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    ななみ

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    ななみ

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    ゼロぴとディが分裂、割と仲良し世界線のこと考えてた。
    導入しかない。

     星の見えない空の下に咲いた傘を、バラララ、と雨が重く鳴らす。まるで散弾銃だ、生でその音を聴いたことはないけれど――と、蓋を被せられたように重く暗い空を見上げてはあ、と息を吐いた。そこそこ寒い今日ならば吐いた息が白くなって昇っていくだろうと予想しての事だったのに、その音は姿を現さずにただ静かにどこかへと消えて行ってしまった。なんでも思い通りにはならないものだ。
     ただ、それでもフェイスは機嫌がよかった。フェイスの口から次々に溢れだす、雨に紛れて溶ける鼻歌は勲章だ。
     事の顛末はこうだ。
     いつものようにフロアを盛り上げていたら、誰かの付き添いなのだろう若い男が後ろの方で腕を組み、俗に言う地蔵になっていた。当然知らない男だが――だからこそだろうか、つまらなさそうな男が妙に目に付きなんだか面白くなくて、即興で曲を組み替えたのだ。男のファッションや僅かに見える機微を観察し狙い撃ちにしていけば、男もだんだんと楽しくなってきたのか腕を降ろし、すぐそばのテーブルに置いていたドリンクを一気に飲み干し、騒がしくて楽しい輪の中へと一歩踏み出した。
     フェイスの番が終われば男とハイタッチ――することもなくただ一人静かに達成感に浸り、甘い言葉を投げてくる女性たちを軽くいなしながらお開きになるまで適当に過ごして、それから雨の帰路に着いた。その間もずっとあの達成感の余韻が消えない。脳内ではずっと今日掛けた曲が流れていて、ついつい口から溢れてくる。自分用に再アレンジして音源として持っておくのもいいのかもしれない、あの男の事を抜きにしてもなかなか上手く出来たものだと思っているのだ。
     (ジュニアでもあるまいし)流石にスキップはしないけれど、気分だけはそのくらいある。だが――タワーに帰り着いてその光景を見た瞬間、楽しい気分は冷や水をかけられたように霧散していった。

    「……?」

     傘をさしていても濡れるような散弾銃の中、ずぶ濡れになってタワーのメインゲートから死角になる街灯の陰に隠れた人物のことを最初は誰だか分からなかった。なんなら不審者だろうかとも思ったのだが、目を凝らしてようやく見つけた白いパーカーの端から覗くコーラルピンクはよく知った色だ。

    「……ディノ?」
    「……!」

     雨の音にかき消されてフェイスの声は聞こえなかっただろうが、持ち前の野生の勘なのか彼はすぐにフェイスに気付き――肩を小さく揺らし表情をこわばらせた。一歩近づけば何か様子がおかしいことにすぐに気が付いてしまい、フェイスはその人を無視するという選択肢を早々に手放した。この雨の中だ、まず真っ先にするべきことがある――とフェイスはほぼ無意識に自分が濡れない程度に小走りで駆け寄って、彼に自らの傘を傾けて差しだした。少し自分も濡れた感覚はするけれどそんなのは些細な事だ。

    「どうしたの、ディノ? こんな雨の中……」
    「……いや……なんでも」
    「早くタワーに入らないと濡れて風邪ひいちゃうよ。……いや、まあ既に取り返しがつかないくらい濡れてるけどね」
    「……」
    「……誰かと喧嘩でもした?」
    「っ、してない」
    「ふうん。……とりあえず入ろうよ。明日はサウスとの合同訓練でしょ。風邪でも引かれて言い出しっぺのディノがいなかったら絶対変な空気になるって」

     あのアキラとジュニアがいる以上そうはならない気もするが、物は言いようである。とにかく今は目の前のどこかしょんぼりした狼さんを連れ帰ることが最優先事項だ。そもそも、ディノがいなければ絶対あるだろう小競り合いを一番うまく仲裁できる人がいなくなるに等しいし、模擬戦でもあれば不利になるのはウェストの方だ。そして、そのどちらとも一番割を食うことになるのはきっとフェイスだろうことも、既に理解できてしまっている。それは絶対面倒だから今の内に可能性は潰しておきたいのだ。
    いや、今彼がどうしてこんな状況にあるのかの原因もきっと面倒なものなのだろうけれど。
     それにしても、だ。

    (様子がおかしい……っていうのもちょっと違うかも。見た目はディノだけど、ディノって感じがしない……? それとも……ああもう、俺こういうのニガテなんだけど?)

    「――ッ!」
    「え、ちょ……」

     フェイスが違和感の正体を見つけるべくずぶ濡れの彼を宥めながらも頭をフル回転させていた意識の隙間を縫って、彼は軽くフェイスを押しのけて走り出した。トン、となかなかの勢いで身体を押されたと思ったが尻餅をつくどころかよろけることすらなかったのはフェイスがそれなりに鍛えているからだろうか。
     彼がいまいち元気がないことが、個人的な人間関係のもつれ程度に起因されるものならばフェイスの知った事ではない。どうかフェイスの知らないところで勝手にやって適当に仲直りしていてほしい。だが、ディノ・アルバーニという男はたとえ誰かと喧嘩してもそれを無関係のフェイスに当たったりするような男ではないことは知っている。特に経験があるわけではないけれど、確信としてそう思えた。だから、今彼がまったく何の心当たりもないフェイスに対してこんな態度を取っていることは不思議を通り越して異常とまで言える事態だ。大したことではないことを祈りつつも、もしかしたらの事を考えてディノから事情を聞くために彼を足止めすることにした。

    「えい」

     ぱちん、と鳴らしたその振動は雨を器用にもかいくぐり、逃げるように走る男の足へと届き――。
     ずべしゃあ、と綺麗に転ばせた。

    「ッ……」
    (あ、ヤバ。ディノ、顔から行った?)

     仮にフェイスからの軽い攻撃に気付かなかったとしても、何度も訓練を一緒にして相手役もしてくれたディノだから華麗に避けながらも足を止めてくれるだろう、と期待しての行動だったが、そんなフェイスの予測は大きく外れてもろに食らってしまったようだ。これもいつものディノなら考えづらいことだ。
     どうしたものかと途方に暮れていると、今度はフェイスの背後から扉が開く機械音とよく知った人の声が聞こえた。

    「あれ、おかえりフェイス!」
    「……ディノ?」
    「おーおかえりフェイス。悪い、ディノ見なかったか? ああいや、こいつはノーカン……で……」

     振り返れば、麗しのメンター殿たちがレインコートを羽織りながらお出迎えをしてくれた。ディノはいつも通り明るく呑気に見えながらも少し緊張した色もにじませ、キースは相変わらず読みにくい声色で片手を緩く挙げた――かと思えば、その声は分かりやすく困惑し緩やかに消えていった。
     タワーの前にはちょうど今出て来たばかりの、いつも通りのディノとキース。そこから少し離れて、自分ことフェイス。更に離れて、(フェイスのせいで)倒れている様子がおかしかったずぶ濡れのディノ。
     フェイスは先程までのご機嫌はどこへやら、あ~……と空を仰いでからふうと息をついてうつむき、それからにこ、と傾国の微笑みを浮かべた。

    「帰って寝ていい?」

     ああこれ、絶対面倒じゃん。
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