エンドロール 1冷たい熱を奪う
「僕は蛍が好きだよ」
昼下がりに落とされた言葉に蛍はぴたりと動きを止めた。彼の部屋で食事をしようと招かれて、テーブルの向かいに座り合いゆっくりお昼ご飯を食べて少し休憩していた矢先、彼はふと思い出したように口にした。
人とは違う黒く大きな耳。ワルカシュナという元は砂漠の民であった一族は森林に住むようになってから黒から緑の毛色に変わったとされている。彼の大きな耳と尻尾は黒を基調としているが時折緑色が混ざっていることから先祖の血が濃いのかもしれない。その大きな耳が時折ぴくぴくと動いている。頬杖をつきながら彼は何てことないというように穏やかな表情で蛍を見ている。
「……え」
彼の様子から、先ほどの言葉が間違いでも冗談でも何でもなく本気で告げられていることがわかって蛍は息を呑む。
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