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    tada_00_

    @tada_00_
    自分用書きかけ倉庫。何の手直しもしていない、いつか書けたらいいなの健忘録。ぶつ切り。その他。

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    tada_00_

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    原作軸難しくありませんか……?書ける気がしません…
    見直しもしないままめちゃくちゃ中途半端なとこまで晒す。

    ちょいたぁ…… じわ、と黒い靄が滲み出す。肌に絡みつくような粘着質な不快感が表皮を撫でて、反射的に一瞬だけ毛が逆立つような感覚を覚え悠仁は勢いよく顔を上げた。
    「悠仁……」
    「俺が囮になる。高架下で落ち合おう」
     脹相が悠流し見ると険しい表情で前を睨みつける悠仁の姿が映る。纏う空気を張り詰めさせると、視線もくれずそれだけ言い放って砂塵を上げて走り出した。人が出せるとは思えない脚力であっという間に点となるその背を視線で追いかけると間も無くして脹相もゆらりと静かに動き出した。
     呪霊の残穢と悠仁の気配。その二つが重なり切る前に追い付かなければならない。適応力の高い悠仁が脹相を戦力として組み込むのは早く、また脹相の力の使い所を飲み込むのも早かった。お互い戦闘経験は浅い。ながらも専門機関で幾分か鍛え上げられている悠仁の方が、こと呪霊大事に関してはズブの素人の脹相よりは幾らか先輩だ。作戦の基盤は悠仁が定め、トライアンドエラーを繰り返すうちに元々の戦闘センスの高かった脹相も口を出すようになっていた。それでも作戦の基本は変わらない。悠仁が集め、二人で叩くのだ。
     初めは悠仁ばかりがリスクの高い囮役を担う事に難色を示していた脹相だったが、半呪霊という特殊な体質が関係あるのかは知らないが囮役としてはうまく機能できなかった。それを早々に理解してからの脹相の切り替えは早く、あとはサポートに全力を尽くす事に徹した。詰まらない意地と矜持に囚われて時間を無駄にするには悠仁の現場は厳し過ぎた。目の前の敵を少しでも早く、効率的に斃す。その一点に注がれる病的なまでの決意は殺意を隠れ蓑に今日もまた拳として降り注ぐ。
     遅れて辿り着いたそこでは既に悠仁が拳を奮っていた。剥き出しの歯茎に不自然なほど整った白い歯。汚泥が溶け出したように垂れた赤黒い皮膚に、臭気を具現化したかのように黒い靄がかかっている。呪霊はその無駄に大きな掌を振り上げ、鋭い細い爪を怒らせ悠仁を刺し殺そうと勢いよく地面へ向かって突き刺す。敏感にそれを感じ取った悠仁は相手にそれを気取られないギリギリのタイミングを見極めて躱す。その一瞬視線が交わされる。スッ、と脹相の両手が持ち上がるとピタリと掌が合わさる。
    「百斂」
     ぽそりと小さな声が口から漏れ出ると同時に悠仁は避けた勢いのまま大きく旋回する。グッと肩から腕が後退し、拳が呪力を纏い青く光る。靴底がコンクリート片を踏みしめジャリジャリと音を立ててから一気に蹴り出しされた。目にも止まらぬ速さで駆け抜けるとその膝が呪霊の、人間で言うところの腹部の辺りに叩き込まれる。作り物みたいな歯列が割れて透明の液が吐き出されるとバックステップで距離を取り、休む間もなくまた駆け出す。背後に回ると振り向きかけた臀部から伸びた尾のようなものが脈打つようにのたうち悠仁を襲う。それを右腕でガードし、空いた拳で渾身の一撃を叩き込むと下腹部に風穴が空いた。ギェ!と耳を塞ぎたくなるような濁音混じりの断末魔がビリビリと空気を揺らす。するとボコボコとタールが泡立つように体が盛り上がりそれまでの質量を超えて肥大化していく。それを確認すると悠仁はふと拳の力を抜き背後へと下がる。安全地帯まで退避したのを確認すると脹相は張り付いたように重たかったその口を開いた。
