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    ぐーかみ

    @Royal_Shiki_Min

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    ぐーかみ

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    夏祭りに行くルクシキ。ED後設定ですのでガッツリネタバレを含みまくります。完クリ者対象。

    #ルクシキ
    rukshiki

    夜空とプリズム華やかなミカグラの歓楽街から少し外れた立地のオフィス・ナデシコ。ここでの生活ももう数ヶ月になろうとしている。
    すっかり慣れ親しんだ施設だが、もう間も無く、ルークは母国に帰るためにここを離れることが決まっている。そう思うと日常と化した光景が急に名残惜しくなる。
    ラグジュアリーな空間にやや不釣り合いなスニーカーの音を立てながら、ルークは彼を呼び出した者の元へ急ぐ。

    「ナデシコさん、お呼びですか」
    元気のいい声が響き、ナデシコは微笑みながら彼の方に顔を向けた。
    「ああ、ルーク。待っていたよ。ひとつ頼まれごとを受けてほしいんだ」
    「はい、僕にできることなら。なんでしょう?」
    「もう間も無くこの近辺で夏祭りが行われることは知っているか?」
    「ナツマツリ…ですか?」
    聞き覚えのない単語をややぎこちない発音で聞き返す。
    「ああ。元々は疫病退散や豊穣を願う土着の祭事だが、今はブロッサムの発展と共にすっかり娯楽化していてな。色々な屋台が並んだりして、大人も子供もみな一緒に楽しむイベントだ。きみにはその夏祭りに行って欲しいんだ」
    「それは素敵ですね!」
    色とりどりの色彩や食べ物に溢れた屋台と賑わう人々がルークの頭に浮かぶ。想像するだけで楽しげで、つい浮き足立ってしまう。
    「それで……僕に行って欲しいということは、そのナツマツリに何か不穏な気配が?」
    大祭KAGURAをきっかけに犯罪組織であるDISCARDは崩壊した。しかし悪の種は尽きぬもので、未だに残党やDISCARD以外の悪人は其処此処に蔓延っている。ルークらチームBONDもミカグラを発つまでの期間に何度かナデシコから調査等を命じられていた。
    今回も、そのような類の依頼だろう。皆が浮き足立つイベントとなれば悪人が紛れ込むにも好機だ。
    「いや、今回は物騒な話ではないよ。単純に君にも夏祭りを楽しんで欲しいだけさ。」
    「え、やったあ!……あ、じゃない、いいんですか?そんな……」
    一瞬、ナデシコの言に思わずガッツポーズを取ってしまったが、すぐに姿勢を正した。きっと何かきな臭い話が始まると身構えていただけに、当てが外れたことに動揺が走る。

    「ただし、条件がある。」
    やはり。ナデシコに限って、ただ遊んでらっしゃいと送り出すなどということはあるまい。案の定なんらかの条件が付されるようだ。
    「な、なんでしょう」
    「シキを連れて行ってやって欲しい」
    「……シキを!?」
    「ああ。そうだ。」
    予想外の名前が出て思わず大声を出してしまった。

    シキと言えば故あってDISCARDに属していたものの、BONDやナデシコに協力してくれるようになったハッカーの青年……と見せかけて、DISCARDのボスであるファントムの共犯であり、島の人間全員の自我を喪失させるキズナ計画の根本に関わっていた人物だ。
    DISCARDが崩壊してからは、重要参考人として公安の保護下に置かれ、その自由は制限されている。移動もオフィス・ナデシコ内と公安関連施設内に限定されている。
    ……といっても、元々シキは外を出歩くことはほとんど無い。一般的に見れば軟禁状態ではあるが、シキにとっては普段となんら変わりない様子にも見える。ルークとも、主にオフィス・ナデシコ内で何度か顔を合わせている。
    「一応、シキも今は公安監視下に置かれている。なので外出制限も勿論あるんだが、それにしても外にも一歩も出ないまま室内でただぼんやりしていることの多いシキの様子が心配でな。」
    確かにシキは大祭KAGURA以降は目標を失ってぼんやりしているような、それでいてどこか憑き物が落ちたような様子でもあり、心ここにあらずといった風だった。彼の境遇を思うと無理もない話ではあるが。
    「なので、シキを連れ出してやって欲しい。もちろん外出許可も取っているから安心してくれ。」
    「なるほど、メインはシキのリフレッシュということでしょうか?」
    「そうだな。それと、ルーク。君にもだ。このミカグラ島から何か一つでも楽しい思い出を持って帰って欲しいという、私のわがままだよ。私の守るこの島の思い出が犯罪組織の巣窟で終わるのは口惜しい」
    「……僕にとってこの島は、皆と出会え、絆を結べた大切な島ですよ。でも、お気遣いありがとうございます。僕としてもミカグラ島を楽しめるのは嬉しいです!」
    「そう言ってくれると嬉しいよ。とにかく、祭りの日は楽しんでくれ。きっと特別な夜になるさ。それに……きみは、シキといい仲なんだろう?」
    「ぐへっ!?」

