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    Q_hana9

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    Q_hana9

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    アンチ・コンスタンツェ⑤
    いずレオいず下敷き、いずあん結婚式の話。
    二人はどうして付き合って、どうして別れたのか。
    ※いずあん要素はほぼないけど、新婦の描写が少々あるので、ダメな方は逃げてください。
    ※嵐ちゃんの解釈と感情が迷走気味。

    5、新郎友人 鳴上嵐 あーあ。本当にイヤんなっちゃう。
     なんて正しくて、なんて美しい結婚式。永遠の愛を誓う男女の晴れ舞台。
    『間違いなんて初めからひとつだってありませんでした』っていう幸せな空気が会場を満たし、やがて少しずつ、アタシの心の中にまで侵食してくる。

     梅雨の合間に開かれた、泉ちゃんとあんずちゃんの結婚式。アタシは泉ちゃん――新郎側の友人として、この祝いの卓に座っている。
     今朝までの長雨が嘘だったかのように広がる快晴の空は、清く正しい男女の婚姻を神様が祝福しているからかしら――なぁんて、今日のお式は神前式じゃないんだけどね。
     六月吉日。アタシたち『Knights』全員が招待されて参列する人前式は、本当に親しい相手だけを集めたような三十人程度の小規模なウェディング。海辺の小さなゲストハウスで開かれている新婦の手作りらしい結婚式は、ゲストも場所も入れ替えずにそのまま披露宴へと場面を進め、もう間もなく、新郎友人代表からのお祝いのスピーチが始まるところ。
     友人代表のレオくんと凛月ちゃんによる、スピーチという名のピアノ演奏。
     神にも仏にも頼りそうにない二人が選んだのが人前式このかたちだったということも、本来新郎新婦の人となりを紹介する目的の友人スピーチが、まるっと演奏に置き換えられてしまっていることも、そんなに意外ではなかったけれど、その人選だけには何度も耳を疑った。
     人前式におけるゲストとはすなわち、結婚の立会人であり証人で、代表なんていうのはその筆頭みたいな役割なのに。その大役に元恋人を指名した泉ちゃんにも、受けたレオくんにも、許可したあんずちゃんにも驚いた。聞いたときにはさすがのアタシも呆気に取られて、文句の一つも投げられなかった。
     そんな理由で少しだけモヤモヤとした気持ちを抱えながら参列した式は、とても順調に、穏やかに続いている。海側に大きく開いた窓から射し込む初夏の陽に照らされて、あたたかな祝福に彩られながら進んでゆく。
     誓いの言葉に指輪の交換、新婦友人のお祝いスピーチ――つつがなく執り行われる諸々のあいだじゅう、高砂に並ぶ主役の二人は少し緊張しつつも、ずっと幸せそうに笑っていたし、時々気になっては盗み見た同卓の仲間の顔色も、途中で翳るような気配はなかった。
    『かっこよくしてくれ!』という要望に応え、アップに仕上げたレオくんの前髪は、彼の凛とした強いまなざしを際立たせるようで、我ながら出来が良い。斜向かいという座り位置もあってか、式の合間に彼とは何度も目が合って、そのたび楽し気に笑いかけてくれた。その鮮やかな笑みをほんの少し薄ら寒く感じてしまったのは、嫌なところばかり自分と似ている彼の心の奥底を、勝手に邪推してしまうから。
     そんなアタシの本日の心配のタネは、今では凛月ちゃんと一緒にあんずちゃんの向こう側、立派なグランドピアノの前。お揃いのネイビーのジャケットをぴしりと並べて座っている。こちらにはすっかりと背を向けてしまっているから、表情すらもうかがえない。
     そんなのはただの杞憂だと振り払いたくて目線を外せば、今度は同じテーブルに残る羽風先輩が、半分心ここにあらずといった風に見えることが気になった。
     新郎側の友人席を囲むのはアタシたち『Knights』の四人に、泉ちゃんと同級生の先輩二人――『UNDEAD』の羽風先輩と『流星隊』の守沢先輩。二人とは所属事務所もサークルも、学生時代の部活なんかも違ったから、世間話をする程度の顔見知り。
     朝からずっと、泉ちゃんとあんずちゃんと、それからレオくんばかりを気にしていたせいで、気づかなかった。
     おしゃべり上手で気遣い上手、恋愛なんてお手のもの!みたいに見えていた彼もまた、もしかしたら今日の主役のどちらかに、本気の恋でもしてたのかしら。
     そしてさらにその隣。まるで介助人みたいな守沢先輩は、気遣わしげに高砂上と隣席と、二人の友人を交互に見やっては、百面相を繰り広げている。あらあら、なんだか今日のアタシみたい。お互い苦労するわねェ。

