「あのっ……賢者の魔法使い様!」
ランズベルグ領の異変が無事に収束し、そろそろ魔法舎に戻ろうかと準備をしていたレノックスは背後から声を掛けられた。
振り返ると、両親に付き添われてきたらしいひとりの少女が立っていた。ミチルやリケよりもずっと幼い顔立ちで、年は十に満たないぐらいだろうか。太陽の光を浴びたヒマワリの花弁のように、鮮やかな色の髪と瞳をした少女だった。
話しかけたはいいもののそこから言葉が続かないようで、胸の前に何かを抱えたまま俯きがちに地面に視線を送っている。
「ほら、マーシャ。伝えたいことがあるんでしょ?」
マーシャと呼ばれた少女は両親に促され、意を決したように恐る恐る一歩前に足を踏み出した。そして大事そうに抱えていたそれを両手で差し出した。彼女の手の中にあったのは、丁寧に包装された小袋だった。
「これ……私の家の畑に咲いたヒマワリの種です。植えたら、きっと綺麗に咲くと思います。だから……」
レノックスは頬をわずかに赤く染め、ところどころ詰まらせながら言葉を紡ぐマーシャの前に片膝をついて目線を合わせる。それから、彼女がそうしてくれたように両手で小袋を受け取った。
「ありがとう」
レノックスがそう言うと、マーシャはますます頬を赤くして母親の後ろに隠れてしまった。
「すみません。この子がどうしてもって聞かなくて……良かったら受け取っていただけませんか?」
「ええ、もちろん。大事にします」
レノックスの返事にマーシャの両親は安堵の表情を浮かべ、深々と頭を下げた。