    予想外の言葉に、装うこともできかねるレベルの変な声が出た。ちょっと待って欲しい。確かにシキとは大祭KAGURA以降、顔を合わせるたびに様々なことを話し、そして、まあ、かなり親密な関係になった自覚はある。
    否、誤魔化さずに言えば色んな話をする過程でそれなりに抱き締めたりなんだり……することはあったし、自分の好意をシキも受け入れてくれた……と思っている。しかし、改めて他人からそんな指摘を受けて冷静に受け流せる段階ではなかった。
    それこそ、まだ結びたての新しい、初々しい絆なのだ。
    「悪いな、からかったつもりはないんだが。そこまで激しい反応が返ってくるとは思わなかった」
    変な声が喉に詰まり咳き込んでいると、ナデシコが驚いた顔を見せる。
    「あの、ナデシコさん……どこから、それを…げほっ」
    「君たち、ここをどこだと思っているんだ?私の建物だ。何が起こっているのか管理するのは当然に私の仕事だろう」
    「あー……」
    おおよそ、監視カメラか何かでそれなりに現場を見られていたのだろう。人に見せられないような過激なことはしていないが、それでも見られているとなると恥ずかしいシーンが脳内をよぎる。
    知りたくなかった。どうかナデシコが目撃したシーンが平和的に仲良く話している現場だけでありますように。
    「……情熱的なハグだったな?」
    「がっつり見られとる!!……いやもう、勘弁してください……」
    「そうだな、もしも脱衣を伴うような行為の予定があるなら監視カメラの外側で頼む。私も気まずいんでな」
    「仲間もいる一つ屋根の下で流石にそんなことしませんって!!」
    「じゃあ、どこでするんだ?」
    「……ふむ?確かにシキの行動圏内となると必然的にナデシコさんの監視下になってしまうわけで……?って何を考えさせるんですか!やめてください」
    「なんだ、その様子だとその段階までいくにまだかかりそうなんだな」
    「カマをかけられた!?……頼みますから、もうこのくらいにして下さい……」
    ルークはナデシコの言ひとつに青くなったり赤くなったり大忙しで、ナデシコはそんな彼を見て楽しげな、かつ悪そうな笑みを浮かべている。
    「からかって悪かったな。ともあれ、当日は楽しんでくれ。君にも、シキにとってもいい夜になることを祈っている」
    「やっぱりからかってたんですね!?……だけど、ありがとうございます。シキと2人で出掛けられる機会は純粋に嬉しいです。」
    「礼には及ばんよ。楽しんでくれ」
    「はい!」


    ****

    「ル、ルーク……!待って……!!」
    「ああ、シキ、ごめん。大丈夫?足は痛くないか?」
    「だ、大丈夫……。外に出るの、久しぶりで……それに、こんな格好初めてで……」
    シキは足をもたつかせながらもなんとかルークにしがみつく。2人で夏祭りに行く、ということをどこからか聞きつけたコズエが2人にマイカの衣装を着せつけてくれたのだ。ユカタ、というらしい。
    ルークには潜入服のモチーフカラーと同じの青色を、シキには紺色の浴衣をそれぞれ纏っている。
    ルークにとっても腰を締める帯と、親指だけ独立している下駄がどうにも慣れずやや歩きづらい。運動が苦手なシキにとっては余計にそうらしく、かなり歩きづらそうにしている。