    ――先輩と後輩と同級生。新婚夫婦と昔の恋人、片想いと両想い。友人とユニットメンバー、アイドルとプロデューサー。同性と異性。
     変わるものと変わらないもの。両立できる肩書と、相容れることのない関係性。

     うっかり自分事として考えそうになるのが煩わしくて、目の前の煩雑な人間ドラマを他人事みたいに傍観する。叶うことのことのない恋心は、自分のものだと苦しいのに、他人のものなら娯楽にすり変わる――なぁんて、我ながらイヤな性分ねェ。
     ぼんやりとそんなことを考えているうちに、ポロ……と滑らかに転がりだしていたピアノの音色。
     いつの間にかすっかり喧騒の消えた会場へと、沁み入るように響く最初の一音。繊細でありながら地に足の着いた落ち着きを感じる演奏は、よく聴き慣れた凛月ちゃんのそれだと分かる。すぐさまそれを追うように重なった伴奏が明るい和声を作り、静寂をやわらかに彩りはじめる。
     基本的にテンポの乱高下が少なく起伏の穏やかな凛月ちゃんの演奏と、その時の気分によって好き勝手歌い出すレオくんの演奏は、意外なことに、相性がとても良いらしい。かと思えば、段々と気分の乗ってきた凛月ちゃんのリズムに合わせて囃し立て、時には諫め、それもやがて逆転して――楽器のことは皆目わからないアタシにも、今この場を満たす音楽がひどく心地いいということだけは断言できる。
     ポピュラーよりもクラシック音楽に近いのかもしれない。耳にすれば思わず一緒に歌い出したくなるような『Knights』のためのそれとも、メンバーそれぞれのためのソロ楽曲ともまた違う。ずっとそばで耳を傾けて、許されるのならば少しだけハミングで参加してみたいような。それも少しはばかられるような。
     泉ちゃんとあんずちゃん、たった二人のためだけに紡がれていく、幸福の音。
     だからAメロ――と呼んでいいのかは分からないけれど――に入るか入らないかというところで突然泣き崩れた泉ちゃんを目の端に捉えても、不思議と驚きは湧かなかった。
     だってこれはきっと、神にも仏にも願わない泉ちゃんが、今日という晴れの日に唯一望んだ、自分たちのためだけの祝福のメロディー。


     かつての泉ちゃんとレオくんの、いわゆる色恋と名付けられるような、あれやこれ。
     当事者たちを除けば、それを一番詳しく知っていたのも、それを一番に応援していたのも、アタシだったんじゃないかと思っている。

