いいふうふの日「よし、できた」
朝、八時。朝食の準備が整った。今朝のメニューは野菜ごろごろスープと厚切りトーストに目玉焼き。僕のおばあちゃんがよく作ってくれたメニューだったりする。おばあちゃんの味を忘れたくなくて、僕はたまにこうして作ることにしていた。
「あと、はちみつとバターを用意してと……」
食器を二人分用意していると、おはよう…と眠そうな声が聞こえてきた。僕はこの声の主が大好きだ。
「おはようございます、豊前さん。もう少し寝ててもよかったんですよ?」
「んん…まつのご飯食べたいから起きる……。あと、俺のことは豊前。さん、はいらない」
「は、はい…」
「敬語もなし……」
「善処します……」
後ろから抱き締められて、僕の体温は一気に上昇した。心臓もばくばくと早鐘を打っている。肩に豊前さんの息が当たっているのだ。僕の情緒がビッグバンしそうでこわい。
改めて紹介します。……旦那さんの豊前さんです。彼は僕の喫茶店によく通ってくれるお客さんだった。美味しい美味しいと言って食べてくれることもあって、僕は豊前さんが来店する日をまだかまだかと待つようになっていた。たぶん、僕はこの時から豊前さんに惹かれていたのだと思う。この頃、気持ちはまだ定まっていなくて。でも、事故で生死をさまよっていると言う連絡を受けて僕の気持ちは固まった。もう、大切な人を失いたくないと。
豊前さんの意識が戻ったら気持ちを伝えようと思って準備はしたけど、なかなか勇気が出ないでいた。その時だ。豊前さんの方から「一生一緒にいてください」と指輪を出された。返事はイエス。その一択しかなかった。豊前さんの心の傷はまだ癒えていない。それは僕が受け止めてればいい。時間をかけて、彼の傷を癒せばいいだけの話。こうして、僕たちは晴れて夫夫(ふうふ)となった。豊前さんの退院を待って、新居での生活をスタートさせたのだ。
「あ、あの……豊前さん」
「なに?」
「いつまで抱きしめてるのかなあって」
「まだ。まつを充電してえ」
「充電って……ご飯、冷めちゃうの、に」
「俺は、まつが食べたい」
「え、あ、ちょっ」
明らかに指の動きが誘うそれだ。服の隙間から指が入ってきて、背中や鼠蹊部をやんわりと撫でていく。項を軽く噛まれて、荒い息が漏れた。昨夜も散々しただけあって、身体はまだ豊前さんの熱を覚えている。
「……まーつ」
「んっ……ご飯が、まだっ……」
「まつの方が大事。冷めてもまた温めれば食えるから」
「そういう、問題じゃなくて……っ」
豊前さんの指が胸に伸びてきてた。胸の尖りを摘まんだり撫で回したりしてきて、僕の快楽はあっと言う間に引き出されてしまった。テーブルに手を乗せて耐えていたけれど、もう足に力が入らない。
「まーつ」
豊前さんはずるい。熱を孕んだ声で名前を呼ばれてしまったら、もう陥落するしかない、のに。
「まつ」
「ん……」
体勢を変えて、豊前さんと向き合う。オーケーの意味も込めて、僕は豊前さんの唇を食んだ。目の前で微笑む豊前さんの顔が獣の色をして、ますます惚れそうてしまいそうだ。
***
奥と胸を同時に弄られて頭の中が変になる。口からは声にならに声が出るばかり。
「ぶ、ぶぜん…っ、もう、それやだ、っあ」
厚い肩に伏せていた顔を上げると、燃え上がる美しい瞳と視線が絡み合った。燃えるような、赤。僕の、好きな色。汗ばんで、いつもより跳ねた豊前さんの前髪を撫でると、胸を更に力強く吸われた。
「ぶぜん……なあ、ぶぜん、てばっ」
「なあ、まつ。甘えるときだけ、名前で呼ぶのずるくねえ?」
「ぶ、ぶぜんが呼べって言うからっ……」
「ふうん? 俺はいつも呼んでほしいんだけど」
「ひ、ぁっ……」
「ゆっくり息しろよ」
長い指が引き抜かれたと同時に、熱いものが蕾に宛がわれて身体が悦びに震える。ゆっくりと、大きく円を描くように腰を回されて、意識が飛びそうになった。ぐりぐりと奥も抉られて、目の前がちかちかと明滅する。
豊前さんの仕種や眼差し、すべての動きが愛情に満ちていた。愛情が溢れて、僕の枯れた心が潤いで埋まっていく。ああ、僕は豊前さんが好きだ。愛しているし、僕ももっと愛情を伝えたい。
(満たされるって、こういうことなのかな)
与えられるばかりじゃなくて、僕も豊前さんを照らしていきたい。これからも毎日一緒なのだ。二人で幸せを掴んでいけばいいんだ。僕と豊前さんなら、きっとできる。