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    Enki_Aquarius

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    「PURE FACE」の二話目です。

    ##PUREFACE

    二幕:美しきサルビア 西暦二〇九五年、四月三日。東京・八王子。
     式典というものは、大抵暇で退屈なものである。
     特別な機会に行われ、大抵は多数の芸術的な要素から成る趣意を持った、一連の儀式的な催しである。改まっていると言えば聞こえはいいだろうが、結局のところ形式にとらわれた窮屈なものという訳である。
     本来ならば出席しなくてもよいこの式典を、わざわざ達也が参加している理由は、新入生総代の挨拶を聞くため、これだけであった。
     本年度の新入生総代は、男女ともに魅了する並はずれて可憐で神秘的な美貌を持ち、ぴんと背筋を伸ばして生徒会役員の隣に座っている女生徒。背の半ばまである艶やかなストレートの黒髪の隙間から覗く黒く澄んだ瞳をこちらに向け、いたずらっ子のように緩めた。
     名を司波深雪。達也の妹、という設定になっている。
     達也は答える様に頬を緩め、背を再度背もたれへと預けた。顔が似ていないので、おそらく傍から見れば恋人同士、または旧知の仲程度には思われるだろう。しかし、歴とした血の繋がりを持つ関係である。
     証明と誤魔化しくらいなら、いくらでもやりようはあった。
    「今のが・・・ですか?」
     そう言って、少しばかり遠慮しがちな声で達也へと話しかけたのは、達也の隣の席に座った女生徒‐柴田美月である。視力矯正治療が普及した現代では珍しい、達也と同じように眼鏡を掛けた彼女は、おそらく見え過ぎ病の俗称を持つ知覚制御不完全症を抱えているのだろう。
     同じ眼鏡を掛けている、というだけで親近感を持たれているようであったが、残念ながら達也は彼女の抱えている症状とは全く異なった理由で眼鏡を掛けている。本来の用途、と言えばいいのだが、それを今は説明する気にはなれなかった。
    「あぁ、そうだよ。彼女が妹の司波深雪」
     あとで紹介するよ、と言えば美月の隣に座っていた明るい栗色の髪を持つ女生徒‐千葉エリカがぱっと咲いたような笑顔を見せた。
    「なになに?彼女はあんまりそういうタイプじゃないの?」
     身を乗り出すのは結構だが、今が式典中であることだけは思い出してほしい。達也は小さく微笑みを返すだけに止め、再度壇上の方へと視線を向けた。
     司会進行役を務めている生徒が告げ、ようやく深雪が立ち上がる。彼女が紡ぐ言葉は、おそらくここにいる生徒たちに震撼を与えるだろう。
    「敵を作らないといいが・・・」
     愛すべき兄孫だ。さすがに危ない目に合わせたくはない。例え学生だったとしても、質の悪い人間がいないとは限らない。もっとも、今回の容疑者は高校生、という可能性もあるのだから。
     達也はそっとため息を吐き出し、それから再度壇上へと昇った彼女の方へと視線を向けた。凛とした声が紡ぐ辛辣な言葉は、どうにも耳が痛い。俺を思っての言葉なのだろうが、あまりにも棘がある言い方である。
     達也は再度ため息を吐き出した。おそらく隣に座る二人はそのため息に疑問を持つだろうが、残念ながら達也がそれに答える気はない。
     随分とハラハラさせられた入学式は、間もなくして終わりを告げた。彼女の度胸と心意気には深く称賛するが、無鉄砲な一面は少しばかり躾けが必要だろうと達也は思った。
    「達也君、何組だった?」
     すでに偽造として受け取っていたIDを誤魔化しながら、ID交付所へと向かった。IDを受け取る必要性はないため、このまま深雪と合流して帰宅するのがこの後の予定であったが、変更は致し方ないだろう。
     むしろ、ここでID交付所に行かないのはエリカと美月に不信感を抱かせてしまう。
     達也はなんとか手先の器用さを駆使して誤魔化し、無事にID交付所から出たところで、エリカからそんな質問が飛んできた。
    「E組だよ」
     IDを見せながら達也がそう言えば、ぱっと花が咲いたような笑みを二人は見せた。どうやら、同じクラスだったらしい。
    「司波君、この後ホームルーム覗きにいかない?」
     今日のタスクは全て終了している。帰宅するも、交付されたばかりのIDを使って校内を探索するも自由。そんな中でのエリカからの提案であった。
     普通の高校生ならば、ここは喜んで付き添うことだろう。しかし、達也はすでに下見と称してこの学校を一度訪れたことがある。なんなら設計図まで持っているのだから、今更校内を見て回る必要などどこにもない。おそらく目新しいものは何も出てきやしないだろう。
     とまぁ、そんなことを素直に言えるわけもないので、達也は肩を竦めてこう言った。
    「悪い、妹と待ち合わせているのだ」
     少しばかりずれてしまった眼鏡を直しながらそう言えば、エリカは少しばかり羨ましそうな表情を見せた。
    先ほど紹介すると言ったのだから、そんなに欲しがりそうな表情を見せなくともいいのだが。達也はそう思いつつも呆れたような表情を表に出すようなことはせず、近づく足音に笑みを浮かべた。
    「次いでだから紹介するよ」
     達也のその言葉に合わせるかのように、一歩足を後ろへと引いてお辞儀をして見せた少女は、美しかった。艶やかな黒髪が翻り、黒く澄んだ瞳は人形のように美しく縁取っているまつ毛の下へと隠れる。
    「司波深雪、俺の妹だ」
    「初めまして、司波深雪です。A組とクラスは離れていますが、どうぞよろしくお願いします」
     その一言は、随分と後ろに居る連中に刺さったらしい。どうにも苦い表情を浮かべているが、今口を挟むつもりがないのは好都合であった。
     美月、それからエリカと挨拶をしていき、ぱっと話が盛り上がる。深雪が気さくな性格だったおかげだろう。第一高校の特徴ともいえる一科生と二科生の溝は、そこにはなかった。
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