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    Enki_Aquarius

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    「Scent Command」+四話目です。

    ##ScentCommand

    Scent Commandーcontinuation4 結局、あの後生徒会‐というよりは七草の横槍が入ったために、彼らに懲罰を下すことはなかった。それどころか、弁明の機会まで与えると言う太っ腹ぶり。
     教職委員としては、下手な事件に手を出して、己の手を汚したくないだけなのだろう。が、それがどう転べば公開討論会に発展するのかは、達也には理解できなかった。

     罪人は断罪されるのみ。

    「司甲は、旧姓鴨野甲。両親祖父母、いずれも魔法的な因子は見られず、いわゆる普通の家庭の生まれですが・・・」
     実はあの陰陽道の大家、賀茂氏の傍系にあたる家柄である。賀茂氏と言えば、賀茂忠行と言われる、平安時代前期から中期にかけての陰陽師がおり、それはあの安倍晴明の師ともされている、優れた人物である。
     時の帝からも絶対的な信頼を得ており、安倍晴明を見出した人物でもある。
    「あの目は、先祖返りだと?」
    「多分そうでしょう」
     霊子放射光過敏症とは、意識して霊子本社校を見えないようにすることができない、知覚制御不完全症のこと。非物理的な光に対し、過剰な反応を示すこともあり、情動に影響を及ぼして精神の均衡を崩しやすいなどの傾向にある。
    「そこを、付け込まれたのでしょう」
     兄‐司一に。兄と言っても、母親の再婚相手の連れ子。つまりは義理の兄と言うわけだが、
    「ブランシュ日本支部のリーダーを務めているのですよ」
     表向きだけの代表ではなく、非合法活動を初めとする裏の仕事の方も仕切っている本物のリーダー。
    「つまり、司甲が第一高校に入学したのも、義兄の思惑があってのことでしょう」
     達也はそう言って肩を竦めた。彼自身にその気がなかったとしても、そうなってしまう。つまるところ、司一という男はなんらかの方法で精神を操る術を持っているのだろう。
     とはいっても、達也はそれが本物・・であるとは一欠けらも思ってはいなかった。
    「精神、干渉」
     達也の呟きに、小さく肩を揺らした。幸いだったのは、達也がそれを見ていなかった、ということ。すぐに視線を逸らした渡辺は、口元に指先を添えた。
    「明日の討論会、ひと悶着ありそうだな」

    ***

     翌日、四月二十三日。
     達也は渡辺の指示に従い、会場となる講堂の舞台袖にいた。勿論、愛用している拳銃型CADも身に着けており、準備は万全と言ったところである。が、その表情はどうにも晴れない。
    「生徒会、学内の差別撤廃を目指す有志同盟による公開討論会・・・と」
     そう言って愚痴をこぼすかのように達也は言葉を吐き出すが、周りの面々も同意見とばかりの表情であった。
     これはままごとだ。
     下らない言葉だけをただ繰り返し、熱量だけで自分たちの意見を押し通そうとしている馬鹿の所業である。
    「もはや討論会ではなくて、真由美の演説会になりつつあるな」
    「想定していた通り、と言えばその通りでは?」
     達也がそう言って首を傾げて見せれば、渡辺は苦笑を浮かべるしかなかった。
     しかし、だからと言って油断しきって良い状況ではないことは確かである。点々と居る、赤と青の線に縁取られたリストバンドを持つ生徒エガリテの参加者たち。
     いまだに何をしようとしているのかはさっぱりであった。
    「こちらから手出しはできんからなぁ・・・」
     専守防衛と言えば聞こえはいいが、そうもいかないだろう。達也は同情するように肩を竦めて見せる。しかし、達也とは違って市原は真向から反論をぶつけた。
    「渡辺委員長。実力行使を前提に考えないでください」
    「っ・・・わかっている。心配するなって」
     どうせ、渡辺がもし駆け出すようなことがあれば、その前に見事に狩って見せる猟犬が渡辺にはいるのだ。渡辺の出番が来ることなど、そうそうありはしない。
     渡辺は意識を七草の方へと向けているようだが、達也はどんどんとこの状況に興味を失っていた。正直に言えば、どうでもいいのだ。ツンと明後日の方向へと顔を向け、それからゆっくりと瞳を閉じる。
     感覚を一点に集中させ、
    「っ?!」
     それを見つける。
     丁度、七草が〝一科生ブルーム二科生ウィードという言葉を発したせいで、達也の動揺は、会場のどよめきによってかき消された。けれど、
    「何か、見つけたのか」
     渡辺だけは、達也を見ていた。

    「【Go】」

     コマンドが、スパイスの香りと共に放たれる。
     瞬間、彼は飛び出した。
     首についていた鎖は彼を縛ることを止め、解き放つ。まるで押さえつけられていた殺戮本能が牙を剥いたかのような、激情。
     喝采巻き起こる会場には相応しくない、獣が通る。
    「【hurry up】!達也っ!!」
     舞台を蹴り上げ、大きく跳躍する。並はずれた身体能力の持ち主ではあったが、これこそが真価を発揮した姿なのかもしれない。
     鼻を擽る、スパイスの香り。
     いつの間にか彼の手に収まっていた拳銃型CADは、きちんとその先にあるモノを捕え、離すことはしない。
    「‐分解‐」
     壁を越え、その先にあった爆弾が消え去る。それを会場の中から確認することができたのは一人だけだったが、事が重大であることを、誰もが悟った。
     動き出す。
    「マスター!」
    「取り押さえろ!!」
     待機していた風紀委員が一斉に動き出し、その前に動き出し始めたリストバンドを持つ生徒たちを次々と拘束していく。達也はそれを横目に捉えながら、座席を蹴り上げては、後方の扉へと向かう。
     扉が開かれ、重装備の男たちが侵入を果たす。が、少し遅かった。
     最後の座席を蹴り上げた達也の足が一人の男へと振り下ろされ、瞬間に掛けられた魔法の相乗効果によって、吹き飛んでいく。
     着地は優雅に。けれどもその姿は獣そのもの。狩るモノであり、奪うもの。
    「マスターの命令を、実行する」
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