    「大丈夫か、シキ?なんだったら一旦戻って普段着に着替えるか?」
    「ううん。……た、確かに歩きづらいけど、でもコズエさんがマイカの服を用意してくれたのは嬉しいし、アナタと一緒に着れたのはもっと嬉しいんだ。…だから、頑張るよ」
    「シキ……」

    家族とのつながりを求めていたシキにとってマイカの地は特別なものらしい。浴衣を嬉しそうに撫でている。
    まだマイカの里があった頃、シキはルークらと共に里に行った。しかし身元を隠していたシキは自分がマイカの王族の血を引く者ということを誰にも言えなかった。
    いま、ようやく。コズエの孫であることを打ち明けることができ、コズエともぎこちないながら前向きに関係を築こうとしている。

    「とても似合ってるよ」
    ルークの言葉にさっと頬に朱がさす。シキは肌が白く、赤くなるとすぐにわかった。
    「あ、アナタもとてもよく似合ってる。……かっこいいよ」
    そういうと、照れているのか袖で顔を隠してしまう。そのいじらしい様子になんとも言えない気持ちになり、ルークの頬は思わず緩む。

    かっこいい、だって。
    浴衣を着せつけてもらった後に仲間にも見せたのだが、モクマには「おじさんの小さい頃を思い出すねえ!」と言われ、アーロンには「マイカのガキに混ざってても違和感ねえな、蹴りゴマ蹴っとけ」と言われ、チェズレイには「七五三……いえ、なんでもありません。よくお似合いですよ、ボス」などと褒めてるのか褒めてないのか判断のつかない、否8割がた褒めていない反応だった。ていうか誰も彼もが成人男性扱いすらしてなかった。
    それに比べて、かっこいいと言って頬を染めるシキのなんと愛らしいことか。

    ーーフ、恋は盲目ですねェ

    何故だか脳裏によく知った声が聞こえた気がした。きっと気のせいだ。
    「さてと、シキはどこから見たい?色んな屋台があるからシキの行きたいところに行こう!」
    「ぼ、ボクはルークと一緒ならどこでもいいよ。2人で外に出るのって、初めてだね」
    「そう言えばそうだな!ナデシコさんの計らいに感謝しないとな」
    「う、うん」
    ナデシコの名を出すとシキは僅かに身をすくめた。
    「どうした?そう言えばシキは今日の話はどういう風に聞いてるんだ?」
    「えっと……ナデシコさんから色々大変だったルークの疲れを癒してあげてくれって頼まれたよ。」
    癒し。なるほど、ナデシコの企み顔が浮かぶような言い回しだ。ひょっとしてこれは自分たちをとことんからかい尽くすのが真の目的ではなかろうか?と邪推がルークの脳裏をよぎる。
    「でもボク、癒しってよくわからなくて……と、とりあえずシキガミロボにリラックス音波を発するプログラムを入れておいたから、後でやってみるね。脳に直接作用するから、一般的なものよりも効果は高いはずだよ。」
    「え、遠慮していいか……?僕ちょっとこれ以上脳に負荷かけたくないかな……」
    「え、そ、そう?ごめんなさい……ボク全然役に立たなくて……」
    シキなりに一生懸命考えたのだろう。準備してきた提案を却下されてしまい、見るからにおろおろしている。
    「あ、えーと……僕にとってはシキが僕と一緒に今日を楽しんでくれたら、それが一番の癒しだよ。間違いなく。」
    「え、そ、そんなのでいいの……?」
    「だってさ、自分の好きな相手が一緒に居てくれるだけで嬉しいんだ。その上一緒に楽しんでくれたら最高だよ!」
    「そ、そうかな……わかった。今日は楽しもうね」
    「ああ!」
    シキから前向きな言葉が出てきたことが嬉しい。
    少しずつだが、シキの内面にも変化が現れているようだ。それは自分がきっかけで起こっている変化だと考えるのは自惚れだろうか?今日という日だけでもその自惚れを許されたいとルークは考えた。

