暑すぎてヒューマギアがエラー吐く話 イズ編 その日は本当に暑かった。最高気温は37℃を記録し、全国で熱中症患者が続出した。暑さで不調をきたすのは人間だけではない。優秀な冷却機能を備えたヒューマギアとて、流石にこの気温では動作に支障をきたすのである。
飛電インテリジェンス社長室
「ああああ暑かった!!!」
部屋に入るなりデスク前の椅子に倒れ込むのはこの会社の若き社長、飛電或人その人である。今日はこの炎天下、協力企業との会合に出席していたのである。会場はもちろん、移動する車内も空調が効いてはいたのだが、それでも外気に触れる瞬間はある。なれない正装も、社屋前での報道陣のインタビュー攻撃も、確実に彼の体力を削るものであった。
「イ、イズさん…。なんか冷たい飲み物ない?」
椅子の上で溶け落ちながら、ネクタイを外して傍らの秘書にぼやく。
「お飲み物ですね、承知いたしました。しばらくお待ちください。」
いつも涼しげな秘書は、いつも通りの涼しげな笑みを浮かべてモジュールを点滅させる。食堂か、カフェテリアにでも連絡しているのだろう、そう思いつつ或人はジャケットを脱いで、ラボを開けた。途端、顔に感じる生暖かい空気。
「暑!?あ、あれ?空調止まってない?イズ、これ大丈夫かな」
慌てて振り返るとイズは明後日の方を見てまだモジュールを点滅させている。
「イズさん…?」
返事は無い。
「イズ?」
そういえばさっきから何かの回転音みたいなのが微かに聞こえている。
「イズ!」
大慌てで彼女に駆け寄り覗き込むと、イズはいつもの涼しげな表情のまま固まっていた。モジュールランプがもの凄い勢いで点滅している。心なしか、回転音が大きくなってきたようだ。秘書の異常に狼狽した或人は恐る恐る彼女の頬に触れる。
「あっつぅぅ!!え?何これ熱い!!」
「承知いたしました、アルト社長。空調を暖房に設定します。」
「はい?イズさん?」
「空調温度を上げますか?承知いたしました、では38℃に設定シマス。ダイカイギシツオヨビショクドウノクウチョウヲ、レイボウカラダンボウニキリカエ…」
「まってまって待って!!イズさぁあん!?!?ちょ、ちょっと、誰か来てぇ!」
--熱暴走を起こし、社内の空調設定をひっかき回した彼女が正常に戻ったのは、その日の晩のことであった。