長谷部は見た俺たち本丸のお昼休憩は12時~15時の間で各自摂る決まりになっている。遠征に行くもの、出陣するもの、畑で野菜や果物と語り合うなどの仕事があり、決まった時間に摂れないことが多いからだ。
食堂に入ると、松井がひとりで食事を摂っていた。珍しいこともあるものだ。いつもは隣に豊前がいるのだが。
ああ、紹介が遅れた。俺の名はへし切長谷部だ。いまは主のお世話係を任せられ、幸せな毎日を送っている。今日も先ほどまで三鳥毛や日光一文字を交えての検非違使突破会議を行っていたところだ。
「あー、お腹すいたー」
「加州。出陣からの戻りか?」
「そう。やっと上田城攻略できたんだからっ。お手入れもしたいけど、お腹すいちゃったから先にこっちに来たってワケ」
「人の身は厄介だからな」
「そうねー。食べる楽しみが増えたのは嬉しいかな。今日はなに食べよっかなー」
ふんふーんと鼻歌を歌ながら加州は今日の定食が載ったトレイを保温庫から取り出した。てっきり、加州もひとりで食べるものだと思っていたら、
「まついー、隣座っていい?」
「うん、どうぞ」
と、松井に声をかけて隣に座った。お前ら、いつの間に仲良くなったんだ?
「あれ、今日旦那は一緒じゃないの?」
「旦那って…。うちの豊前のことですか?」
旦那、という言葉に俺は飲んでいた味噌汁をふき出しそうになった。いや、加州の気持ちも分からなくはないが。あの二人を見ていると、豊前は旦那という言葉がしっくりくる。
「そうそう。豊前の旦那は朝から遠征?」
「昨日から丸一日の遠征に行ってますよ」
「うわー。それ帰ってきたら松井不足だ充電させろ~~~ってなるやつじゃん」
「清光さん、見てたように話しますね…」
「豊前の行動パターンは松井によって決まるようなもんじゃん。松井にしか眼中ないっていうか」
「そんなことないと思いますけど」
そんなこと大ありのありだ。俺は加州の言葉に心の中でうんうんとうなずいた。
「あ…今日の付け合わせトマトじゃん」
「加州さん、トマト苦手でしたっけ?」
「ん~、お肌にいっていうから摂取したいけど味が苦手でさー」
「ふふ、豊前と同じこと言ってる。あの、僕のツナピーマンとこっそり交換しません?」
「ツナピーマン?俺は良いよ。なになに、松井はピーマン苦手なの?」
「苦味がちょっと……。トマトは赤色だし、僕は平気なので…」
「オッケー」
おい、お前ら。見えてるぞ。まあ、残すよりは歌仙も光忠は怒らんだろう。
今は二人もいないし、俺も見ていなかったことにしよう。
「ねえねえ、豊前の色だからトマトは好きなの?」
「……っ! な、なに言ってるんですか!?」
「あー、赤くなった。図星?」
「ううう…ノーコメントで!」
ほう、松井は儚い印象があったのだが、感情がころころと変わるものだな。豊前や加州が構いたくなるのも少し分かる気がした。
二人のやり取りが可愛かったこともあり、俺は動画を撮影して遠征中の豊前にこっそり送っておいた。帰ってきてからの反応が少し楽しみだな。