    「じゃあ、とりあえず行こうか!僕の行きたいところでいいかな?」
    「うん。アナタの行きたいところなら、どこへだってついて行くよ」
    まるで一生添い遂げるかのようなセリフに、ルークは少しまごつく。
    「シキって結構大胆だなぁ…」
    「?」
    「大胆ついでに……手を繋いでもいいですか?」
    「!……うん」
    差し出されたルークの手に、シキはおずおずと自分の手を重ねた。するとしっかりと握られ、その力に一瞬怯む。

    「……なんだか、色々思い出すね」
    ポツリと囁くようにシキが言う。自分たちにとって“手を繋ぐ”ことは、きっと他の人間に比べて、込める想いが多いのだろう。
    「そうだな。君とこうやって、何度でも手を繋げることが嬉しいよ」
    握る力を込めると、シキからも強く握り返してくる。そのやりとりが嬉しくて、思わず目を合わせ、はにかみあう。
    「あ、あと……生でするの、初めてだね」
    「へ!?!?」
    突然のシキの発言が飲み込めず、ルークは白目を剥きかける。突然何を言い出すのか。聞き間違いだろうか。
    「あ、え、ご、ごめん。前は2人とも手袋してたでしょう?今日はしてないから……ボ、ボク変なこと言った?ごめんなさい……」
    ああ。生とは手のことだったのか。
    「い、いや。変なことっていうか、これは僕の心が汚れてるだけだと思うから、シキは悪くないんだ、うん」
    「うん……??」
    要領を得ず首を傾げているシキから、ルークは目を逸らす。やや気まずい空気を二、三咳払いをして誤魔化し、姿勢を正してから改めて2人は煌めく屋台の連なりへと歩き出した。


    ****

    二人は屋台を楽しんでいた。
    途中、ルークが片っ端から食べ物を買い漁ったかと思えば「あまりにもうまーい!」と歓喜の声をあげ怒涛の勢いで食べ尽くしたり、これまたルークがカタヌキとやらで白熱し、一緒にやっていたミカグラの子供たちと真剣勝負をしたりしていた。
    シキはルークの食べ歩きをやや青ざめた顔で見守り、カタヌキはシキガミロボのレーザー光線で焼き切ろうとし、屋台の店主から厳重注意を受けるなどしながらも、なんだかんだとルークとの行脚を楽しんでいた。

    「あ!射的がある!」
    ルークが指差す先には果たして彼の言う通り射的の屋台が。的になっている景品達はぬいぐるみからお菓子から、子供の好きそうなものから傍目にはよくわからない箱などが無秩序に並べられている。
    「あ!あれは……ニンジャジャンのソフビ人形!?しかも初期版……!!」
    ルークが思わず声を上げた先には、なんとも言えぬゆるい造形のニンジャジャンを模した人形が並んでいた。
    「レアなの?」
    「ああ、あの初期版は伝説とも言われていて!その造形のあまりの拙さに不良品を疑われて回収騒ぎになったんだ。まさかこんなところでお目にかかれるなんて……!」
    要するに不出来すぎて無かったことになっている、ということだろう。
    たしかにあまりにズレているプリントや、甘すぎるディテールは一般的にはとても望まれそうにない製品だが、故あって市場から消えた製品はすなわちマニアが欲する品となる。ルークもそのクチらしく、食い入るように見つめている。
    「ちょっとやってみてもいいかな?」
    ソワソワしながら子犬のような眼差しでこちらを見てくる。
    もちろん反対する理由などないので頷くと、飛び跳ねるような足取りで店主に駆け寄った。
    ルークはシキよりも6歳ほど年上のはずだが、このような無邪気な様子を見ると思わず微笑ましくなってしまう。

    しかし子供のような表情は銃を構えると変貌した。
    構えているものは子供騙しの玩具銃だが、ルークの真剣な眼差しが重厚感を醸し出す。
    彼が構え、照準を定めると喧騒にまみれていたはずの空気がしんと静まり返り、周囲は固唾を飲み、思わず注目してしまう。
    やがて乾いた発射音が響き、小さな箱が弾を弾いた。
    こういった出店の的には素直に一発では倒れない仕組みになっているものもある。ルークが狙いを定めた箱もその類のようで一発受けたのみでは棚から落ちることはなかったが、そのまま微動だにせず二発。少しのブレもなく同じ箇所に当てるととうとう箱は棚から転がり落ちた。

