甘いもの好き?コンビニを出て、車に向かっていく。中には誰もいない。今日運転をかってくれた人はどこだろう。辺りを見てみると、少し離れた所に姿を見付けた。コンビニの駐車場から離れたところにある広場。彼はベンチに座っていた。走り寄ると、アイスコーヒーの氷が暴れる。その音に気付いて彼がこちらを振り返ってくれた。
「走らなくていいだろ。そんな遠くまで離れてないんだから。俺迷子しそうか?」
「違うよ、そんなことないから。はい、コーヒー。運転手さんに差し入れだよ。」
「おーありがとう。 ブラックかーこういうときは少し甘くしてくれよ。疲れた身体には糖分が…」
「そう言うと思って。はい!」
彼の言葉を遮って、小さなお弁当箱の包みを差し出す。
「昼飯の時間じゃねえだろ?」
何で今弁当なんだ?という表情。予想通りだけど、こちらも用意してきたからには…
「ん! どうぞ。」
にこにこ笑顔で渡してみる。彼は開けると、先程とは違う表情を見せてくれた。
「疲れたときには糖分だよね。知ってるし、わかってるよ。もちろん、あなたの好きなものも。」
小さなお弁当箱には、ひと口サイズの黒い丸が詰まっている。
「チョット寄っちゃったけど、昨日から頑張って作ったんだよ。ぱくっと食べやすいように、小さめに作ったんだ。」
最後まで言い終わるより早く彼がつまんで、口に放り込む。
「ちょっとー聞いてる?」
「ん? んっ ひと口サイズっていうか、小さすぎだわ。おはぎはデカめを、ガブリといくのが醍醐味だぞ。」
頑張って作ったのに、なんでそんなこと言うのよーという表情の私に気付いて、慌てて
「いや、でもまさか出かけた先でおはぎ食えると思ってなくてよ。あ…ありがと。んまいよ。」
言いながらパクパクと次から次へと、食べる。後ろを向いてるけど、耳が赤いのがわかる。
「喜んでくれたなら、いいですよー」
隣に座って声をかけた。
目の前に広がる大きな海。遠くに白波が立つのが見える。潮風を感じると、海に来たんだなぁと再認識する。
「この海の風の匂いを嗅ぐと、海に来たなって感じるよな。いや、海に来てるから、当たり前なんだけど、改めてそう思うというか。」
「私も。私も今そう思ってた。」
「そっか。同じタイミングだったな。視覚でさ、見て確認するって最低限の確認だな。香ってわかるって心にゆとりがあるからだろうな。目で見て、耳で聴いて、鼻で香って、肌で感じて…そういう気持ちになれるって幸せなことだよな。俺はやっぱり風が心地いいわ。」
お互い目を合わせるでもなく、海を見たまま話す。彼の言う通り、波の音、海の香り、肌に触れる風を感じている。
「あと、味覚のおはぎもな。」
ニカッと笑いながら、いつの間にかおはぎを口いっぱい頬張っている。
「なんでお箸使わないのよー」
「小さくて、落っことしそうだからな。ほらよっ。」
急に口の中が甘くなった。初めて作ったおはぎは甘さ控えめだった。
「お前不意打ちなのに、普通に食べてんのすげーな。」
笑いながら、あんこのついた指を口に入れている。
すくっと立ち上がって、のびをして、
「さぁて、気持ち良すぎて動きたくなくなるから、そろそろ動くか。腹もイイ感じだしな。」
私の手を取り、ベンチから立たせる。
「あとどんくらいだ?渋滞無いといいな。」
独り言のように呟く。うなずきながらも、この場所を去り難い私。
「せっかく、くっつけたのになー」
ハッとして口を押さえた。しまったー!心の声、出ちゃった。彼は黙ってる。車に戻ろうって話してるのに、何言ってんだか私…反省してると、彼が抱きしめてくれた。
「じゃあ充電。」
彼が小さな声で言う。ぶっきらぼうで、言葉足らずで、そっけない…でも大好きな彼。この筋肉質の身体も、私を包み込む優しい手も、全部全部私の大好きな彼。少しして
「はい、おしまい。もうちょい我慢な、お互い。」
手を繋ぎながら、2人は車に向かって歩いて行った。