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    mofuri_no

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    原作後、ヒュンポプ前提(ポプ出て来ず)のほんのりラー→ヒュン
    実りませんが暗くはないです。
    一応こちら↓の世界線
    https://poipiku.com/2942628/4977515.html

    ##hp
    #ヒュンポプ
    hyunpop

    むらさきの紫草のにほへる妹を憎くあらば 
    人妻ゆゑに我恋ひめやも      
    ー大海人皇子



    ラーハルトは数日かけて、パプニカ城下の武具屋、道具屋を軒並み回っていた。旅の準備のためだ。
    主の命で、魔界へ降りる。
    このところきな臭い動きを見せているヴェルザーの動向を探る必要があった。
    「ごめんね、本当はおれが行きたいんだけど」
    申し訳なさそうに話すダイに、
    「お側に控えるだけが忠義を示す方法ではございません。ダイ様の命であればなんなりと」
    ラーハルトは片膝をついて恭しく答えた。
    主の役に立てることは誇らしかった。
    魔界では人間は満足に活動できない。
    主君には地上で為すべきことがある。この探索には命じられた通り、自分とクロコダインが適任だ。
    そういえばダイ様捜索の折にはあの魔法使いも魔界へ降りていたな、とラーハルトは思い出す。
    人間のくせにかなり無理をしていたが…。


    あらかた必要なものを買い終えたラーハルトの目が、ふと、装飾品を集めた一角に向けられた。
    青い宝玉が美しい、この指輪はダイ様に似合いそうだ。
    そういえば姫への贈り物を探されていたな。対になるものが良いだろう。
    レオナに似合いそうな女物のリングを、見るともなしに探す。
    と、次に目に飛び込んできたものを見て、ラーハルトはあることを思い付いた。
    ダイ様の指輪は急がない。今回はこれを求めよう。
    ちょうどよいタイミングだ。


    道具屋を辞したラーハルトは、その足で友であるヒュンケルの住まいへと向かった。
    「旅に出ることになった。その前に顔を見ておこうと思ってな」
    突然の来訪を然程驚きもせず迎え入れてくれたヒュンケルに、訪問の理由を簡潔に告げた。
    ヒュンケルはラーハルトの言に、目を細め息を吐いた。
    「魔界、か」
    知っているなら話が早い。
    以下略とばかりに次の用に進もうとするラーハルトを手で制し、
    「おまえのことだから、要らぬ心配だろうが…」
    ヒュンケルが口を開く。
    と、すぐさまラーハルトが返した。
    「もちろん要らぬ。抜かりなく準備は整えてある。クロコダインも一緒だ。デルムリン島から直接向かうそうだ」
    「…そうか。なら安心だな」
    ヒュンケルの視線が旧友を思い明後日を彷徨った。
    ゆっくりと思い出に浸ることを許さず、せっかちなラーハルトが徐に拳を突き出す。ヒュンケルの目の前で開くと、その掌には小さな袋が乗っていた。
    「オレに?」
    ヒュンケルは目を見開いた。
    ーーたまたま道具屋で見つけたので求めてきた。おまえに似合いそうだったから、
    とラーハルトは珍しく視線を泳がせる。
    ヒュンケルが不器用な手つきで簡単な包みを解くと、それはフープの部分に小さな紫の石が嵌め込まれているピアスだった。
    「これは…しかし」
    どう受け取ったものか逡巡するヒュンケルに、
    「受け取れ。祝いだ」
    ラーハルトは半ば強引に押しつける。
    「祝い?」
    怪訝な顔をするヒュンケル。
    「もう一つある」
    とラーハルトが顎でしゃくって促したので、ヒュンケルはもう一度袋に手を突っ込む。
    果たして袋の底に、緑の石をあしらった一回り小さいピアスが残っていた。
    先程のものと対になるデザインのようだ。
    「魔法使いの分だ」
    「…!」
    ラーハルトの声に取り立てて感情はこもらず、淡々と響く。
    「このくらいなら気にならんとは思うが。今揃いでつけるわけにはいかんのだろう。人間は面倒だな」
    腕組みして呆れたように続ける。
    「その石は小さいが宝玉だそうだ。魔除けになると言うから、良ければ着けなくても持っておくといい」
    ヒュンケルの瞳に驚愕の色が浮かんだ。
    「ラーハルト…」

    「ダイ様の婚礼には何を置いても馳せ参じるつもりだが、おまえたちまで手が回らんかもしれんのでな」
    知っていたのか、とは言わず、ヒュンケルは感謝を述べた。
    「ありがとう、大切にしよう…。ポップの分も礼を言っておく。…あとで本人が行くと思うが」
    「要らん。そういうのが面倒でおまえのところに一番に来たのだ」 
    あの魔法使いがどんな顔をするのか、少し興味はあったが。
    「…すぐに発つのか」
    「ああ、ほとんど準備はできている」
    「そうか…すまん、何も餞別の用意がない」
    本当に済まなそうな顔をするヒュンケルに、ラーハルトはようやくフッと笑った。
    「要らんと言っている」
    「では、せめて再会の杯を奢らせてくれ」
    ヒュンケルは真剣な顔で言った。
    「おまえの帰りを待つ友がいるということを、心に留め置いてほしい」
    「……いいだろう。思い切りたかってやろう」
    「必ず帰れよ」
    胸に拳が当てられた。
    「わかっている」
    ラーハルトは目を閉じた。
    その頃には、今この胸をぼんやりと漂っている光もきっと輝きを失っていることだろう。
    それで良い。
    己の道を照らす灯は、生涯主君への忠誠のみと誓ったのだから。

    「じゃあな」
    握手を交わすような間柄でも性分でもない。
    さっさとドアへ向かう後ろ姿に、何か言いようのないものを感じてヒュンケルは思わず声を上げていた。
    「ラーハルト」
    「…なんだ」
    振り向いて問う声音はいつも通り。
    「…すまん。なんでもない」
    ヒュンケルは首を振った。
    「クロコダインに宜しく伝えてくれ」
    「ああ」
    そこでラーハルトは口の端を上げて意地悪そうな笑みを浮かべ、捨て台詞を吐いた。
    「魔法使いに飽きられぬようせいぜい励め」
    「…早く行け!」
    今度は振り向かず、うるさそうに片手を上げるラーハルト。
    バタンと閉まったドアをヒュンケルはしばらく見つめ、ふうっと息をついて掌のピアスを握り締めた。
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     商店街にある落ち着いた雰囲気の喫茶店。目の前の特徴のあるハネっ毛の学生服の少年がオレの顔を伺いながら、目の前にあるアイスとさくらんぼの乗ったメロンソーダをつつく。不安げにこちらとメロンソーダを交互に見る様子を見てヒュンケルは懐かしい光景に思いを馳せていた。

     ヒュンケルには、生まれた時から今の世界と違った世界での記憶がある。文明の発達の仕方が現代とはまるで違う、世界地図さえ異なる剣と魔法の世界の記憶だ。その世界で戦士として、一時は魔王軍に身を堕としながらも勇者一行と共に戦った。これは決して妄想などではなく、事実であり、幼い頃からヒュンケルはその記憶と現在の精神とのギャップに悩まされてきた。何せこの鮮明な記憶を共有できる人間が周りに誰一人いない。ヒュンケルにとっては剣と魔法に縁のない見知らぬ世界にたった一人取り残された気分だった。このことはヒュンケル自身物心がついた頃から誰にも話さず心にしまい込んでいた。
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