    「……ふぅ!やっぱり本物と違ってかなりブレるなあ。弾の威力も弱いし」
    先程の真剣な眼差しと打って変わり彼の発する穏やかな声色に、思わず見入っていた周囲の人間は一瞬呆気に取られ、ややあって拍手が湧き起こった。
    「やるなぁ!一番落ちにくいのを真っ先に取りにいくとはな!」
    店主はカラカラと笑いながらルークが獲得した獲物を渡してきた。小さな箱に見えるが、外見に反して妙に重たい。何が入っているのだろうか。
    「いやぁ、銃のクセを知りたくて本命の前に練習したかったんですよ。そんな、拍手なんて……はは……ど、どうも」
    照れ臭そうに後頭部を掻き、ぺこぺこと周囲に頭を下げながら、再び銃を構える。

    再度乾いた音を響かせ、今度は一発で景品を仕留めた。棚から落ちていくそれにはパッケージにニンジャジャンのロゴが印刷されていた。


    ****


    「シキ?シキどこだー?」
    ルークは両手いっぱいに景品を抱えながらシキを探している。
    あの後、目的のものは既に入手したので残りの弾で適当な景品を狙い、退散する予定だった。しかし一発で景品を仕留めていくルークに気を良くした周りの客が、奢りだと言ってどんどん弾を渡してくるのでなかなか抜けられなかった。
    全ての景品を総ざらいし、店主の泣き顔を拝んだ頃には気づけばシキの姿が消えていた。知らない人間がたくさん来たので、驚いて逃げてしまったのだろう。

    『ルーク。左を見て。木陰のところ』
    聞き慣れた機械音声が聞こえる。
    「わっ、シキガミロボ!いつの間にか僕にくっついてたんだな。えーと……」
    声の方向に振り向くと、白い十字架様のものが。シキがいつも周囲とコミュニケーションを取る際に用いるシキガミロボが浮いていた。尤も、ルークとは最近はほぼ肉声でのやり取りとなり、会話におけるロボの出番は今のように離れてしまった時や、稀にシキが拗ねたりする時くらいにしか用いられなくなったが。

    ロボが示す方向を見やると、人影のない木陰のもとでシキがしゃがみこみ、こちらに控えめに手を振っているのが見えた。
    「ごめん、シキ!待たせちゃって」
    「う、ううん……気にしないで。それよりすごかったよ。流石エリントン警察でも上位に入る射撃の腕の持ち主だね」
    「え、どこで僕の成績を?へへ、一応射撃は得意なんだ。シキにちょっとはかっこいいところを見せれたらいいんだけど」
    「ルークは、いつも……かっこいいよ。その、たまに変だけど」
    「あ、たまに変って思われてるんだ僕……。けど、ありがとうシキ。褒めてもらえると嬉しいなぁ」
    「本当にカッコよかったよ。さっきのは録画したからいつでも見れるし、……あとでスイさんにも見せれる」
    「いつの間に!?そうかさっきのシキガミロボか!」
    「あ、だ、ダメだった……?ごめんなさい」
    「いや、ダメってわけじゃ……。うーん。録画するのはいいけど恥ずかしいから誰かに見せるのはやめて欲しいかな」
    「わ、わかった。誰もいない時に1人でこっそり見るね」
    シキはとりあえず記録に取れるものは全て残しておくタイプなのか、こんな風にいつのまにか録音・録画されていることがよくある。

