ご注文は松井ですか?「豊前、いま帰りかい?おかえり」
「おう、ただいま。先に寝てていいぞ」
「ん、わかった。おやすみ」
最近、豊前がそっけない。いつもはうるさいほどくっついてくるのだけど、ここ1週間ほどはなにもない。そう、なにもないのだ。あの、僕にべったりの豊前が。こんなことは恋仲になってから初めてでわけが分からない。
いまは出陣と遠征が合わなくて、寝るのも別々。昨夜は遅く帰ってきたみたいだけど、ベッドに入ってくることはなかった。豊前はなぜかソファで眠っていて、胸が痛い。
「よく寝てる……。なあ、豊前」
寂しいよ。
そう口に出来たらどんなにラクなんだろう。豊前の重荷になりたくなくて、上手く気持ちを言葉に出来ない。こんなに距離が近いのに、気持ちは遠いから、歯痒くて仕方なかった。
……飽きられた?そんな感情が体をぐるぐるする。
翌日。事務仕事の途中、主から支給された端末で検索をしてみた。なんと、新しい刺激が足りないと書いてあったから衝撃だ。現世の恋人たちは、こんな過激なことまでしているのか…?恥ずかしくて画面を直視できないでいた。
豊前は僕の体を気遣ってか、優しくしか抱かない。僕はそこまで弱くないのだし、もう少し激しくしてもらってもいいのにと思う。豊前が欲望のままに僕を抱いたのは手で数えられるくらいだ。
「これは……」
過激でもないし、下着だから僕でもいける、はず。豊前が喜んでくれるかは分からない……。でも、やってみる価値はある。恥ずかしいけれど、豊前のためなら僕は自分を提供したい。商品が届くのを待って僕は仕事に戻った。
◆◆◆
「松井くん、大丈夫かい?」
「はい、これくらいなら問題ないです。いきなり熊に出くわしたのは初めてですが」
まさか、山へ薬草を取りに行って熊に遭遇するなんて思わないじゃないか。歌仙兼定から格闘技とキックボクシングを習っておいて正解だったな。そっけない豊前のことを思い出したら、渾身の力を込めて熊を足で殴っていたから。熊よ、八つ当たりして済まなかったね。
「あの、光忠さん。もしかして熊は」
「もちろん食べるよ!」
クリスマス用にメニューは考えてあるから、熊料理はクリスマスが終わってからかなあ。
そう、光忠さんは熊を背中に背負って山を降りている。いくら熊の息の根は止まっているとはいっても、成人男性より大きい熊を担げる光忠さんがスゴイ。
「そう言えば、さいきん元気がないみたいだけど、大丈夫かい?」
「すみません、ご心配おかけして。僕は大丈夫ですよ」
「それなら良いんだけど。なにかあったらすぐに相談してね」
「はい、ありがとうございます」
光忠さんは優しい。僕にも、その聡さや優しさがあれば豊前がそっけない態度をとることもなかったんだろうか。いけない。落ち込むと悪い方に思考が流れていってします。僕の悪い癖だ。
山を降りて光忠さんは熊肉祭りのために人員確保へ向かっていった。熊肉祭り、ちょっと楽しみだったりする。
「熊と格闘したらか泥だけになっちゃったな。まあ、洗えばいいか……」
部屋に戻る前にお風呂で汚れを落とす。改めて鏡で自分の体を見てみたけれど、魅力があるとは思えない。豊前だって男だ。肉付きがいい体身体の方に好みが変わったのかもしれない。……困ったなあ。僕は豊前を好きすぎるから、今更離してあげるとか到底無理なのだけど。
ただいま、と部屋の扉を開けると、炬燵で眠る豊前がいた。寒いからと、主から全員に支給された炬燵は僕も豊前も気に入っている。すやすやと眠る豊前は、少年のような可愛い顔をしている。近づいて、豊前の顔を見つめてみる。本当に、顔がいい。僕の好きな顔だ。寝ると前髪が下がるから、少し幼く見えるのも愛しいなあって思う。この気持ちは、止められそうにない。
「やっぱり、好きだなあ」
「……誰が誰を好きだって?」
「ぶ、豊前!? 起きていたのかい!?」
「誰かさんのかわいい声がしたからかもな。なんか、いい匂いする」
「ああ、山に行ったら少し汚れてしまったから先に風呂に……。ちょっと、くすぐったい」
豊前が項に鼻をつけてきてきたものだから、身体が密着して心臓が跳ね上がった。久しぶりにくっついたのもあって、全身がかあっと熱くなるのがわかる。
「豊前、そろそろ離してもらっても?」
「離してーのは山々なんだけど。その前に、松井。この箱のこと、聞いていいか?」
「あっ!そ、それは……!」
豊前が手に持っていた小さな箱は、以前僕が通販で頼んだ物だ。しまった。てっきり豊前は出陣したとばかり思っていたから、配達時間を変更しなかったんだ。やってしまった。豊前の顔が少し悪い顔になる。
