スチパン朱玄のクリスマス話世間はクリスマスで家族や大切な日と過ごす日だけれど、両日とも勤務だ。終業後、荷物をトランクに詰め込んでどこかへ行こうとするゲンブが気になって、同行許可をもらってついていく。汽車に乗って2駅先、訪れたのは孤児院だった。顔を見せた途端子供たちが一斉にこっちを向く。しゃがんで子供たちと同じ目線で語らうゲンブの姿を見て、勤務中に対応するときとは少し違うことを知る。同じように子供たちの相手をしていたら、夕飯までご馳走になってしまった。
子供と接する時間はいつもと違って表情も口調も柔らかく、ゲンブもこんな顔すんだなぁ…と思いながら口にしたら機嫌損ねそうなので黙っておく。自分の出身は田舎でたくさんの子供たちと遊んで育ったので、人がいっぱいいる場所は好きだがゲンブもそうなんだろうかと横目で見ながら終わりの時間が訪れる。神父さんとシスターに挨拶をした帰り際に、ゲンブくんのことよろしくお願いします、と言われて妙に照れくさかった。
雪の降る街で汽車に乗り込み向かい合わせに座る。交わす言葉は少ないが寒い夜に離れがたくなり、ウチに来ないかと誘うといつもの顔で、ああ、とだけ返された。家に酒あったかなあと思い起こし、帰り道に酒屋に寄ってゲンブが一番好きな酒を買う。
家に着くと2人とも外套だけ脱ぎ、タイを外す。適当なツマミだけ用意し、古いテーブルを挟んで向かい合わせて酒を交わす。ゲンブが少しだけ昔話をして、オレも出身の田舎の話をした。こうやって昔のことを話してくれるのは、少しでも認められてると思っていいんだろうかと考えてしまう。酒に気を良くしたのかもしれない。いつまで起きてたか分からないが、気付くと朝で、お互いそのままの状態で背中合わせでベッドに寝ていた。
起きてくると言えなさそうなので、その静かに眠る横顔に口にしておく。
「メリークリスマス」