    記録してどうするのか以前に一度尋ねたら、寂しくなった時にたまに見返している、と照れながら言われた。そんなにかわいいことを言われてしまうとやめろと咎めるわけにはいかない。
    なんだか自分の姿の記録がいかがわしい何かになってしまったかのような感覚にならないでもないが、シキが満足するならそれでいいか、と一応好きにさせている。
    「そういえば……すごい荷物だね、大丈夫?シキガミロボに運ばせようか……?」
    シキがルークの腕の中の荷物を心配そうに見ている。たしかに景品を総なめしてきたのでかなりのボリュームになってしまい、これを抱えたまま雑踏を歩くのは現実的ではない。
    「そうだな。頼んでいいかい?これでも、あげられるものは周りにいた小さい子とかに渡してきたんだけど……」
    ルークはそういいながらしゃがみ込み、持っていたものを整理する。彼の狙っていたニンジャジャンの他に、ビーストくんのマスコットやまんじゅう本舗の開店何周年かを記念して作られたプレートなど、訳のわからないものまで並んでいた。その中に、最初に撃ち落とした小さな箱もあった。見た目は手のひらに乗るほどのただの紙箱だが、持ってみると妙に重い。
    「ああ、シキ。その箱はそのままでいいよ。この箱以外を運んでくれるかな」
    「わ、わかった。」
    シキが返事をするとどこに潜んでいたのか、幾つものシキガミロボが現れ、荷物を担いで飛んでいく。複数個体を使えば案外重いものも持てるらしい。

    「それは……何?」
    シキは不思議そうにルークの手の中に収まった箱を指差す。お目当てであったニンジャジャングッズならばわかるが、なぜルークは敢えてこの箱を残したのだろうか。
    「これは……えっと、その……」
    シキの問いにルークは気まずそうに口ごもる。照れているのか表情は妙ににやけ、キョロキョロと周囲を見回す。
    人が苦手なシキが待機場所に選んでいたここには二人以外は誰もいない。
    少し隔てたところにはまた祭りの喧騒があるが、この空間だけは対照的に静寂に切り取られている。

    「えっと、シキ。手を出してもらえる?左手を……」
    言われるがままにルークの元へ左手を差し伸べる。何をする気なのだろうか。
    ルークが紙箱を開けると、中からはまたも箱が出てきた。真紅のベルベットのような起毛素材で作られた箱だ。ジュエリーが入っているそれに酷似している。

    「あ〜〜、その!ゲホン」
    やや逡巡し、わざとらしい咳払いののちにルークは片手に箱を持ち、もう片方の手でシキの手を取る。

    「病めるときも健やかなるときも、きみのそばにいることを誓うよ。シキ」

    箱を開くと中から出てきたのは指輪。恐らく玩具であろうそれは、夜に浮かぶ灯りを反射しさまざまな色に煌めいていた。
    そのままルークはシキの薬指にそれをはめる。小さめで子供用に見えなくもないサイズだが、シキの細い指は引っかかることなくするりとそれを受け入れた。

    「…………。」
    シキは何が起こっているのかよく掴めないようで、不思議そうな顔をしてしばらく指元の光を見つめている。するとルークはシキの手を己の顔に寄せ、薬指に軽く口付けをした。

    「……なんて、おもちゃの指輪で悪いけど……。この指輪を見て、ちょっと、こういうことしたかったんだ。ハハ……」
    ルークさ照れ臭そうに後頭部をポリポリと掻く。
    一方シキは相変わらず事態が飲み込めていない顔でルークの顔と指輪を交互に見つめている。

    (……まずい、ハズしたか!?やっぱりおもちゃの指輪でゴッコ遊びなんて、子供っぽすぎたかなぁ……)
    反応らしい反応を見せないシキにルークの焦りはどんどん募る。6つも歳上の人間がごっこ遊びなどというあまりに幼いことをしているので呆れられたのだろうか。

    シキは不思議そうに指輪を見つめたまま、ぱちくりと瞬きをし、大きく見開いた目でルークを見つめる。
    「……ごめんなさい、ルーク。これって、どういう意味なの?」
    「えっ……。どういう意味って、ちょっとプロポーズというか、結婚式の真似事みたいなのしたかったというか……。いい歳こいた大人がすることじゃなかったですね!すみません!」
    真面目に問い返され居た堪れなくなったのかルークは焦ったように謝る。
    「け、結婚式って……こういうこと……するの?ごめんなさい、ボク本当によく知らなくて……」
    「……あ、ああ!」
    なるほど。シキは呆れ返っていたのではなく、この指輪にまつわる儀式そのものについて知らなかったので反応できなかったのだ。道理でずっと不思議そうな顔をしているわけだと腑に落ちた。
    シキの出自はかなり特殊で、人生の大半を軍部と犯罪組織で過ごしてきたのだ。こういう一般的な知識はまだまだ欠けていても不思議はない。

