もしも豊前に猫耳と尻尾が生えたとしたら。「まつ! まつ!」
「んん? なに……?」
ばしばしと体を叩かれて目を覚ます。まだ起きる時間には早いはずなんだけど……。なにかあったのかな。
「豊前? どうしたの?」
「聞いてくれ! なんか……生えちまった!!!」
生えた? いったいなにが生えたと言うんだろう。身体を起こして豊前に視線を移すと、確かに立派な猫耳と尻尾が生えている。ああ、きっとこれは夢だ。寝ぼけているから夢を見ているんだ。もうひと眠りしようと布団に入ろうとしたとき、夢じゃねえ!と叫ぶ豊前の声に二度寝をすることは叶わなかった。
「え、ほんとに?」
「嘘なんか言わねえって! まつも触ってみてくれよ!」
豊前にそう言われて、頭に生えた耳に手を伸ばす。毛色はブルーがかったグレーで、かっこいい豊前によく似合うし、ふわふわしていて触り心地は抜群だ。何度か耳を撫でると、豊前の口からごろごろという声が聞こえてきた。
「これ、本物……?」
「だって、引っ張っても抜けねえんだぜ?」
「もうちょっと触っててもいい?」
「あ、おいこらっ」
さいきん事務仕事が続いていて、可愛いものに触れたくて触れたくて仕方がなかった。尻尾もちゃんとある。これ、仕組みはどうなっているのかな。長い尻尾に触れると、豊前から「にゃ!?」という可愛い声が聞こえてきた。
「まーつ、くすぐったい」
「ごめん、ごめん。可愛くてつい」
「まつの方が可愛い」
整った顔が近付いてきたと思ったら、首筋に軽く歯を立てられた。ざらりとした舌で舐められたからか、背中がぞくぞくとする。尻尾を触ったことで豊前のスイッチを入れてしまったようで、首や頬、指までも豊前の舌が這う。
「ぶ、ぜん……っ、ま、って……っ」
「悪ぃ、夢中になってた」
豊前の体を退かそうにも、布団に押し付けられて叶わない。唇はそのまま熱くなった僕の耳、鎖骨を辿る。快感を逃そうとして、豊前の頭を抱え込んだ。体が密着したことで豊前の息遣いや心音をダイレクトに感じてしまう。僕の体が震えたからなのか、豊前にぎゅっと抱き締められた。
「まつ、可愛すぎる。なあ、食べていいか?」
「ん……っ、だ、駄目……っ」
「駄目って反応じゃねえだろ」
「だ、……ってっ。ん、ああ……っ」
聞いておきながら僕の答えは待たず、豊前は下肢にダイレクトな刺激を与えてきた。思わず、抑えきれない声が漏れてしまう。やはりどうしても敏感なそこを口に含まれるのは慣れないし、恥ずかしくて居た堪れない。まるでアイスを食べるかのように濡れた舌先が絡んでくる。あまりの気持ちよさに膝と腰の両方ががくがくと震えた。
「ねえ、ぶぜんっ!だめ、だってっ。だめ、だって、ば……!」
離してほしいと言う懇願は聞き入れてもらえなかった。限界をとうに迎えたそこを執拗に吸われて、舐められている。そう、まるで猫が飼い主にする仕種みたいに。
「飲まないで、って言ってるの、に……っ!」
「松井のは特別」
僕が飲もうとすると怒るじゃないか。顔を上げると、豊前と目が合った。唇を舐める様が獲物を狙う獣みたいだ。ほんと、ずるい。まだ足りないかのように、今度は舌先がありえない場所に触れてきた。
「やっ、ぶぜ! だめ……っ、」
「まつのココ、すんげえとろとろだ」
「ひ、ぁあっ」
どうしよう、鼓膜までされてるみたいになる。気持ちいい、でも足りない。
「ぶぜん……、ねえっ……」
早くひとつになりたくて、言葉の代わりに唇で豊前の口を塞ぐ。舌の代わりに灼熱が宛がわれて、背中がしなった。声にならない声は豊前の唇が飲み込んでくれた。弱いところをぐりぐりと何度も抉られて、頭の中が真っ白になる。豊前の動きに合わせて猫耳が揺れているのが見えた。尻尾もふわふわと揺れて、腕や足に触れてくるのも可愛い。出陣や遠征の仕事が入ってなくて良かったと思う。だって豊前のこんな可愛い姿は誰にも見せたくないし、僕だけが見ていたい。
まだ足りなくてもっとと強請ると、豊前がふわりと笑う。ああ、ほんと、好きだなあ。
すればするほど快楽は深まって、僕らは溺れていった。
※翌日、豊前は元の姿に戻りました。