ポケットに入れっぱなしで洗濯すると時々取り返しのつかないことになるよね。ガタガタガタガタ!!!!
洗濯機から聞こえてきた異音に、ヒルマゲントは飛び上がった。妻の妊娠をきっかけに休暇を取ることが増えた最近、家にいる間はゲントが家事の大半を担っていた。息子のジュンが学校へ行き、妻のサトコが通いの産婦人科へ出かけたそんな静かな平日の午前中。溜まった洗濯物を洗濯機に投げ込み、洗剤と柔軟剤をセットしてスイッチを入れた数分後、順調に洗い物をこなしていた洗濯機が聞いたこともない音を上げ始めた。
「おいおい、今壊れるのは困るぞ…」
部屋を出る時に慌ててぶつけた頭を押さえながら、ガタガタゴトゴトと鳴り続ける洗濯機を恐る恐る覗き込もうとしたゲントはふと、とあることを思い出した。そういえば、今日の洗濯物には自分のズボンが入っている。デニムで厚手のそれは、もう色落ちはしないだろうとまとめて洗うようになって久しい。そして。
「ブレーザー…」
果たして自分は昨夜、風呂に入るときにポケットからストーンを取り出しただろうか。先ほど洗濯機に放り込んだ時、ポケットの中を確認しただろうか。休暇ぶんの埋め合わせをしようとここ最近勝手に仕事を詰め込んでいたせいで、昨夜は非常に疲れていたのだ。帰宅した時点でだいぶぼんやりとしていた…様な気がする。嫌な予感と罪悪感が押し寄せて、ゲントは慌てて洗濯機を止めた。
「ブレーザー!」
洗濯層に手を突っ込んで自分のズボンを探す。ずっしりと濡れて重い洗濯物をかき分けて数秒後、突然洗濯槽の中から何か小さくて煌くものが飛び出した。呆然と見上げたゲントの視線の先、洗濯槽の上数十センチのところでしばらく浮遊したそれは、蒼い光を放つメダル状の平たい石―
「痛っっ!ごめん!痛い!ごめんって!ほんとごめん!」
素早く飛び回りドスドスと頭に体に突き刺さって来る蒼い石に平謝り。これは本当に自分が悪い。ポケットから出してもらえず、果てはそのまま洗濯されかけたブレーザーの機嫌はどうやら最悪で。
その日、帰宅した妻が見たのは額にしっかりと痣をつけ何時になくしょんぼりとした様子で洗濯物を畳む夫の姿だった。
「パパ、その痣どうしたの?」
「いやちょっと、転んでぶつけた…感じ?かな…」
「ブレーザー…あの、本当にごめん…言い訳になってしまうのは判ってるけど、その、本当に昨日は疲れてたんだ…俺の不注意だった。不快な思いをさせてすまない…。」
「俺のこと嫌いになったか…?」
「あああ熱っっっ!?あつつ…えっと、その、ごめん…」