「ここが、ローマか……!」
テルミニ駅のホームへと降り立ったブチャラティが感嘆の声を上げた。
駅の構内は忙しない人々と、ひっきりなしに到着する鉄道の乱雑な物音で溢れている。
ネアポリス辺境の港町で生まれ19年間そこで育ってきたブローノ・ブチャラティには、その騒々しさは新鮮に感じられた。
今年からこのイタリアの首都たるローマの大学に入学するブチャラティは、人生で初めてこの大都会の地を踏んでいるのである。
『都会には出会いが多い分、悪い人も多い。気を緩めないようにな』
『わかってるよ、父さん。愛してる』
数時間前にネアポリスの駅のホームで交わした会話がもう昨日のことのように思える。
混雑する駅の中をなんとか潜り抜け、ブチャラティは外に出る。
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