肩を並べて「人が多いな」
花見客でいっぱいの公園を、あたりをいぶかしげに見回しながら、シリウスはそう言った。
「いつも高いところで見てるから、気づかなかっただけだよ」
僕はそう言いかえす。そして付け加える。
「でも、やっとここまで降りてきてくれた」
あの騒動の後、どうやらシリウスはプロキオンを許したようだった。
今の彼は邪魂を追わなくなった。そのかわり、僕の行く先々に姿を現すようになった。僕から邪魂が出てるのかと思って、そう聞いたら、なんだか決まり悪げな感じで「そうじゃない」とだけ言われた。
「プロキオンも誘ったんだけど、今更合わす顔がないから行かないって」
そう伝えると、シリウスはまじまじと僕の顔を見つめて、その後視線を外して「ふん」とだけ言った。
今日は晴れていて、暑いくらいだ。
宴会を開いているひとたちの敷物を避けようとして、足がもつれて転びかけたところを、腕を掴まれてようやく体勢を立て直す。
「大丈夫か、やはり体がなまりきっているな」
「そうかもね」
昔だったらムキになっていたかもしれない。シリウスは絶対に追いつけない存在で、僕は必死になって後を追っていたから。
でもいまはここまで降りてきてくれて、一緒に肩を並べて歩けている。
「己もさっき転びかけた。高いところで人間どもを見下ろしていたほうが慣れてるし、気が楽だ」
え、そうだったんだ。僕は全く気づかなかった。たぶんシリウスにも僕にも見えていないことはまだあったんだ、とそのとき初めて気づいた。