    「穿血‼︎」
     打ち出された血液は音速を超え呪霊の胸を貫いた。
     ビクリッ。
     ピタリと動きを止めたかと思うとその聞き苦しい悲鳴も止み、足の先からサラサラと風に溶けるようにその体が解けてゆく。その醜悪な姿を他所に命を散らして消えていく様はいっそ儚く美し気でさえあった。
    「悠仁」
    「取り敢えずこの辺りの呪霊はこれで最後か」
     手に付いた砂埃を落とすように擦れた拳を細かに振り払いながら悠仁が近寄ると、脹相は細かに視線を走らせて損傷を確認する。頬が裂けて血が滲んでいる。唇は裂け、振るった拳は細かな裂傷が数多く存在する。酷使した足は膝から微かに血の気配が漂い、隠してはいるが足首は痛めているようであった。
    「もう暗い。雲も厚くなり始めている、今日は休むぞ」
    「っ、おいッ」
     そう言い逃げると脹相はさっさと身を翻して歩き出した。死闘を繰り広げた後に合流してからその先、あの業火のような殺意は鳴りを潜めいっそ献身的なまでに悠仁へと心を砕いてくれている。それ自体はもう疑うべくもなく、しかしだからこそそれだけ執着する“弟”への愛情も未来も奪ったのは自分だと言う自責が悠仁を苦しめた。拒絶を示す一方でその引け目が完全に脹相を拒む事を否定していた。今だって別に脹相に従わなければならぬ言われはない。しかし遠くなる背を黙って見送る事もできずその背を追わずにはいられなかった。ザリ、と砂塵が擦れる音がする。自然と動き出した足は脹相の元へと向かっていた。人の言葉など聞く気がないようで、悠仁が苦もなく追いつける歩幅でゆっくりと歩みながら待つ男の隣に立つために。
     さして時間もかからず、手を伸ばせば触れる距離まで近付くと悠仁の足は速度を落とす。斜め後ろ。半身下がったそこが脹相の定位置となっていたが今は悠仁がその位置に収まる。括った黒髪が歩く度に僅かに揺れる。決してこちらを向く事はなかったが意識だけはしっかりと悠仁を 捉えている事は分かった。その上で微かに左右にずれる顔の先が、今日泊まる仮住まいを探しているのを悠仁へと知らせる。
     ポツリ。一筋の雨が悠仁の裂けた頬の傷に寄り添う。ピリリとした痛みに本能的に顔を顰めると脹相が節くれ立った手を上げて一カ所を指さした。
    「あそこにしよう」
    「……あぁ」
     指が示す先に視線をやると入り口が崩れ落ちたホテルのようなものが見えた。出入り口と二階の右側三分の一、そして三階の一部が削られているものの他は殆ど目立った損壊はなかった。所々チカチカと明かりが明滅しているのが見えるため、きっと電気も生きている。こんな崩壊の限りを尽くした町の中で悠々とホテルに宿泊とは……そんな皮肉が頭をよぎるがブルブルと頭を振って物理的に思考を飛ばす。休息は必要だ。休んでいる暇はない。けれども人である以上疲労や肉体的ダメージは蓄積されていく。それが降り積もって万全のパフォーマンスが阻害された時、被害を被るのが自分だけならばいいが他人を巻き込む危険がある。
     チラリ、その青白い顔を盗み見ると黒い瞳が淡く揺蕩った。
    「雨が強くなる。早く入ろう」
     無言で頷くと広く大きな背を追う。未だ見慣れぬそれは酷く頼もしく、その分だけ悠仁の心を苦しくした。



    「湯が使えてよかったな」
    「ん。さっぱりした」
     ガシガシと備え付けてあったタオルで髪を乱暴に拭きながら悠仁が風呂から出て来ると、脹相は風呂へ向かう前と全く同じ体勢のまま視線だけを悠仁へと向けた。
     雨に降られ濡れた髪の先からぽたりぽたりと雫が垂れている。
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