    (と、いうことは僕は単に一人突っ走って自爆したと……そういうわけか……)
    改めて恥ずかしくなってきた。顔が紅潮しているのがわかる。汗が吹き出すかのように暑く感じるのは気温のせいではあるまい。
    「ごめん、シキ。一人で自己満足に走って……置いてけぼりにしちゃったな」
    「ううん。ルーク、あの……」
    シキはおずおずとルークの手を取る。ルークの両手に重なるその手には、キラキラと夜の光を反射する輝きが添えられている。

    「……嬉しい、です。アナタがボクにこうしたいと思ってくれたことが、すごく嬉しい。ありがとう……」
    頬を染め、恥ずかしそうに目を逸らしながらも、シキは幸せそうに笑った。
    その笑顔は整った顔立ちが生む儚さと、滲み出る健気さがなんとも言えず、ルークは思わずシキを抱き寄せていた。
    急に身近に感じるルークの体温に、シキの心音が跳ね上がる。
    「……あの、シキ、キスしてもいいかな」
    ルークの声色から、込み上げる愛しさを堪えきれない様子がまざまざと伝わってくる。頷くと、そのまま唇を重ねられた。

    しばらくキスを交わした後、突然地響きのような音が聞こえた。
    「ひっ!?」
    シキが思わず身をすくめる。
    「……ああ!花火か」
    祭りも終盤に差し掛かったらしく、フィナーレを彩る花火が夜空に咲き始めた。
    不意に響いた音に驚いていたシキだが、今は落ち着いて花火を眺めている。シキの大きな瞳の菫色の中に色とりどりの光の粒がきらきらと映し出され、夜空とはまた違った美しい光景が広がっている。

    「ねえ、ルーク。こうしたらいろんな光が見えて、綺麗だよ」
    シキが左手を空に翳すと、指輪の石に花火が反射してまた違った煌めきを生み出している。けして高級品ではないそれから生まれる光は、不思議と幻想的であった。

    「本当に……ずっとそばにいれたらいいのに……」
    シキは独り言のようにポツリと呟く。

    ——病めるときも健やかなるときも、きみのそばにいることを誓うよ。

    先程のルークの言葉だ。

    ルークは、もう間も無くリカルドへ帰国することが決まっている。公安監視下に置かれているシキは彼とともに発つことはできない。二人で過ごせる時間は、あとわずかであった。

    「……ッ。大丈夫。生きてさえいればまたいつか会える。約束するよ、僕はまた君に会いに来る。来年も一緒にこの花火を見よう、シキ?」
    ルークは優しく語りかけながら、シキの手を握る。シキは俯いていたが、ややあって頷き強く手を握り返してきた。
    「……うん。約束だよ……。ボクは……またアナタと、何度だって手を繋ぎたい……。」


    ****


    『きみのそばにいることを誓うよ。シキ』

    シキガミロボから再生される機械じみたルークの声。
    あの夜に密かに録音していたそれを繰り返し聞きながら、シキはオフィス・ナデシコで彼に与えられた部屋のソファに寝転がっていた。
    ルークの声を聞きつつ左手に嵌められた指輪をぼんやり見つめている。天井のライトを反射するそれは、単調な光を放っていた。
    この指輪は普段は箱に収納されているが、時々シキは取り出してこっそり薬指に嵌めていた。ルークの旅立ちの日が近づくにつれ、その頻度は上がっていた。

