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    きゃな

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    きゃな

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    イチ松
    同棲してる大人なふたりの金曜日の夜は
    連休明けの朝&木曜日の夕方の続き

    連休明け、一週間お仕事お疲れ様👋

    #イチ松

    金曜日の夜は フッと意識が浮上し時計を確認すると、目覚まし時計が鳴る前に目が覚めたようだった。このまま二度寝をすると寝坊することは確実だろう。寝起きの鈍い思考でも分かりきったことだ。
    ゆっくりと布団から這い出し、足音が鳴らないよう気をつけながら洗面所に向かう。洗面所の鏡には、寝起きで目つきの悪い己の姿が映った。
    洗顔料を泡立て、強く擦りすぎないように顔を洗うと、手のひらにチクチクと当たる髭の感触に眉間に皺を寄せる。うっすらと生えた髭を面倒だと思いつつ、清潔感が無くなるのは避けたいためシェービングをおこない化粧水と乳液をペチペチと頬に叩き込み保湿をした。

     先程の目つきの悪い顔よりは、さっぱりとした顔になり、キッチンへ向かう。出発まで時間には余裕があるため、自分の朝食と松本の分も合わせて準備をした。
     ゆっくりと朝食を食べながら、小さな音量でニュースを見る。“交通機関は通常通り“のテロップを見て安心しつつ、昨日のやりとりを思い出した。

    (やりたいこと、かぁ……まあ、一択しかないけど、それにすると稔は困るよな……あわせて料理のリクエストをしておくか)

     メモ用紙にサラサラとやりたい事を書きながら、月曜日の朝から昨日までの恋人とのやりとりを思い出す。どうやら今は、俺を甘やかしてくれる期間のようなのだが、恥ずかしがり屋の松本のことだ、俺の“やりたいこと”は照れて却下になる可能性も考慮し、今日の夕飯のリクエストもあわせて書くことにした。

     歯磨きとヘアセットも完了し、スーツにも着替えた。出勤前の準備が全て終わり、家を出る前に恋人の姿を一目見ようと寝室へスルリと潜り込む。すぅすぅと寝息が聞こえ、気持ちよさそうに眠る松本に近づくと、大きなベッドなのに一人分の空間を開けて眠っている松本の姿があった。独り寝が寂しいのはお互い様だったようで、頬がニヤけるのが分かった。
     高校時代より伸びた髪を、起こさないように優しく撫でる。小さな声で「行ってきます」と呟くと、眠っているはずなのに、ふにゃりと頬を緩めた顔になった。まるで「行ってらっしゃい」と返してくれたような、そんな気がした。

     柔らかくなった表情を眺めていると、出発の時間になっていた。重い腰を上げ、玄関に向かう。メモに書いた要望は叶えられるだろうか。朝起きて松本はどんな反応をするのだろうか。と考えながら革靴を履き、ゆっくりと玄関のドアを開けるのだった。

    * * *

     早出をしたからといって、定時前に帰宅できるわけもなく、残念ながら定時後、一時間が経過している。昨日決意した早く帰るという意気込みは、脆く崩れ去っていた。
    松本が待っている部屋に帰りたい気持ちを抑えつつ、キーボードを叩く。Enterキーを押す音がいつもより強い気がしたが、周りも似たようなものなので、気にしないことにする。

    「一之倉くん」

     呼ばれて振り向くと上司が立っていた。また何か頼まれるのか?と身構えようとすると、「今日は早出してくれて有難う。おかげで何とかなるから、キリの良い所で今日は帰って大丈夫。残業までしてくれて有難う」と声をかけられた。
     上司からの言葉に、先程まで思っていたことはポイっと捨て、「ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます!!」と大きな声で返事をする。正直な部下の反応に上司は笑って、もう一度、「今日は有難う」と言って離れていった。
     そうだった。今の上司は気配りしてくれる人なのだ。早出や残業をしている部下へ声がけし、たまにコーヒーを奢ってくれたり、お菓子を配ってくれる人だった。上司を見ると、他の早出をした部下に同じように声がけをしているようで、みな似たように返事をしていた。
    上司から帰宅の了承を得たことだ。キリの良いところまで終わらせようと、キーボードを叩く速度は早くなり、先程よりEnterキーの叩く音は、気持ち小さくなっていた。

