鬼火を纏いし黒い虎は雷炎と遊ぶカムラの里の近くにある大社跡。
朽ちた社の前の、今では沼地となっているそこは清らかなせせらぎが流れる、夏になると鮮やかな桃色の蓮が咲き乱れる美しい所だった。
立派な社と蓮畑。それはまるでこの世のものとは思えない神聖な空気が流れる場所。
そこに掛かる小橋に立つ男と女。
二人は明日祝言をあげる。
千歳茶色の髪の男はカムラの里の、優しくも逞しい美丈夫。
その男に寄り添う女は濡羽色の髪をしていて聡明で美しい。
静かな、時が止まったかのようなこの場所で大輪の蓮を眺めていた。
「いよいよ明日だね…今から緊張してしまうよ」
君の白無垢、楽しみだなあ。照れたように男が笑う。
勇敢にモンスターに立ち向かう方が緊張などと何を言うのです、と女が笑い返した。
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