Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    ななみ

    @nanami_xH

    @nanami_xH

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 20

    ななみ

    ☆quiet follow

    ・ディとフェが夜中にぽつぽつとおなはしする話。
    ・Twitterで上げて、pixivに上げて、せっかくなのでぽいぴくにも。
    ・『怖がれる』っていいことだと思います。

    ミッドナイト・ブレス ふ、と目が覚めた。霞む視界をしばらく放置して自然とそれが晴れるのを待つ間、今の自分の状況を把握することにした。そうだ、たしかウエストセクターのみんなで映画を見たのだ。

     相当昔な気がするが実はまだ数ヶ月前である、復帰前の監視期間。あの時期は復帰に向けてヒーローとしての勉強をしたり、友人や後に後輩となる人たちが遊びに来てくれたりして、あの狭い部屋なりに充実した日々だった。だが、それでも退屈を持て余すことが多かったのも事実だ。そんな時は、4年間の空白の期間にあった様々な流行りを見たり聴いたりするようにしていた。
     だが、それも足りなかったらしく今日のパトロール中に当然のようにジュニアが話題に出した映画をディノは知らなかった。別に流行ったものは全部見なければいけないわけではないけれど、ディノはそういった流行りを追いかけたいタイプなのでもちろんその映画にも興味を抱いたことを告げると、一瞬にしてテンションがハイになったジュニアが今夜にでも見ようぜ、と提案してくれた。
     そんな発起人のジュニアとディノ、好みの曲が多いからとサウンドトラックだけ買ったものの本編をちゃんと見たことはなかったフェイス、酒を飲もうとしたところ単純に捕まったキースと共有スペースの大きいテレビで観賞会に興じたのだ。もちろんお供はピザと、ついでにお約束のポップコーンと炭酸ジュースだ。ビバ、ジャンクフード。キースはいつも通り酒を用意していたけれど、今日のディノはジュースの気分だったのでそれを飲んだのはキースだけだ。
     サブスクリプション配信もされていたその映画は流行っただけあって感動的なストーリーは胸を打ち、アクションは豪快でCGも美麗だ。それと俳優の顔が良かった。――アクションと俳優の顔については、このHELIOS内にいると麻痺してしまうけれど。特にディノは、自分ならこの場面ならどう立ち回るか――とおそらく本来想定された楽しみ方とは違う観点で見入っていた。それに、ジュニアもフェイスも、最初は渋っていたキースすらひとつの画面に釘付けになっている光景が何だか愛おしいという感情も混ざって、おそらく普通に見るよりも何倍もその映画が面白く感じた。
     映画本編が終わったあと、簡単に感想と2時間強分に溜まった軽口を言い合った後、退席しようとするフェイスとキースを引き止めてせっかくだから他の映画も見よう、という流れになった。そこで白羽の矢が立ったのが、公開当時はなかなか話題になったものの、そういえばまったく感想やら考察やらの話を聞かなかったらしい映画だった。誰も見たことがなかったそれを見たのだが――それがまあ、その、うん……といった内容だったのだ。はっきり言うと、あまり面白くなかった。先ほどまで見ていたものがとても面白かったから尚更そう見えたのかもしれない。
     前日の夜遊びが響いたのか早々にリタイアして居眠りを始めたフェイス、酒の力もありその次に寝落ちたキースと、その2人に怒りながらもすぐに自分も寝てしまったジュニアを全員見送ったのは覚えているのだけれど、果たして自分はいつ寝てしまったのだろう。ディノは大抵のものは面白がれるし、映画の途中で寝てしまうようなことを頻繁にする方ではない――はずだから3人分の寝息がとどめの子守唄だったのだろう。