    『男とか女とか関係ない。好きだから一緒にいるの』
     あの日、素直じゃないユニットメンバーの口から転がり出たえらく素直な告白に、心地よいほろ酔い気分が見事に吹き飛んだ瞬間を、なぜか鮮烈に覚えている。他人事なのに。あるいは他人事だからこそ、かもしれない。
     まるでドラマのワンシーンかのように思い出されるそれは、泉ちゃんが再び拠点を日本に戻して半年くらいたった頃、二人で訪れた会員制のバーかラウンジでの出来事だったと思う。当時、日本でも同居を始めたレオくんとの関係性を、冗談9割で問うた返答がこれだった。
    「好きだから一緒にいるの。何か間違ってる?」
     二人が同居を再開した動機については、レオくんの不足しがちな生活能力を補うためと、あとは持ち前の世話焼き精神に付け込まれがちな泉ちゃんのスキャンダル疑惑を防ぐため、みたいな一応の理由はもらっていたから、本当の気持ちがどうであれ、はぐらかされるだろうと思っていたのに。
     アタシの次にキレイな顔で、くもりのないまっすぐな瞳で、そう断言されてしまったのだ。
     腹が決まれば誰よりも潔い男だと知ってはいた。けれどあまりにはっきりと言葉にされた事実にたじろいて、その時のアタシはうっかり説教じみた否定から入ってしまった覚えがある。もしかすると曖昧で美しくない笑顔なんかも、浮かべてしまっていたかもしれない。
    「泉ちゃん……レオくんもだけど、別に男の子が好きってわけじゃないんでしょ。昔よりは寛容になったって言っても、同性どうしのお付き合いって、あんた達が思ってるより辛いことも多いわよ」
    「……そんなことなるくんに言われなくたって分かってる。同性ってことも、アイドルってことも、同じユニット内ってことも」
     それに対して、彼はほんの小さく息をつき、なんでもないことのようにそう答えた。ひょっとしたら開き直りもあったのかもしれない。けれどその口ぶりはひどく落ち着いて、動揺も虚勢も、あるいは照れさえも見えなかった。
     とはいえその日、珍しいことにお酒を口にしていた泉ちゃんは、顔から首から真っ赤っか。多少の感情の揺れなんかは、見過ごしてしまったに違いない。そういえば、泉ちゃんが何かの賞か大きな仕事を獲ったお祝いだったのかもしれない。
     衝撃の告白のせいで、今となっては背景の全てが曖昧だ。
    「……そう。前途多難は承知の上で、叶えたい恋なのね」
     今も変わらず順調なアタシたちだけれど、あの頃――レオくんと交際を始めた頃の泉ちゃんはやることなすこと絶好調で、身内の贔屓目を除いてもキラキラと輝いて見えていた。当然、同性のアイドルどうしの恋愛なんてスキャンダル、絶対にご法度の時期だった。だからこそ、そこに垣間見えた覚悟みたいなものが眩しくて、まばゆくて、アタシは自然と目を細めた。
    「……別にそういうんじゃないけど、あんたたちには迷惑かけるかもしれないから――って人が真面目に話してるのに、笑わないでくれる」
    「あらァ、違うわよォ」
     アタシの微笑みに気づいた泉ちゃんは「だからなるくんには言いたくなかったんだよねぇ!」と叫んで、いつものキレ芸を披露してくれたけれど、この時のアタシに茶化すつもりは毛頭なくて。ただ、この人はアタシが考えていた以上に根本的に、レオくんとアタシたちと、五人で立てる今と未来のステージを愛してくれているんだな、なんて思い知らされたのだ。
     ちょっとだけ笑ってしまったのは、いやに素直に交際を明かしてくれた理由がストンと腑に落ちて、それがなんだかくすぐったかったから。
     そう教えてあげれば本格的に照れ臭くなったのか、もごもごとよくわからない言い訳を並べてくれた。元から赤かった顔は今度こそ、さらに色濃く染まったように見えた。その突き抜けたトンチンカンさが、彼らしくって微笑ましかった。
    「で、迷惑かけられてあげる代わりに教えてほしいんだけど、決め手は何だったの?」
    「決め手?」
    「だってこう言っちゃなんだけど……今更じゃない?」
     泉ちゃんがレオくんを、レオくんが泉ちゃんを好いているのは、とっくの前から周知の事実。だけど瀬名泉が一番に愛しているのは彼自身で、そんな泉ちゃんを愛しているレオくんとの関係性は、もうこのまま変わることはないと思っていたのだ。『恋はタイミング』なんて格言もあるけれど、踏み出すきっかけみたいなものがあったなら、参考までに聞いておきたい。
    「……気づいたの」
    「何に?」
    「俺は、れおくんといるときの俺がいちばん好き」
     泉ちゃんはアタシの余計な詮索とお節介を一蹴して、またしても当たり前のことのように言い放ったのだった。
    「ちょっと何よ、その理由~。めちゃくちゃ泉ちゃんらしいわねェ!」
     なんとも彼らしい唯我独尊な言い分に呆れつつ、その『らしさ』が本当に嬉しくて誇らしくて、どんなに迷惑をかけられたって、アタシだけは最後まで二人を応援しようと心に誓った。
     泉ちゃんと同じく、自分が一番大事なアタシにとって、それは相当特別なことに思えた。

     この辺りから一気に全てが楽しくなってしまったアタシは、次々と高いお酒を注文しちゃって、その後の会話の内容は全然覚えていない。愚痴という名の惚気話を延々と聞かされた記憶もあるけど、それはいつも通りのことすぎて、この夜の告白よりも前だったのか後だったのか、はたまたつい先週のものだったのか、記憶は全く判然としない。

