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    mukibutu_09

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    mukibutu_09

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    無い幻覚のマルさんと女の子。
    添い寝してるだけ。
    女の子が14〜15くらい。たぶん。

    本当の姿は少女がマルファスの部屋に唐突に現れてからそれなりの年月が経った。城の使用人の「旦那様がいつか気まぐれで殺すのではないだろうか」という心配も今のところは杞憂であり、2人は親子のように添い寝をする仲だ。
    少女の見た目も徐々に大人のそれに変わっていってはいるが、何分この城にはそういったことを教える人が居らず、少女は薄手のネグリジェを着て恥じることなくマルファスの寝所に潜り込む。
    薄いブロンズで緩くウェーブのかかった柔らかな髪を惜しげも無くベッドの白い布に広げれば、少女はすよすよと寝息を立て始める。胸元には小さな頃にマルファスから貰い、今では少しボロくなったテディベアも一緒だ。

    マルファスが部屋に帰ってくれば、自身のベッドで先に深い眠りに落ちている少女が目に入る。いつもの事なので全く気にも止めない上、彼女のそういった行動を「年頃なのだからそろそろ寝床は分けた方がいい」などと躾直す気もサラサラ無いのがこの男である。
    綺麗に結われた青の三つ編みを解き、シャワーを浴びる。ゆったりとした寝間着に着替えれば、その他の雑務もそこそこに、躊躇うことなく少女の隣へゴロリと転がる。あどけない顔で眠る少女を見つめ、ふわりと軽い手触りのボブの髪を撫でる。また、少女自身は無自覚だが、彼女の顔は整っている方だ。長く上向きにカールしたまつ毛とスッと通った鼻、フニフニと柔らかそうな唇。頬を撫でればしっとりとして白く滑らかな肌が彼の大きな手に収まる。
    今はまだ彼にその気は無いが、少女を愛らしいと思う気持ちもあれば、少女の外見が良いという認識ももちろんあるわけで、一人の女性として見るのも時間の問題であることは付け足しておこう。
    モチモチと頬をつついていると少女が「ん…」と呻いたので触るのを切り上げ、部屋の照明を落としてしっかりと布団を被る。
    寝落ちる前に彼女の肩に腕を回して抱き寄せる。ゆっくりと落ちる意識の中、少女が目の前に来た彼の寝間着をキュッと握るのが視界の端に写り、彼の意識がゆると綻んでそのまま深い眠りへと落ちていった。

    翌朝、先に寝ていた少女がマルファスよりも先に起きるのはまあごく自然な事である訳だが、これはどういうことだろうか。
    少女の目の前には真っ黒でモフモフとした塊が、少女の上には漆黒の艶のある翼が。ウトウトと微睡んでいた少女も目の前の見知らぬ黒い塊を認識した途端パチクリと目を瞬かせる。
    テディベアもあるし、被ってる布団も、布団の隙間から見える景色もいつものものだから、様子がおかしいのは目の前の黒いモフモフの塊だけである。
    恐る恐るモフモフを見上げればやはりというか、黒い嘴のカラスの頭が見えて、大きなカラスではないかという少女の予想は的中した。
    こういったものをあまり見慣れてはいないが、心当たりはあった。城のメイドの中に獣に近い姿の人がいたはずだ。その事を考えると目の前の大カラスも得体の知れない化け物ではなく知人の可能性があるのではなかろうか。具体的に言うとマルファスである可能性が。
    静かに寝息をたてる大カラスの首から胸にかけてを恐る恐る触る。艶のある羽毛は手触りがよく、撫でる少女の手は止まらない。段々と楽しくなってきた少女の思考からは目の前の大カラスが何なのか考えることがコロリと抜け落ち、少し眠たげな目を輝かせて興味津々で色々なところをまさぐり始める。
    翼の先の大きな羽や布団の中のカラスの足、首元の黒い羽毛とマルファスの髪色そっくりの青の羽毛、硬い嘴を下から撫でれば大カラスはくすぐったそうに身動ぎした。
    モフモフの羽毛に惹かれて少女がさらに身を寄せる。ズリズリと身体を動かして顔を大カラスの胸あたりに埋める。そこでようやくカラスが目を覚ます。
    「んあ……」
    まだ眠たげな男の声が少女の頭上から落ちる。マルファスの声だ。
    彼は自身から伸びる漆黒の翼を数秒ぼんやりと見つめ、勢いよく身を起こす。
    「…ちょっ…と待て。……あ?」
    理解が追いつかない様子の男の下から少女が身を起こす。
    「レティシア…」
    彼からレティシアと呼ばれた少女は眠たげな緑の瞳を彼に向けてじっと見つめる。互いに無言のまま見つめ合ったのも束の間。
    「いや、すまん。少し取り乱した。この姿は怖いだろう?すぐに戻…」
    口を開いた男がまたすぐに口を閉ざした。半開きの口と視線の先にはヒシと己にしがみついて離れない少女の姿があった。
    「レティシア?どうした?」
    できるだけ恐怖を煽らないように柔らかな声で尋ねる。撫でようにも上手く撫でれないカラスの羽で少女の頭に触れる。
    「…カラスのおじさんも、好き、だよ」
    普段あまり口を開かない少女はここぞと言うタイミングで言葉を発するのが上手かった。
    少し頬を赤くして照れながらも自身に抱きついてくる少女の姿に、マルファスの気分は起き抜けのマイナスから一気にプラスへと転じた。
    「そうかそうか〜」
    ご機嫌そうに羽で少女の頭をポスポスと軽く叩き、少女を少し遠ざけてから人型へと戻る。
    「こっちとどっちが好きだ?」
    両腕を軽く広げておどけてみせる彼に少女は少し眉を下げて困ったような顔をした。少女はオロオロと視線をさ迷わせ、手を胸元で握り合わせる。
    「あ〜、いや、言いづらいなら別に無理して言わなくても」
    カラスの方が好きだったか…と諦観した気になるマルファスへしどろもどろに少女が言う。
    「えっと、違くて、あの、どっちも、…好き、だから。選べなくて…」
    彼が目を丸くして驚いたのも数瞬で、次はふにゃりと眉を下げて笑う。
    「そうか〜」
    今度はしっかりと触れ合える人の手で少女の頭を撫でる。ふわふわピョコピョコと跳ねる彼女の寝癖を撫でつけて、
    「身支度を整えるか」
    と一言。少女もその言葉に頷いてベッドから降りる。
    「…おじさん」
    「ん?」
    「たまにでいいから、カラスの姿で添い寝してもらってもいい?」
    「おお、いいぞ」
    寝間着姿の男女が部屋のカーテンを開けながら少し控えめながらも楽しそうに会話をしていた。
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