心理戦を繰り広げる忍岳とある朝、向日が目を覚ますと、親友兼ダブルスパートナーである忍足のキス顔が目の前にあり、思わずめちゃくちゃ大きい声で「わーーーーー!???!?!?」と言いそうになるのを堪え、かつ、なんかもしかしたら夢かもという疑いがあったので、再度目を閉じた。まぶたの裏側で、必死に忍足の気配を感じ取り、あ、とりあえずどっか行ったなとひと安心する。よかったー。………ん?いや全然よくないかも。あれ?侑士いま、え?えっと………そういう?………一応、断っておくと、向日岳人にとって忍足侑士は親友兼ダブルスパートナー兼すきなひと、であった。なので、おおよそ、状況から判断するに、忍足が向日へ先程行った行為については別になんら問題はなかったのである。ひとつだけ、といっても数としては1であるが、重みとしては400億くらいの問題、があるとすると、確実にしたのかわからないという部分だけ。そう、確実にしたという証拠はない。その、キスを………向日が目を覚ましたのは、もしかしたらくちびるが触れあった後だったかもしれないし、もしくは、触れる前だったかもしれないし、はたまた、そういうんじゃなくて、たまたま向日のまぶたになんかゴミっぽいのが付いていて、たまたまそのことに気づいた忍足がそれを取ろうとして近付いて、たまたま取ったタイミングでまばたきをしただけの可能性だってあるわけで。せめてくちびるになんらか、触れた、そういうタイミングで目を覚ませばよかったのに、ことが起きた前か、後か、それとも何にも起きていなかったのか、そんな、なんとも微妙なタイミングで目を覚ましてしまったのである。ええー………これどーすんだよ………今日日曜日だから、昨日の夜に「アラームかけないで寝る!」とか侑士に宣言してぐうぐう寝てた自分がうらめしい。お、起きたよ〜ってアピールするタイミングが………見つからない………とりあえず向日は大きめに寝返りをうって「んぅー………」みたいな、呼吸よりデカめの、ひとりごとより弱めの、そういう音を発した。