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    shimo_anko_2272

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    駿夕

    #駿夕

    「おはよ」
    駿介の声がした。クラスの人気者的立ち位置の彼は毎日毎日、挨拶しながら教室に入ってくる。後ろのドアから窓ぎわから2列目の1番後ろの席まで歩いてくる。最後に彼の斜め前の俺に挨拶するのだ。
    「おはよう、夕弥」
    「おは、よ・・・天城」
    びっくりした。なぜなら、彼が、いつもは掛けていない眼鏡をかけていたから。
    「眼鏡?」
    「ん、今日コンタクト入れるの失敗した。恥ずかしいな。」
    なんて言いながら苦笑する彼に、つい見とれてしまった。
    「・・・あ、や、」
    そんなことない、と続くはずだった言葉は甲高い声にかき消された。
    「駿介!眼鏡なの!?かっこいいじゃん!あ、おはよ!」
    「おう、はよ。コンタクト失敗した」
    同じクラスの派手な女子が駿介に声をかけた途端、周りにいた女子が集まってきた。
    笑顔で彼女達と話す駿介をぼんやりと見ていた。胸が、言いようのない痛みを訴えてくる。チクリと刺すような、ギュッと握られているような。もやもやとした気持ちを抱えたまま、読みかけだった本に目を落とした。

    結局のところチャイムが鳴るまでの10分間、駿介は女子からの質問攻めに合っていた。いつもなら、昨日の夜のテレビの話をしている10分間だった。だが、彼はこちらに見向きもしなかったのだ。なんとも面白くなくて、本に集中しようと文章を目で追っても、5行読むと駿介の方に視線が向かってしまい、内容が頭に入ってこない。目線だけがページを上滑りする。だから1ページも読まないうちに本は閉じてしまった。本を閉じる時に大きな溜息を吐いたら、駿介がちらりとこっちを見たような気がしたが、まあ気のせいだろう。

    4限の終わりを告げるチャイムが鳴った。いつもは駿介がお弁当を持ってこっちに来る。だが今日は、自分がお弁当を持って駿介の机の前に立つ。自分を見上げた駿介が笑いながら「弁当、食う?」と聞いた。それに答えずに駿介の右腕を引っ張って、ドアの方へ歩き出す。不意の動きに対応できなかった駿介は、膝を机の足にぶつけ、あいでっと声を上げた。周りにいた数人が駿介を見た。が、構わず引っ張った。バランスを崩しながらも机の横にかけていたお弁当をすんでのところで掴み、駿介は俺についてきた。なあ、ちょっと、待てって、という声を無視して渡り廊下を通って別棟の3階へ行く。そこは俺らが人目を避けたい時に行くところ。今なら誰もいないだろう。

    階段を登りきって、駿介の手をぱっと離した。
    「なんかと思ったよ、夕弥」
    「・・・・・・」
    未だに目も合わせず、なにも言わない俺のことを不審に思ったのだろう。
    「夕弥、・・・ゆーう!」
    両手で俺の頬を挟んで、ぐっと自分の顔にむけやがったのだ。肘の辺りで揺れた弁当が軽く胸に当たった。目の前に、駿介の顔がある。眼鏡の向こうの瞳が俺のことを見ている。ぶわっと顔が熱くなるのがわかった。
    「ぁ、う、」
    駿介の手を振り払って、俯きながら駿介を軽く突き飛ばした。どわぁっ、と間抜けな声をあげながら壁を背に尻もちをついた駿介。はっ、はっ、と荒い息を吐きながらゆっくりと駿介に近づいて、そっと駿介の足をまたいで膝立ちした。駿介の顔が俺の胸の辺りにある。見上げてくるその目も、眼鏡越しにきらきらしているのだ。たまらなくなって、手を伸ばして駿介の眼鏡を外した。勢いに任せて外してしまった眼鏡をどうしたらいいかわからず俯く。ふっ、と笑う声がした。俺はますます深く俯いた。もう、泣き出してしまいたい。
    「夕弥」
    不意に名前を呼ばれた。じわりと涙が滲んだ顔じゃ、声に反応することもままならなかったが、するりと頬を撫でる感触がした。そのまま彼の手は俺の目尻に滲んだ雫をすくう。
    「嫉妬、した?俺が女子と話してたから、ヤキモチ焼いた?」
    恥ずかしさで口もきけない。駿介は黙ったままの俺の手から眼鏡を取って、床に置いた。
    「ね、夕弥」
    腰に手が回ったと思ったら、ぐっと引き寄せられ、抱きしめられた。腹の辺りに駿介が顔を埋めている。
    「可愛いな、夕弥」
    胸がぎゅとした。恐る恐る駿介の背中に手を回す。
    「泣いても可愛いな」
    「泣いてない」
    「朝から機嫌悪かっただろ」
    「そ!・・・んなことない・・・し」
    「いつも見てるんだから、わかるよ」
    駿介の足の間に座ったら、俺が駿介を見上げる形になった。にこにこしている頬をぎゅっと抓って、側に置かれていた駿介の眼鏡をかけてみる。
    「おぉ!似合うな」
    「・・・お前の方が、似合ってる。し、かっこよかったし」
    ばーか、と小声で言って、べチンと駿介の両頬を挟んでやった。
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