     そこまで考えてようやく視界が晴れてきた。大きな画面を見やればその中心には再生ボタン、画面下部には関連動画が右から左へと流れていっていた。どうやら映画はとっくに終わっていたらしい。少し肩を動かして凝りを解すと、この体はまだまだ若いらしくすぐに凝りも痛みも引いていった。
    (さて、どうしようか)
     右にはフェイス、そのまた右にはジュニアが肩を貸し合いながら眠っており、足元にはキースが転がっている。キースはクッションを尻に敷いていたはずなのに、それをいつのまにか折り畳んで枕にしていた。ちなみにフェイスが中心なのはひとつめの映画が終わった後にディノとジュニア2人がかりで取り押さえたからだ。さらに言えばキースはディノの泣き落としで引き留めた。
     画面もだんまり、起きているのはディノだけだ。静かなその空間はそれでも静寂というわけでもないから気まずくも寂しくもない。3人分の深い呼吸と、時々聞こえてくる布擦れの音はなんだか微笑ましくて、なんというか――。
    (……生きてるなあ、俺も、みんなも)
     静かな空間に響く深い呼吸で実感する、当たり前だけど当たり前じゃないそれを噛み締める。おそらくそれを1番痛感しているのはキースなのだろうけれど、揶揄うことはしないつもりだ。
     せっかく4人で居眠り、なんて面白い状況になっているのだ、明日も仕事はあるけれどそれでどうこうなるやわな体ではないと判断しまとめて放置することにした。まあ1番不安なのはキースだが、彼は床に転がってしっかりと横になっているのでいくらかはちゃんとした睡眠となっていることだろう。
     そっとフェイスから身を離してみたが、ルーキー2人が肩を貸しあってある姿勢だったこともあり、特に起こすこともなくそれは成功した。そのまま自分の端末を取り出してカメラを起動する。普通のカメラだとシャッター音は鳴り響いてしまうけれど、食べ物を綺麗に撮る用らしいアプリカメラは実は音が鳴らない。それを利用して内側のカメラに切り替えて心の中ではい、ラブアンドピース、と唱えた。4人しっかり写ったその写真にまずいものが写り込んでいないか確認して、投稿しようとしたところで手を止めた。これは明日あたりにしておこう。絶対断られるけれど一応全員に了解を貰ってからの方がいいし、真夜中のこんな時間に投稿してヒーローは不真面目だと囁かれるのはあまり良くはない。考えすぎかもしれないが、念のため日中に日時をぼかしてアップしよう。
     ふう、と端末を側に置き、隣で眠る整った顔を覗き込んだ。寝顔になるといつもよりなんだか幼く見えるその顔は、本人はいい気分はしないだろうけれどアカデミー時代に見たブラッドの寝顔によく似ていた。親友の弟かつ後輩でもある彼は本当に可愛い。容姿云々もそうだが、その性格も佇まいも全て『可愛いやつめ』に収束されるのだ。それはジュニアも、他のルーキーも面倒を見ていたオスカーもアッシュもみんな同じで、みんな可愛い後輩で頼れる仲間だ。


