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    femarap88

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    Z=198のスタとゼノ

    #スタゼノ
    stazeno
    #ゼノスタ
    xenostar

    幼馴染が趣味として吸引していた毒ガスの原料はナス科の植物であったが、その原産地がここ南米であることに気づいた時、なんとも奇妙な因果の帰結だなと、ゼノは思わざるを得なかった。

    熱帯に広く分布する多年草たるそれを採取し加工するという行為が、石化解除後のゼノの自由時間のほとんどを占めていた。千空たち科学王国に協力して、宇宙船完成までのロードマップを作り議論を重ねる傍らで、せっせと採取に勤しむ日々。
    茎は石油ほどではないがそれでも効率の良い燃料となるから別途保管、適宜使うということで科学王国とも合意済み。ゼノにとって必要なのは葉だけだった。嵩張るそれを乾燥させて熟成させる工程を経て、やっと幼なじみの愛した毒ガスに至ることができるのだから。

    「本来であれば乾燥にも熟成にも数ヶ月は必要なのだがね。毒ガスの切れた君はエレガントではないから、取り急ぎで用意させてもらったよ」
    “今日の一本”を仕上げたゼノは立ち尽くす幼馴染に苦笑まじりに語りかけるが返事はない。当然だった。もとよりギリシア彫刻も斯くやの要望をしていた彼は今となっては文字通りの石像だ。実にエレガント、ここがルーブルだと言っても文句は出ないだろう美を存分に見せつけてくれる幼馴染の足元に腰を下ろして、ゼノは手元に視線を落とした。まだ乾燥し切っていない葉の細切れを紙で巻いただけの即席の煙草。唇に触れる紙部分も滑らかではなく、きっと味もひどいものに違いないが、そもそも毒ガスに味の良し悪しを求める方がナンセンスじゃないかと眉を顰めながら、ゼノはそれを口に運ぶ。
    火は全てを燃やし尽くすが、そもそも燃焼に必要なのは酸素だった。可燃性の高い紙に火をつけるためにも酸素は必要で、つまり煙草に火をつけるためには息を吸い込む必要がある。
    「……っ、」
    口元に咥えた煙草。そっと息を吸い込んで、左手で風を避けるように囲いながら、マッチの炎を先に灯す。
    石化解除から数日、日課のように灯すそれにはまだ慣れない。むせ返るような違和感が胸を灼いて、青臭い煙に生理的な涙が溢れる。不快感しかないそれを、けれどゼノはもう意図度だけ深く吸い込んでから口を離した。
    「やはり理解に苦しむね。君のことであればなんでもわかっているつもりだけれど、こればかりは理解できないままだ、スタン」
    ちらりと上を仰ぐが、言葉を投げかけた先とは目が合わない。苦笑しながら立ち上がって、彼の顔を覗き込む。
    そうしてその硬い唇に、先ほどまで自身が咥えていた煙草をそっと差し込んだ。
    「まだ味は酷いもの……なんだろうね、おそらく。比較対象がないから現時点ではわからないが、熟成と感想を重ねていけば、君の愛したそれにも近づいていくはずさ」
    気に食わないがね、と付け足しながら、そっと頬に手を伸ばす。滑らかな頬に数年の時間の経過の証左としてまとわりつく苔を払い除けてやりながら、ゼノは続けた。
    「きみが目覚めるのが先か、それとも煙草が熟成させられるのが先か、どちらだろうね。君としては後者が望ましいんだろうか。寝覚めの一本が最もおいしいだとか言っていたように記憶しているが」
    帰省したスタンリーがゼノの部屋を訪れた次の日の朝。室内にいないと思えばベランダで煙草を吸っていたのを見つけたこと。その瞬間に彼を叱り付けたこと。そんなことを思い出した。納得がいかないような、しかしやってしまったと自身の失態に舌打ちするような、同時にしょげたような複雑な表情を浮かべていた。彼が煙草を吸うだなんてエレガントではない悪習慣を身につけていたことに気づいたのは、あの時が最初だった。
    全く理解ができなかった。自分の予測を軽々と超えてくれるからこそ愛した幼馴染みだったが、そんな想定外は不要だった。エレガントな幼馴染が自分の知らないところで遠回しな自殺行為を働いていることが不愉快で、しかしスタンリーはゼノの言葉を聞いても結局その習慣を断とうとしなかった。
    「おおスタン、スタンリー・スナイダー。しかしこれはつまり、君が毒ガスの吸引によって損なったであろう余命が、Dr.STONEによって延命されたということにもなるのかもしれない。君の言葉を借りるのなら、めでたいことだね」
    喫煙者と非喫煙者では平均寿命が10年は違うと言われている。ならば、喫煙者だった彼と非喫煙者だった自分の寿命の差は10年と考えても良いだろう。Dr.STONEの修復力が習慣による体の劣化にも効果があるのだとすれば、彼が目覚めた時には健康体で、それまでにこうして煙草を吸い続けた自分の方がより寿命を縮めていることになるのかもしれないけれど。
    「……僕の寿命が毒ガスに侵されてしまう前に、早く目を覚ますべきだね、スタン」
    幼馴染が毒ガスの吸引を趣味とし始めた明確な時期と理由をゼノは知らない。最初からタバコが美味しい人間なんて稀だとゼノは思う。ニコチンの依存性から常習化していき、その過程で味わいに気がつく人間がほとんどだ。いくら幼馴染が希有な存在だったとしても、そこはきっと同じことだったろう。
    怒らずに聞いておけばよかった。ゼノは思う。どうして煙草なんか吸い始めたのだろう。いつからだったのだろう。それがわかれば、君との寿命の差に思いを馳せながら──この煙草の味への慣れにも、君への懐かしさをより深く感じられたのだろうに。

