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    ナンデ

    @nanigawa43

    odtx・dcst・ユニオバ

    何でも許せる人向け 雑食壁打ち

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    ナンデ

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    スタゼノ︎︎ ♀

    #スタゼノ︎︎♀

    棘があっても天使、隣に居てよ永遠に ゼノの家の庭には、いつも彼女の母親が育てた花が咲いていて、ゼノ自身は花の美しさよりも花に関する知識のほうに興味をそそられるようだった。毒にも薬にもなる植物たちは、彼女の生き甲斐である科学実験が子どものお遊びの範疇を超える度に両親から叱られ禁止された際の暇つぶしに最適だったのだろう。
    「スタンリー、見ててごらん。僕はバラのトゲぬきを上手く使えるようになったよ。こうして引っ張るようにして……」
    「アンタのママにまた怒られるよ、どうすんのさ、こんなに切っちゃって」
    「平気さ、少しくらい。ほら、トゲがとれた。スタンリー、おいで。きみの髪にバラをさしてあげる」
    「いらない」
    「僕が見たいのさ、ね、お願い、スタン、スタンリー」
     ゼノは花の美しさには興味がなかったが、幼馴染の持つ生来の麗しさには関心があった。勝手に花を摘んではスタンリーに飾り、喜ぶ。同じ年頃の少女たちが夢中になって鏡を覗き込むのに対して、ゼノは幼馴染を彩りたがった。レールガン、バラ、タバコ、そうしてスタンリーの人生に様々な飾り付けを施した彼女は今、ウェディングドレス姿でハイヒールを手に引っ掛けて、用意された待合室の窓から逃げ出そうとしていたのを夫となった幼馴染に見つかり、詰問されている。
    「どこ行こうとしてたわけ」
    「いや、何、ははは、ちょっと忘れ物を」
    「何?なんでも言いなよ。大樹がなんでも手伝うって張り切っててね、頼めば俺らの家でも研究所でもひとっ走りしてくれんよ」
    「男性に見られるのは恥ずかしいものなんだ」
    「コハクもいるぜ」
    「他人に見られるのは恥ずかしいものなんだ」
    「犬も猪も来てんぜ、スイカがぞろぞろ連れて来てっから」
    「……あー」
    「ネタ切れかい、ゼノ先生」
     スタンリーが石になって眠っている間にゼノは五年も先を生きてしまった。スタンリーはそれを後悔してはいないが、諦めたくもなかった。離れていた五年を取り戻したかった。いや、違う。旧時代、従軍を決めた日に捨てた初恋を、五年の空白を言い訳に、叶えたかったのだ。
     ゼノはウェディングドレスを着ている。いつものパンツルックも今日は止めて、プリンセスラインの白絹のドレスに、おろした髪を編んで後ろでひとまとめにしたクラシックなスタイル。もういい歳なのにとゼノは嫌がったが、スタンリーが杠に掛け合って実現した花嫁だ。初恋の天使にふさわしい衣装。しかし羽も生えてないのに窓から飛んで逃げ出そうとするなんて思ってもみなかった。
    「きみ、僕が好きだろう」
    「ああ」
    「結婚式なんてしたら、戻れないだろう」
    「……何に?他人に?」
    「僕にとって特別な、唯一無二の幼馴染に」
     スタンリーはため息をついた。今日はタバコを咥えていないから、吐けるものがため息くらいしかないのだ。
    「戻りたいの?」
     腕を引く。引っ張りながら、優しくなぞった。トゲぬきでバラのトゲをとるみたいに、恋人の心のささくれを均してやろうと思って。
    「戻りたいさ。戻って、永遠にきみの隣にいたい」
    「今からそれを神様のところに誓いに行くんだよ、ゼノ」
     肩を寄せる。ゼノの頭にはヴェールがかかり、スタンリーの髪にバラはない。180センチ同士の2人は、隣に立って近付くだけでキスの寸前にまでなれる。
    「神様じゃなくてきみが、僕に誓って」
     キスの寸前まで近付いて、抱きしめ、キスをした。抱き上げてそのままソファに座る。ドレスが皺になるのも気にせず、スタンリーはゼノを横抱きに抱えたまま、抱きしめた。
    「いいよ、一生アンタを手放さない。だからアンタも逃げられると思わないで」
    「情熱的だね。逃げたら追ってくれる?」
    「地獄の果てでも、アマゾンの奥地にでも」
     キス、キス、キスをする。そのままソファに寝かせたゼノのドレスのスカートが、スタンリーにはあの幼い日に彼女が自分にくれたバラと重なって見える。
     レールガン、バラ、タバコ……ゼノがスタンリーに与えた彩りは、ゼノの手から落ちてきたからこそ美しかったのだ。スタンリーは花にも自分の美貌にも興味関心がなかったが、この愛らしい天使のような幼馴染は是非とも手に入れたいとずっと、最初から、きっと最期まで、思っているのだろう。
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    ナンデ

    DOODLEギャメセレ
    この道も天に続いてる  縁、というものを手繰り寄せてギャメルは報われてきた。妹の病気というこの世の終わりにも等しい絶望に打たれ、人の道を外れた自分のそばに居てくれた親友に支えられ、他人の悲鳴と怨嗟の泥に塗れて形を無くしていく最中に太陽のような王の行軍に救われて、セレストに出会った日、ギャメルは自分が今度こそ裁かれるのだと思った。グリフォンの羽ばたきの音は強く、迷いなく、空を駆けてギャメルに届き、その背に乗る女の子は天使のような風貌をしていた。だからギャメルは可愛らしい天使の口から自分の故郷の状況を聞いた時、王は許しても天はギャメルを許さなかったのだと……そう思った。
    「急いで!まだ間に合う!」
     だけれど、セレストはギャメルの手をひいて、ギャメルの人生の来た道を戻っていく。辿り着いた故郷で斧を奮って昔のギャメルによく似た「奪う者」をなぎ倒していく。病で痩せ細った妹の手を握り、「大丈夫ですよ」と微笑む。巻き戻して、やり直しているみたいだ、とギャメルは思った。自分が歩いた泥の道をセレストが歩き直すと花が咲く。ああ、そうだ。ギャメルはこう生きたかったのだ。妹の前で泣くのではなく笑って、彼女を救い、親友の弓を人でも神にでもなく、正しく獲物に向けて自分たちの明日の糧にするために使わせて、奇跡のように現れた清らかな王子様に罪ではなくおとぎ話を見せたかった。何より、何よりも、ギャメルはセレストにとって素敵な男の人として出会いたかった。朗らかで明るくて、優しくて、真っ直ぐで、心根の美しい青年として、セレストに出会いたかった……。
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