    「シキ。入るぞ」
    「ひっ……!?!?」
    突然ドアの向こうからナデシコの声がし、シキは動揺のあまりソファから転がり落ちる。ドアが開けられる数秒の間に、彼にしては珍しく高速で動き、なんとかシキガミロボの音声再生を切った。
    「大丈夫か?何か転がるような音がしたが……ああ、驚かせてしまったのか。すまないな」
    「……あ、え、えっと……大丈夫……な、なんの用事?です、か?」
    「相変わらず敬語が下手だなきみは。無理しなくていいぞ。なに、先日の礼だよ」
    「お、お礼……?」
    「夏祭りの件さ。きみとルークが食べ歩きや射的で人の注目を集めてくれた結果、我々は祭りの裏で暗躍する不届き者を捕まえることが出来た。」
    先日の夏祭りは、確かルークをリラックスさせてくれと依頼されたはずだが。不届き者とやらの話は初耳だ。
    つまり、元々の依頼はフェイクで自分たちが祭りに参加し、大衆の耳目を集めることによってナデシコ達の本来の目的遂行を補助する役割を担わせたのが本当のところだったようだ。
    確かに、特に射的のあたりではかなりの人間がルークの周りに集まっていた。タイミング的にはあの辺りの裏で何か行われていたのかもしれない。
    「すまないな。君たちを利用した。だが、二人にいい思い出を作ってもらいたかったのも嘘ではないよ。……見たところ、随分といい“思い出”を得たようだな」
    ナデシコの瞳が目敏くシキの薬指を射抜く。
    「あ、え、えっと!こ、これは……その……」
    慌てて指輪を手で隠して狼狽えるシキを見てナデシコはクスクスと笑っている。

    「なんだなんだ。君たちは二人揃って初々しくて可愛らしいな。そんなに照れなくてもいいだろう」
    「……ぅ、うう……」
    シキは可哀想なほどに顔を赤らめ、目尻に涙まで浮かべている。少しいじめすぎたかもしれない。
    「フフ。いずれにせよ、きみにもいい経験ができたようで何よりだ。」
    「ぁ…………。ボ、ボク……。本当にいいのかな」
    「うん?何がだ」
    「その……ボクは数え切れないくらいの人を苦しめた事に関わってたのに、ルークはそんなボクのそばにいるって言ってくれて、ナデシコさんも、みんなも、ボクに気を遣ってくれたりして……。その度に嬉しかったり、幸せだなって思ったりするんだけれど……ボクは、本当はそんなことをしている立場じゃなくて、贖罪をしなくちゃいけない人間なのにな、って……」
    ぼそぼそとシキは言葉を紡ぐ。要するに罪人の自分がこんなにいい目をしていいのか、その引け目があるのだろう。辿々しく喋りながら、無意識なのか指輪を撫でている。

    「シキ。これは私の持論だが、贖罪すべき人間ほどきちんと幸せを知るべきだと思うよ。幸せとは何かがわからない人間には、罪とは何かということが本当の意味で知ることはできないと思っている。自分でその価値がわからないならば、それを失わせた責任の重さもわからないだろう?」
    ナデシコの言葉に、シキはやや肩を強張らせ、緊張した様子を見せる。まだまだ彼の贖罪は始まったばかりで、まずは自分の犯した罪と向き合うことすら満足にできていないことを痛感しているのだろう。
    「だから、シキ。きみは幸福というものを知るべきなんだ。知って、初めて本当の意味で犯した罪の重さがわかるだろう。その上できちんと罪を贖って、そうして次は本当に幸せになるんだよ。」
    ナデシコがシキの頭にぽんと手を置くと、うん、と小さな声で返事があった。

    「そういう意味で、私は先日の件は大成功だと認識している。私も皆も、きみが本当の意味で幸せになることを願っているよ。シキ。……もちろん、ルークもだ。」
    ルークの名前が出るとさっと頬を染めたのがわかる。全く素直でわかりやすい。
    この初心な赤子のような反応こそ、シキが本当の意味で悪人ではないことの証左だろう。周りの環境さえまともであれば、引っ込み思案ではあれど素直な若者に育っていただろうに。
    「そうだ、ルークの名前が出たついでだ。リビングでルークがひとり暇そうにしていたぞ。会ってきたらどうだ?」
    「え!……で、でも今日の室外行動時間はもう……」
    「公安の私が許可しているんだぞ?何を遠慮することがあるんだ。行ってきなさい。」
    「ナデシコさん……あ、ありがとう、ございます……!」
    礼をいうや否やシキは立ち上がり、ぱたぱたと部屋を出て行く。

    その後ろ姿を見守りながら、ナデシコは本心から、彼の未来が幸福に輝かんことを祈っていた。
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