     多分、鳴上嵐が二人の恋を応援したい理由は色々とあって、その中に酷く利己的で願望じみた一つ二つが混ざっていたことを、アタシは決して否定できない。だからそんな重たく汚いごちゃごちゃを、些細なことみたいに振り切ってみせた先達せんだちの澄んだ瞳は、眩しいくらいに美しく輝いて見えたのだ。
     それはもう、微笑ましくって羨ましくって、ちょっと妬いちゃうくらいには。


     そうしてそれから二年も経たない内に、今度は二人の破局を聞かされることになる。
     交際開始を知らされた時と同じく、落ち着いた雰囲気のバーカウンターに二人並んで、グラスを傾けている時だった。いつものようにウキウキと、レオくんとの同棲生活への文句を並べたその口で「まぁもう別れたんだけど」なんて、たった今思い出したかのように告げられた。あっけらかんとした口調のわりに、滲むように浮かべられた寂しさと未練たっぷりな自嘲の笑みが、それが一時の癇癪でも冗談でもないことを知らしめる。
    「………え? 別れたって……どうしてよ?」
    「言いたくない」
     数秒言葉を咀嚼した後、思わず強い語気で問い詰めたアタシに、泉ちゃんはあからさまに眉をひそめてそっぽを向く。
     持ち上げかけていたロックグラスを勢いよく机に戻したせいで、重くて硬い音が鳴った。
     事実としては認識できて、あぁそうなのかと思うのに、その先の理解がついてこない。
     だって一番近くで見ていたはずの二人の仲は、変わってしまったようには見えなかった。なんだったらほんの数分前まで、愚痴という名の惚気話を聞かされているとさえ信じて疑わなかったのに。それが世間に露見するような様子だって、別に全然見えなかったのに。見えなかった、けれど?
     グラスの氷を意味もなく回すアタシの方を一度だけちらりと見てから、泉ちゃんはわざとらしくため息を吐き、淡々と言葉を続ける。
    「なるくんの見当違いな妄想は想像つくけど、違うから。心配しなくても『Knights』に迷惑はかけたりしない」
    「迷惑ってなによ……アタシが心配しているのは、そうじゃなくって……」
     その恋が世間にばれていなくとも、むしろ言えないからこそ、辛いものだと知っている。誰よりもファンを愛し愛されたいアタシたちにとって、それは存外心苦しい。あるいは世間の常識から鑑みて、そういう風には見てもらえない関係性が。
     その、時折り呼吸さえ困難にさせる足枷の重量を、多分アタシは誰よりもよく知っている。
    「隠すことが辛いなら、いっそ堂々と公表しちゃうっていうのもありだと思うわよ。批判もされると思うけど、そうなったとしても二人なら、ううん、アタシたち五人ならきっと――」
    「だから、そうじゃないんだってば。世間とかファンとか、男とか女とか、同じユニットだからとかは関係ない」
    「……全然意味が分からないわよ……だって、今でも好き…なんでしょう?」
     言葉の勢いをなくしてしまったアタシに対し、少しだけ表情を緩めた友人が視線を合わせ、ゆっくりと口を開く。
    「そうだねぇ。多分、俺と……れおくんだから、その関係じゃいられなかった」
     周囲に負けたわけじゃない、気持ちが変わったわけじゃない。これからも俺の好きな俺のまま、隣に立ち続けるために別れたのだと、降水確率0%の快晴の瞳で言い切られ、そのまま二の句が継げなかった。
    「理解されるともされたいとも思わないから、これ以上は言いたくない」だなんて、どう考えても負け犬の遠吠えにしか聞こえないのに。やっぱり自らへの愛情にしゃんと伸びた背筋からは、敗者の惨めさは漂わない。
     ともすると、それは自身に言い聞かせるようでもあったけれど、他人のアタシが説教を垂れていいような、そういう風な弱さじゃなかった。

     いつだって自己中すぎる先輩たちだ。勝手に交際を開始したと思ったら、アタシの応援なんかどこ吹く風で、勝手にそれを終わらせた。かと思えばその後もやっぱり、アタシたちの心配なんか意にも介さず、変わらず隣で、仲良く愛をうたっている。
     そうして結局、アタシの知る限り最初から最後まで。恋愛なのか友情なのか、以上なのか未満なのか、よくわからない二人の関係性の渦中において、彼らの涙を目撃することはただの一度だってなかったのだ。


