星 校舎を出ると、もう空には星が光っていた。
「うわ、もうこんな暗いの? 俺たちだけでもさっさと帰ろうよ蘭丸。うるうも焔もまだ帰らないとかいうしさー」
風が冷たい。樹果と僕は一緒に帰ることになったようだ。歩いていても、自然に目が建物のや木の梢を探している。
「連絡すりゃいいじゃん」
僕の心を見透かしたように樹果がつぶやいた。
「コクっちゃったんだろ? 返事聞くの怖いなら聞いといてあげようか?」
「うーん……そういうことでもないような……」
返事を探しあぐねているとき、向いの団地の屋上に見知った姿があるのに気づいた。足が自然に止まる。横にいた樹果も、僕が何を見ているのか気づいたようだった。
「……あー、俺、学校に忘れ物してきちゃった。悪い蘭丸、先帰ってて! ていうかおじゃま虫になりたくねえし!」
あっという間に樹果は駆けて行ってしまった。ごめん。
記憶をなくした間は気づいてなかったけど、こうして時々シリウスは僕を遠くから見ていたらしい。記憶が戻ったから、シリウスの気配に敏感になったんだろうか。
まわりは暗いけど、シリウスのいるほうを見れば、見えなくてもちゃんと目が合うのがわかるんだ。
あれきり話もしてないし、連絡もとっていない。あのとき、桜の下で言いたいことは言えたはずだし、それでいいと思っていた。
もうきみを知らなかった頃には戻れないけど、あれほど顔が近づくことが、もう二度となかったとしても、どんな顔をしていたか、すぐに思い出せる。
いつの間にか、陽は完全に落ちきっていた。
でもシリウス、きみがそこにいるって判ってるから、夜も闇黒も怖いなんて思わないよ。