タイトルはまだない帰還中から豊前の機嫌が悪い。理由は判っている。今回の任務で僕が坊主に色仕掛けをしたからだ。本番まではしていないから僕は別に構わないのだけど、豊前は最後まで反対していた。ずっと口を聞いてくれていないから、相当怒っているのは伝わってくる。なんというか、びりびりとした怒り。
あの生臭坊主を始末するには、この方法が手っ取り早かったんだ。
部隊長である山姥切長義が主に報告に行くと言うので、僕はそのまま部屋に戻ることにした。部屋に戻る間も、豊前は黙ったままだ。ああ、これはしばらく口を聞いてくれないだろうなあ。仕方ないか……。
「シャツが血でべとべとだ。漂白しないと……」
部屋の入口でコートを脱いでいると、いきなり腕を掴まれたと思えば壁に押しつけられた。眼前には、燃えるような瞳をした豊前の顔。てっきり怒っているのかと思ったのだけど、どちらかと言えば悲しいような、切ない表情で。
「ぶぜ……」
名前を呼ぶ声は噛みつくようなキスに飲み込まれた。僕はと言うと、壁と豊前に挟まれて身動きがとれない。豊前の胸を押してみるが、向こうも力を入れていて敵わない、この、僕がだ。
その間にもシャツのボタンは外されて、胸が露になる。豊前の冷たい指先が伸びてきて、体が跳ねた。
いつもとは違う。
悲しい、怒り、負の感情が混じり合っている。
僕の喉が上下した。自分のと、豊前の唾液を飲み込んだところで豊前が壁を叩いた。
「松井……頼むから、自分を大事にしてくれねえかっ」
「あ、……」
泣いているのかと思った。眉は下がって、哀しみが浮かんでいる。
「あれしか、方法はなかったんだよ……」
わかってる、と豊前は小さく呟く。
「でも、頭ん中の血が沸騰するかと思ったけん……」
「作戦ってわかっててもだめやった」
「思念であの坊主を殺せるなら、殺していたと思うよ、俺は」
豊前の舌が胸を這う。ころころと転がすような舐め方だと思えば歯を立てられたり。痛いより、快感の方が勝って頭が変になりそうだった。
「ぶ、ぶぜんっ。ま、待っ、」
「悪い、待てない」
「っっ」
下腹部に熱が集まる感覚がする。気づけば豊前の手にはベルトがあった。器用に片手だけで脱がされて、足下に落ちていった。
「今日は俺がする」
「え?あっ……まっ、ぶぜっっ」
豊前の大きな手が下着の上からの刺激を与えてくる。手で制止をしようとしたけど遅かった。僕の性感帯を知るその手は的確に攻めてくる。
「んっ、ぁ、ぅあっ、やらっ」
「嫌じゃないろ?」
「ちがっ、ふぁ、あ、ん」
「ほーとかわいいな」
唇を重ねられて、舌を絡められる。その間も手の動きは止まらない。気持ちいい。腰が揺れてしまう。
「な、なあ…ぶぜん」
「あんまし煽んな。抱き潰したくなるだろ」
低い声に背中がぞくぞくとした。
豊前の顔が急に視界からなくなったと思えば、ひやりとした感触が僕を包んだ。
「豊前……!!はな、せ!!」
「文句はあとできく」
「あっ、や、やだっ…だめだって……っ」
体に力が入らない。壁にもたれて体を支えていたけど、限界だ。
豊前の柔らかい髪がお腹に当たるのですら、いまの僕には激しすぎる。
「ぶぜ、はなし、っ」
力強く吸われて、あろうことか僕は豊前の口の中に出してしまった。だから離してと言ったのに。
「まつ、ごめんな。優しくできる余裕がねえ」
足にも力が入らず、床にぺたんと座り込んだ僕の片足を掴んだ豊前が言う。
「ん…いい、平気」
色仕掛けを行ったのは僕だし、豊前を責められない。風呂で清めたとは言え、豊前に上書きしてほしいのは事実。
仕事だからと割りきっていたけど、豊前を不安にさせたことは申し訳なかった。
脳天まで響くような快楽に、目の前で星が飛んだ。声にならない声が口から漏れた。その間にも奥までぐっと押し込まれて、体は弓のようにしなる。
はあ…と豊前が吐息を漏らして、更に濃くなった髪をかき上げた。その仕種にすら体は反応して、豊前を締め付けてしまう。
豊前が目を細めて笑ったように見えた。
「ぶぜん…不安にさせて済まない…でも、僕の心も体もキミのものだから安心してくれ。……それに、色仕掛けは今回だけにするよ」
「そうしてくれ。俺の欲はまつが思ってるより深ぇんだ」
「ふふ、知ってる……」
いつの間にか両手は背中に回されていて、ぎゅっと抱きしめられていた。
この体温が好きだなあと思う。
まつ、と耳許で呼ばれると同時に深い快楽が訪れる。
赦されて、愛されて、残っていた理性は散っていく。
僕たちはお互いの気が済むまで、濃厚な快楽を分かち合った。