「それは?」
「その……。っ! 箱、貸して!」
こういう時は腹を括ろう。豊前の手から箱を取り上げてから、僕は寝室で下履きを履き替えた。この姿で豊前の前に出るのは抵抗がなかったわけじゃない。ただでさえ布面積が少ない紐パンツなのだ。羞恥すぎて穴があったら隠れたい。
「こういうこと…!」
襖を開けていざ豊前の前に立ってみたけれど、やはり恥ずかしいい。僕には何度が高かった。クリスマスプレゼントに僕をって思っていたけど、やっぱりだめだ。落ち着かない。
「豊前、やっぱり恥ずかしくてむり…!すぐに着替え、」
「着替えなくていい」
「え、」
「そこまで煽っておいて、はい終わりとか言わせんなよ」
あ。この目は知っている。獲物を狙う目だ。
首筋にがりと歯を立てられた。少し痛いけれど、接触が少なかった分の反動なのかそれだけで興奮してしまう。そのままベッドに押し倒されて舌先で何度も愛撫された。豊前は僕の弱い箇所を知っているのもあって、何度も攻めたててきた。
「なあ、もしかしてここ自分で剃った?」
「っぅ、い、いちおう……」
「それは俺がしたかったなあ」
名残惜しそうに豊前はそこへ軽く口付けた。
ゆっくりと与えられる快楽に背中がぞくぞくする。そのまま、豊前の顔が下肢に向かったのが見えて、僕は待ってと止めた。なんでだよ、という顔の豊前と目があった。
「今日は、ぼくがする……」
僕だってしたいんだ。力強く主張するそれをゆっくりと口に含めば、上から吐息が聞こえてきた。ここからだと、豊前の表情がよく見える。切羽詰まった顔だったり、眉間に皺が寄った表情だったり。それが堪らない。
「まつ、離せ……っ。このままじゃ、」
出していいよ。寧ろ、出してほしい。喉の奥や上あごが刺激されて気持ちいい。豊前が肩を掴んで離そうとしてきたけれど、僕は放出されたものを余すことなく飲み込んだ。なんか、豊前と一体になれた気がして嬉しいから。
「ったく、飲むなっていつも言ってるのに」
「君だってしてるじゃないか」
「あれは別」
「僕だて君を気持ちよくさせたいんだよ。だから、今日は座ってて」
「おいっ、ゴム……」
「今日は、要らないっ」
紐パンツという恥ずかしさはどこかへいってしまっていた。いまは豊前との時間の方が大事だ。
膝立ちでゆっくりと腰をおろしてみる。ゆっくりと、でも確実に入ってくる感覚に膝が振るえた。しばらく振りなのに、豊前の形を覚えたそこはすんなりと受け入れていく。
(ぜんぶ、入った……っ)
腹部を撫でると、確かにそこに存在を感じた。その事実に泣きそうになってしまう。
「なあ、ご奉仕は嬉しいんだけど……。俺もそろそろ限界、かな」
「我慢、してっ。今日は、僕が動く…か、らっ」
「じゃあ、いっこお願い聞いてくれるか?手ぇ繋ぎたい」
「ん……」
差し出された手に、自分の手を重ねた。その瞬間、体勢を変えられて下から突き上げられた。腰を掴まれて強く激しく串刺しにされていく。反撃しようにも身体には力が入らなかった。口からはもう嬌声しか出てこない。
「っぁ…!なんで、」
「お前が、焦らすからだろ……っ」
「焦らして、なっ……」
豊前の荒い呼吸、熱い眼差し、豊前の体温。手を伸ばせば豊前がいることに安堵した。どこが境界線なのかはもう判らない。このまま、豊前と溶け合ればいいのに。そう願わずにはいられなかった。
「抱き潰されても文句言うなよっ」
「豊前なら、されてもいいよ……」
***
「……ちょっと後悔したかも。豊前、僕をお風呂まで連れて行くように」
「ほんとすまん!久しぶりで調子のりすぎちまった」
「うん、でも気持ちよかったから良いよ。一つ聞きたいんだけど。しばらくの間そっけなかったのはどうして?」
「忙しくて溜まってたんだよ……」
「なんでそれがそっけなくなるのさ」
「それは……疲れてる恋人に無理させたくねえだろ。俺は松井と愛のあるセックスがしてえんだけど、それじゃだめなのか?」
「だ、だめじゃない……」
なんだよそれ。僕がひとりで勘違いしてから回っていただけじゃないか。
「可愛い松井を堪能させてもらったから、お返ししようと思うけど……何がいい?」
「んー。豊前の作ったご飯がいいな」
「そんなんでいいのか?もっとこう、パーってクリスマスっぽくしてもいいんだぞ?」
「いいんだよ。僕にとっては最高のプレゼントだから」
豊前の作った料理を食べて、明日は1日一緒に過ごせればこんなに幸せなことはないよ。