ある高校生の証言① 毎朝、小さな教会の前を通って高校に通っている。結婚式でよく見るようなあんな立派なやつじゃない。小ぢんまりとした聖堂を取り囲むように庭があって、花が植えられている。小さな階段と少し古びた門、わたしが通る頃にはいつも開いている。
門が開いているし、たまに聖堂の扉も開いてるからまだ使われているんだろうとは思うけど、神父さんとかシスター?とかは見たことがない。
◇
きょうは高校に遅刻した。病院に行ってから学校に行くから、普段より2時間遅く家を出ていつもの道を歩いていく。ここまできたら学校行かなくたっていいじゃん。授業ほとんど受けられないんじゃない?
その時だ、いつもは人の気配なく開け放たれた門から人影が現れたのは。驚いて思わず立ち止まってしまった。
「あれ、こんにちは。学生さんかな。」
整った顔だ、と思った。顔を傾けて問うてくる頬のあたりに髪がかかる。眼鏡の向こう、細められた目を見上げた。うさんくさい。
「ここの教会の人、ですか?初めて見た」
「そうだよ。ここ通学路かい?君が朝通る頃には聖堂の裏で花壇に水やりしてるから会わなかったのかもね」
気が向いたらまた今度、中までおいで。そう言うと黒い服の裾をひるがえしてまた門の中に戻っていく。その場でスマホを取り出して調べた。あの服はカソックと言うらしい。
結局あの後はことさらゆっくり歩いて病院に行ったし、病院でもすごく待たされたから授業はあと2時間になってしまったし、もう学校を諦めて来た道を戻ることにした。普段は何も考えずに通り過ぎていた教会が、今日は気になる。
大きく息を吸って、吐いて、足を踏み出した。門を抜けたら、石畳が聖堂の入口へと続いている。少しだけ開いた扉に手をかけて、引っ張った。
扉は重いが、軋んだ音をたてることはなかった。窓から傾いて射し込む日光が、舞い上がったほこりを光らせる。1歩、また1歩と微かな足音を立てて通路を進んでいく。両側に木製のベンチがあって、ホーム・アローンと一緒じゃん。
通路の突き当たりは1段高くなっていて、なにか置いてある。段の前で立ち止まっていると右から声をかけられた。
「早速来たのかい?」
朝会った男が雑巾を持って立っていた。