#鎮_別に 別に全く恐怖を感じなかったとか、そういう訳ではなかった。
ふと顔を上げたとき、窓の外に現れた海中の景色は確かに異様ではあった。昔にアニメ映画で見たオレンジ色の魚が花壇に咲く花の陰に消えて、海水に屈折してゆらめく太陽光を遮るようにマンタが窓の外を飛んだ。ざわめき始めた窓の内側を、小さな魚の群れが音もなく覗き込んだ。
せいぜい二泊分かそこらの修学旅行用の荷物に、大したものは入っていなかった。下着が二枚と就寝用の体育着と、タオルが二枚、財布とスマホと学生証と保険証と薬。スナック菓子とか飴とかグミとか詰め込んでるやつもいて、それは今回に限っては良い判断だったのかもしれない。
月が何度か満ちて欠ける間のことだと、スピーカーから流れた知らない声が語った。だいたい二か月間の間、この寝泊まりするに快適とは言い難い学校で過ごすことがどういうことなのか、いまいち実感が湧かないでいる。男子生徒は武道場で寝るようにとの指示があったが、微妙に汗臭さが染みついている感じがするのは俺だけなんだろうか。
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