     無意識にフェイスの顔のあたりに自分の手を持ち上げた。それが彼の耳のあたりに到達したあたりで自分の行動に気付きはて、自分は何をするつもりだったのだろうと我に帰り――一瞬頭の隅に走ったその考えをつい追いかけた。
    (もし、俺が本当に悪い奴だったとして。――もし、まだ洗脳は完全に解けていなかったとして)
     絶対にそんなことはないと分かっている。自分は仲間が大好きで大切だし、HELIOSの化学班は優秀だから洗脳は完全に解けているはずだ。それでも考えずにいられなかった。手を少しだけ下ろして、首のあたりでぴた、と止める。
    (ここで狼の爪を立てたら。……首を絞めたり、骨を折ったりしたら)
     無防備に眠っている3人くらい自分なら簡単に殺せるんだよな。流石に起きるだろうし抵抗されて多少は手こずるだろうけれど、本気のディノ・アルバーニと寝起きのこの面々、そしてこの超近接距離という要素だけなら勝てると言う自負はあった。こんな風にすぐ側で眠っているのはそれだけお互いに信頼し合っているということ。その中に自分も入っているのだと思うと、何度でも込み上げるものがあるのだが――それはほんの数センチ、コンマ数秒で裏切って全部台無しにすることができるのだ。
     それはあくまで、それが可能だというだけの話で、それが起こる可能性は『ない』に等しい。だが、絶対にその可能性はないと思っていても『完璧に』か? 本当だろうな? と自分に何度も問いかけると、4度目あたりで頷くのに躊躇が生まれてしまう。
    (……)
     数秒、様々な感情が脳内を駆け回った。あまりにも多く早かったそれをひとつひとつ確認する前にそれらはみんなどこかへ行ってしまったのを見送った。その間ディノは微動だにしなかった。
    「……うん」
     でもやっぱり、ないな。
     当たり前すぎる結論に頷いた。何をどうしたって、残り数センチになったってディノには何の衝動も生まれなかった。むしろ、この可愛い後輩も頼れる仲間も守りたいという気持ちがより強くなっただけだ。無駄に降り積もった嫌な感情たちをしっしっと追い払う。
     首元にあった手をまた持ち上げて、フェイスの頭を髪が乱れるほどわしゃわしゃ撫で――ると起きそうなので軽く髪を数回撫でるだけにした。子供扱いしないでよ、と言われそうだ。別に下に見ているわけでもないのだけれど、それでも可愛いものは可愛いので仕方がない。どこか安心して満足した心地になり、最初に自分が手を持ち上げたのはこの黒髪を撫でたかったのだな、と自覚した。
    「……子供扱いしないでよ」
    「あれ」
     脳内で勝手に生成されていた声が現実となってディノの耳に届いた。ぱ、と見てみればフェイスの目はじとーっと少しだけ不満そうに開いていた。まさかと思いついでにその向こうのジュニアと足元のキースを確認してみると、目を閉じて深い呼吸をしていたので完全に眠っていると確信しほっと胸を撫で下ろす。2人を起こさないよう、囁く声で謝罪した。
    「ごめん、起こしちゃったか?」
    「ちょっと前から起きてたよ。さすがにソファーで座って両隣に人がいて……って状況で爆睡できるほど俺は図太くないの。繊細なんだよ?」
    「それは本当にごめん。……ちょっと前って?」
     自撮りした時はおそらく眠っていただろう。でなければ止められるか避けられるか、顔を隠されるはずだ。ならば、と思っていると案の定な答えが返ってくる。
    「ディノが俺の首をじっと見てたあたりから。俺がディノをチラ見したの、気づいてなかったでしょ」
    「……うん」
     『首を見てた』という言い方をするならば、十中八九バレているだろう――今なら殺せるなんて、その気がないのに考えていたことは。そこまで大層なものではないかもしれないけれど、言うなればフェイスはディノに命を預けていたも同然だったということだ。
    「……驚かせた?」
    「まあ少しは驚いたけど、眠いし放置。何かされたら反撃するしね」
     割に殺気も警戒も感じられなかったのだけれど、フェイスの顔を見ていなかったからか、自分が眠くて感覚が鈍っていたか、今のフェイスの発言がハッタリなだけなのかは分からなかった。
    「そっか。……なあ、フェイス」
    「なあに、ディノ」
    「……大丈夫だよ。俺、ちゃんと怖い」
     その言葉にフェイスが少しだけ目を見開いた。本来これはいくつも年下の後輩に言うべきセリフではない。眠くて思考が麻痺しているとは言っても、そのくらいのことは流石にわかる。だが、聡いフェイスに見られて知られてしまったなら伝えなければならないとも思う。自分は大丈夫だ、と。それに驚いた顔をしていたマゼンタの瞳はすぐにふっと微笑んで、満足そうにソファーにさらに深く身を預けて目を閉じた。
    「良かったじゃん」
     ディノの過去は笑い飛ばすにも忘れるにも重すぎる、彼自身に深く刻まれこびり付いているものなのだ。一生この過去は変えられないし逃れることもできない。きっとそれに付随して考えてしまうこともきっとなくなることはない──ずっと向き合って抱えていかなければならないものだ。ならば、問題となるのはどう向き合うか。
     ──怖い。その過去から今をちゃんと守れるだろうか。壊したりしてしまわないだろうか、この愛は本物で、それを自分は貫けるだろうか。といっても、それをディノは必要以上に怖がっているわけではないし、恐怖で動けないとか精神が不安定とかそんなことにもなっていない。きちんと分析して、自覚して、適切な距離感できちんと怖いと思えている。
    (怖いと思えるということは、それだけみんなが大好きで大切ってことだから)
     自分が本当に悪い奴だったり洗脳が解けていなかったりしたらこんな風に思うことはきっとない。それはスパイスのような、少し穏やかではないかたちの安心感へと形を変えるのだ。自分はみんなが、平和が大好きだ。だから、こんなに怖い。
    「……まあ、俺はこのまま寝るよ。おチビちゃんを夜中に起こすのはかわいそうだし。アハ、寝る子は育つって言うしね」
     まあ、こんな姿勢の寝落ちだしそのうち起きちゃう気もするけど。
     その声はいつも通り揶揄っているようにも聞こえるし、どこか慈しんでいるようにも聞こえた。もう少しだけその言葉を追いかけたいけれど本人のためにやめてあげることにしよう。
    「俺もこのまま!」
     ジュニアに寄りかかられているフェイスはともかく、誰とも干渉していないディノは自分のベッドに行こうと思えば行ける。でも、せっかく、せっかくだし、とフェイスと同じようにソファーに深く体を沈み込ませた。
     陽が昇って最初に目が覚めて、みんなを起こすのは一体誰だろう。足元から聞こえた身じろぎの音と言葉になっていない寝言に、まあキースでないことは確かかもな、とくすりと笑って目を閉じた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭❤💯👍💖💖💖💞💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works