     そんな二人の片方が、あろうことか、号泣している。
     イントロが終わった辺りからこぼれはじめた泉ちゃんの涙は、今もなお、その勢いを衰えさせない。顔を伏せず手でも覆わず、心の底から幸せそうに、人目もはばからずに泣いている。とめどなく溢れすぎて、すでにどれだけ意味があるのか分からないながら、それを時折ハンカチで拭ってくれるのは、彼を生涯の伴侶に選び、選ばれたあんずちゃん。
     新郎と祝福のピアノの一番近く。そこで世界一幸せな笑顔を湛える彼女もまた、きらきら輝く大粒の涙をこぼし続ける。
     本気で泣いちゃうとメイクが落ちるし目も腫れる。モデルどころかアイドルとしても、プロデューサーとしても失格なのに、背筋を真っ直ぐきれいに伸ばし、黙って涙を流す新郎と、それに寄り添い、優しくほほ笑む生涯の伴侶の姿は、これまでに見たどんな式場パンフレットの夫婦より、強くしなやかで美しいと感じた。 
     泉ちゃんは絶対に、今の己の美しさを自覚している。自分とあんずちゃんのためだけに作られた特別に幸せな音楽に包まれて流す涙の美しさを、寄り添い合う夫婦の姿の気高さを、誰よりもよく理解している。世界一美しいこの光景を、目に焼き付けろと叫んでいる。
     それがとてつもなく憎たらしくて、嬉しくて、羨ましくて、喜ばしい。仲間として。好敵手として。
     お腹の底からこみ上げる感情のまま隣の司ちゃんを見やれば、彼もまた、悔しそうでいて晴れやかな良い表情を湛え、美しい主役の二人と、途切れることなく音を奏でる仲間らの背中を見つめていた。

     アタシはきっと誰よりも泉ちゃんとレオくん、二人の恋を応援している、つもりだった。けれど結局のところ、それが始まった理由も終わった理由も、本当のところは何も知らない。ただ『一番好きな自分で、好きな人の隣にいるため』というそれだけしか教えられなかったから。
     そうして今まさに、それがきちんと叶えられているところを、まざまざと見せつけられている。

     そうね。きっとそう。
     失敗だった選択も、すれ違いも思い違いもたくさんあったけれど、間違った愛なんて最初から最後までひとつだってなかったのね。

     おめでとう、泉ちゃん。
     おめでとう、あんずちゃん。
     そしておめでとう、レオくんに凛月ちゃん。
     どう見たってこれは、完全にあんた達の勝利だわ。
     ううん、いいもの見せてもらったんだから、アタシもアタシらしく自分の愛を貫かなくちゃね。
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    二人はどうして付き合って、どうして別れたのか。
    ※いずあん要素はほぼないけど、新婦の描写が少々あるので、ダメな方は逃げてください。
    ※嵐ちゃんの解釈と感情が迷走気味。
    5、新郎友人 鳴上嵐 あーあ。本当にイヤんなっちゃう。
     なんて正しくて、なんて美しい結婚式。永遠の愛を誓う男女の晴れ舞台。
    『間違いなんて初めからひとつだってありませんでした』っていう幸せな空気が会場を満たし、やがて少しずつ、アタシの心の中にまで侵食してくる。

     梅雨の合間に開かれた、泉ちゃんとあんずちゃんの結婚式。アタシは泉ちゃん――新郎側の友人として、この祝いの卓に座っている。
     今朝までの長雨が嘘だったかのように広がる快晴の空は、清く正しい男女の婚姻を神様が祝福しているからかしら――なぁんて、今日のお式は神前式じゃないんだけどね。
     六月吉日。アタシたち『Knights』全員が招待されて参列する人前式は、本当に親しい相手だけを集めたような三十人程度の小規模なウェディング。海辺の小さなゲストハウスで開かれている新婦の手作りらしい結婚式は、ゲストも場所も入れ替えずにそのまま披露宴へと場面を進め、もう間もなく、新郎友人代表からのお祝いのスピーチが始まるところ。
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