どこにでもいる貴方へ空の澄んだ蒼さ。海の泡沫の煌めき。星々の瞬きの貴さ。たくさんの当たり前を、貴方は教えてくれた。流れていく世界の一部でしかない私に、貴方はそれが普通のことのように、手を差し伸べてくれた。
「君も、僕も、大勢の内の1つに過ぎないよ」
此処にいて良いんだよ。
そうするのが当然のように、扱ってくれた。
舞台の上に上がることはできても、登場人物にはなれない。物語に関わることは出来ない、背景のような私に、目を向け話しかけてくれた。
貴方の当たり前が、私に恋心をくれたのです。
それなのに、どうして。
どうして貴方が消えなくてはならないの。貴方には、暖かな場所で笑っていて欲しいのに。
世界が彼を、異物と拒んでいる。彼は私と同じ、物語の登場人物ではないから、消えても良いのだと。
愛おしい貴方に、未来が許されないなんて不条理だ。それはおかしいと、声をあげたのは私だけだった。
世界が彼を認めないのならば、私はその世界を根幹から変えるしかない。今の世界を壊すしかない。
「どうして、俺にそこまでしてくれるの?」
「貴方が、当たり前に私を見つけてくれたからです」
「俺は君に、特別なことは何もしていない」
「はい。特別なことは何もしてません」
主人公のような、スポットライトが常に当たっている人が導いてくれるのではなく、同じ処に立っている貴方が、普通に笑いかけてくれた。なんでもないそれが、嬉しかったのです。
だからどうか、彼に未来を。
輝かしくはないかもしれない。それでも歩いて行ける道を。その先が、暖かであって欲しいと願っている。
貴方が私を忘れてしまうくらい、長く、長く、生きていて欲しいのです。
「私は、先輩が大好きです」
「──」
私の名前を呼んでくれる。それだけで嬉しかったのです。それだけが私の宝物なのです。
「絶対に忘れない」
世界の一部に戻ってしまった私は、貴方をただ見ていることしか出来ない。そこに私の記録はなく、意味もない。
もう助けることも、話しかけることも、触れることも出来ないけれど、貴方の行く末を、いつまでもいつまでも、見守っています。
貴方の未来に、幸多からんことを。