。