    君が目を覚ますその日まで、僕は歩みを止めない。これは決意だ。君が命を賭して守ってくれた化学で、僕はきっと君を取り戻す。
    だから、ただ、ほんの少しだけ、1日に数分だけ。煙草の一本が燃え尽きる間だけは、そんな懐古を口の中で転がして、その苦味に浸らせて欲しいと、ゼノは思うのだ。

    スタンリーの口元から、灰が落ちる。
    それを見届けてから、ゼノはそっと彼の唇を指先で拭って、石像を後にした。

    明日の煙草は、きっともう少しは美味しくなってしまうのだろうなと、そんなことを思いながら。
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    femarap88

    DOODLEZ=198のスタとゼノ幼馴染が趣味として吸引していた毒ガスの原料はナス科の植物であったが、その原産地がここ南米であることに気づいた時、なんとも奇妙な因果の帰結だなと、ゼノは思わざるを得なかった。

    熱帯に広く分布する多年草たるそれを採取し加工するという行為が、石化解除後のゼノの自由時間のほとんどを占めていた。千空たち科学王国に協力して、宇宙船完成までのロードマップを作り議論を重ねる傍らで、せっせと採取に勤しむ日々。
    茎は石油ほどではないがそれでも効率の良い燃料となるから別途保管、適宜使うということで科学王国とも合意済み。ゼノにとって必要なのは葉だけだった。嵩張るそれを乾燥させて熟成させる工程を経て、やっと幼なじみの愛した毒ガスに至ることができるのだから。

    「本来であれば乾燥にも熟成にも数ヶ月は必要なのだがね。毒ガスの切れた君はエレガントではないから、取り急ぎで用意させてもらったよ」
    “今日の一本”を仕上げたゼノは立ち尽くす幼馴染に苦笑まじりに語りかけるが返事はない。当然だった。もとよりギリシア彫刻も斯くやの要望をしていた彼は今となっては文字通りの石像だ。実にエレガント、ここがルーブルだと言っても文句は出な 2431

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