#鎮_別に 別に、なにか変なことがあった日じゃなかった。ただ朝からよく雨が降っていた。小学校の同級生もみんな持っていた黄色い傘は先端がつるんと丸くて、武器としては頼りねーなって思っていた。長靴は歩きにくくて嫌いだった。
傘に雨がぶつかってバラバラと太鼓みたいにでっかい音を立てる傘の中で、小さく高い鳴き声が耳についた。それから大きな羽音も。少し周りを見ると、カラスが道の端で何かを転がして遊んでいるみたいだった。
カラスって想像してたよりでかいんだってそのとき気付いた。図鑑に書いてあった通り、妙に頭が良さそうだった。子供の俺を舐め切っていたのか近付いてもその場から動こうとしなくて、少しムカついた。いつも機嫌の悪そうな駄菓子屋のオッサンによく似た目をしていたせいもあると思う。
退けよって傘で近くの地面を叩いて追い払おうとして、やっぱり大して動かなかった。思い切って振った傘の先端が小さな黒い頭を軽く小突く。それでやっと数メートル向こうへ行った。
泥の塊みたいなものが、もぞもぞと動いていた。汚くて何なのかよく分からなかったけど、手足をバタバタさせてぴゃあ、って鳴いた。数メートル先から、さっきのカラスがじっとこっちを見ていた。駄菓子屋のオッサンの、どうせ盗るんだろうって視線と似ていた。
おれは泥塗れのそれをそーっと体操服でくるんで、家まで走って持って帰った。雨水の入った長靴ががぽがぽ鳴った。
カラスの頭を傘で叩いた所を近所のオバサンに見られてたらしくて、翌日学校ですげー怒られたのは納得がいかなかった。