あなたがいてくれて、良かったいつも私が座ってる助手席には珍しく彼が座って、寝息を立てている。いつもお仕事大変なのに、休日は私に付き合ってくれて…しかも今日はイレギュラーな用事までこなしてくれたもんね。本当お疲れ様。それは数時間前のこと。
今日は久々にお互いの休日が合って、お出かけ。とりあえず近場のショッピングモールに買い物に行くことに。待ち合わせして、車に乗るだけで心が浮き立つ。スマホの中の彼じゃない、本物の彼。なんだか、すごくドキドキしてる。しすぎて、変じゃないかな。バレなきゃいいな。
ショッピングモールの駐車場に着いたとき、私のスマホが着信を知らせる。
「っひゃあ!!!」
ビックリして、変な声が出た。
「電話か。気にせず出なさい。」
うなずいて電話に出る。
「え?おばあちゃん?」
祖母からのSOSで、実家に来て欲しいということだった。
「なんと、おばあさんがケガをされたと?行かねばなるまい!買い物など、またいつでも来られる。行こう!」
今入ったばかりの駐車場をあっという間に出る。買い物じゃなく、デートなんだけどなぁ。っていうか、すぐ行動してくれるの嬉しいなぁ。
実家は車で数十分かかる場所にある。
「なんか、ごめんね。」
「大丈夫だ。おばあさん心配だな。すぐに向かおう。」
「ありがとう。」
「早かったねぇ。」
足を引きずりながら祖母が出てきた。足をくじいたそう。母は仕事で電話が繋がらなかったので、私に連絡が来たみたい。
「少し手を貸してくれないかい? あら、こちらは?」
「初めまして!お孫さんとお付き合いさせて頂いてるものです。ご挨拶遅れて申し訳ありません。」
「まぁ、こちらこそ孫がお世話になってます。」
「力不足かとは思いますが、男手も必要かと思い、勝手ながらうかがいました。連絡もせず、申し訳ありません!」
おばあちゃんは目を丸くした後、柔らかい表情になって
「ありがとうございます。甘えさせていただきます。」
そこからはおばあちゃんの指示で、かがまずに済むように部屋の模様替えをし、切れた壁掛け時計の電池替え等等、果ては草むしりまで。私よりおばあちゃんと話をする時間が長いほど。私自身もそれをチョット寂しくも見る…余裕もなく、バタバタと過ごした。
時が過ぎ、夕方に差し掛かった頃、最後のお手伝いが終わった。せっかくのデートだったから可愛い格好してたつもりだったけど、髪も化粧もぼろぼろになってた。でも彼も、くたっとしたみたい。おばあちゃんの家からの帰り道、スーパー銭湯に寄った。
屋上の足湯で待ち合わせした。やっぱり私の方が長湯だったみたいで、彼が待っていてくれた。
「今日2回目の待ち合わせだな。ここに座るといい。」
ポンポンと彼の隣の席を叩く。湯上がりで熱かったけど、夜風に当たって気持ちいい。彼に寄っかかって、再度お礼を言う。彼は微笑み、
「大丈夫だ。」
いつもの口癖。明日も仕事なのに、悪かったな、と思ったら涙が出てきた。
「大丈夫だ。」
何度も言ってくれる。
「大丈夫だ。」
言われる度、泣けてしまう。嬉しい、ありがとう。
私が泣き止むと、彼がこちらを向き直り話し始めた。
「今日おばあさんと話していたとき、ふいに、こうおっしゃった。『うちの孫ともう少し一緒にいていただけますか?』俺は、はい、もちろん。少しではなく、ずっとのつもりです、と答えた。おばあさんは『ありがとうございます。本当に。本当に。あの子はおっちょこちょいだけど、気は優しいし、細かいことにもよく気がつく、私から見たら自慢の孫です。どうか、よろしくお願いします。』と、深く深く頭を下げられた。俺も更に深く頭を下げた。」
泣きじゃくる私の頭をポンポンとしながら
「もう少しだけ話を聞いてほしい。」
優しく、そしてまっすぐこちらを見つめてくれる。綺麗で真っ直ぐ見つめてくる彼の目だ。私の大好きな瞳。彼は居住まいを正して続ける。
「おばあさんに話したのは本当の気持ちだ。」
私の左手を取って、自分に引き寄せる。
「薬指の予約をさせてほしい。俺以外、ここに誰も触らせないでくれ。」
そう話しながら、薬指に口付けをした。私は、この涙が何の涙だかわからないほど泣いてしまった。泣いて泣いて、肩で息をするほど、涙が出てきた。
「はい。」と言えたかどうか、わからないけど、言えたと思う。こんなに優しい人は他にいない。
夜空を見上げながら
「今日、1番緊張したなー!はあ」
続けてこう言った。
「俺はね、今日更に強くなったんだ。わかるか?人は守るものが増えると強くなるんだ。俺は守るべきものが増えた。君を、君の家族を守るのが、俺の責務だ。こんなに幸せなことは、責務とは言わないか。」
照れ笑いする彼と泣き笑いの私。2人で手を繋いで、夜空を見上げた。今まで生きてきた中で1番綺麗な夜空。きっと、ずっとずーっと忘れない幸せなとき。お互い目が合って微笑んで、幸せはこれからも続いていく。この夜空の輝きのように。