    * * *

    「お疲れ様です!お先に失礼しますっ!!」

     フロアにいる同僚や上司に大きい声で挨拶をする。背中の方で苦笑しながら「お疲れ」と言っているようだったが、今日の自分は気にする余裕は無い。なんたって、松本が待つマンションに早く帰りたいからだ。
     早足で会社を後にする。電車を駅のホームで待ちながら、20時過ぎには家に着けそうだと、ほっとした。年々、松本に関する事柄に、持ち前の忍耐力が発揮しなくなってきた自分に苦笑しつつも、そんな自分は嫌いでは無い。到着した電車に乗り込み、電車の窓ガラスに映った顔は緩んでいた。周りの乗客から不審な目で見られないよう、頬に手のひらで覆い隠すのだった。

    * * *

     自宅のマンションが視界に入ると、部屋からは明かりが灯っていることが見えた。
    愛しい恋人が待っている。思わず、足を早く動かしてマンションへの帰路を急ぐ。
    ドタバタといつもは立てない足音を立て、勢いよく玄関を開けると、頬肉の薄い顔に笑窪を浮かべて笑う松本の姿があった。

    「おかえり」
    「ただいまっ!玄関で待っててくれたの!?」
    「足音が聞こえたから、もしかして。と思って……聡、汗かいてるぞ」
    「わっ、ごめん」

     顔に流れてきた汗を、指の腹で拭い取ってくれる松本に謝る。革靴を脱ぎ、しゃがみながら靴箱に収納していると、「料理できてるぞ。……リクエストの鯖の味噌煮」と、朝のメモに書いた料理を準備したと話しかけられる。

    「あ、うん!ありがとう」

     もう一つの方は、やはり却下になったのか……と残念に思いながら、立ちあがろうとした瞬間、爆弾が降ってきた。

    「……ご飯にする?お風呂にする?……それとも、お……俺にする?」
    「えッ!?」

     最後の言葉はか細かったが、聞き間違いではない。“俺にする?”と言ったのだ!
    目を大きく見開き、立ちあがろうとした姿勢のまま松本を凝視する。恥ずかしそうに頬を赤らめ、目線は下を向いていた。

    (俺の恋人が可愛すぎる……)

     天を仰ぎながら、恋人の可愛さを噛み締めていると、「……やっぱ、なし!」と言うので、慌てて「全部!全部でお願いします!!」と大きく返事をした。

    「……必死すぎるだろ」
    「そりゃあ必死にもなるよ。だって俺のやりたい事を全力で叶えてくれようとしたんだから」
    「まあ、うん……俺も、その気持ちだったし」
    「“イチャイチャしたい”…叶えようとしてくれて、ありがとう」

     ぎゅうっと抱きしめ、額を擦り付ける。一週間頑張ってよかった……と思いながら、松本の首に腕を回した。
     
    「ただいまのちゅう…しよ」
    「……手洗い、うがいをしてからな」
    「はーい。…あ、そうだ。朝の“おはようのちゅう”と“行ってきますのちゅう“が出来なかったから、“お帰りのちゅう“は三倍な」
    「……ちゅう、だけじゃ足りないくせに、よく言うよ…」
    「ふふふ、良いだろ。イチャイチャするんだから!」

     額を合わせ、くふくふと笑い合う。一週間お疲れ様……お互いの頑張りを讃え合う。
    さあ、美味しいご飯を食べて、一緒にお風呂に入って身体をあたためよう。
    お待ちかねのデザートは、ベッドで残さず、美味しく召し上がれ。

    おわり
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